第21章
探索を終えたルシェットは貸し住宅へ
戻ってきた。
「ただいま!」
勢いよくドアを開け、数秒後異変に気
が付いた。
誰もいないのだ。
「……あ、あれぇ?」
それと部屋中に漂っていたはずの眠気
を誘う香りはほとんど切れていた。
部屋をくまなく探したが、やはり誰も
いない。シャワーにもトイレにも誰か
が使用中というわけではないようだ。
「……皆を探さなくちゃ」
皆を探すことはいいが、不安も感じて
いた。
それはルシェットが「適合者」と呼ば
れている事実が街中に知れ渡っている。
別の言葉ではルシェットは異端とも呼
ばれている。よく利用する施設や店以
外では話すら聞いてもらえない。
しかし、今は好都合だった。利用した
ことのある場所をしらみつぶしに探せ
ばいいのだ。
だが、どの店を調べてみても見つから
ない。ということは知らない場所へ連
れ去られた可能性が高い。ルシェット
は無視されるのを覚悟の上で聞いてみ
た。
散々迷った挙句に到着した場所は街の
はずれにある小さな店だった。
店の中は暗く、小さな照明が店の中を
照らしている。
「待っていたぞ、ルシェット。お前を
な」
「え、なんで……というよりどうして
私の名前を知ってるの?」
「ああ、言わんでもいい。お前は有名
人だからな」
「あの、えっと……ちょっと人を探し
てるんです」
「人探しなら後から説明するぞ。……
ふむふむ、ルシェット、お前は高度な
魔法を使いすぎた。例えば空を飛んだ
り、強めの火属性の魔法を使ったりな」
その言葉にルシェットはコクンと頷い
た。
「いいか、ルシェット。お前は魔力は
あってもそれを受け止める精神力が未
熟なんじゃ、特に空を飛べる魔法は禁
止じゃな。……何故かわかるか? 空
を飛ぶ魔法は魔力と精神力両方に莫大
なエネルギーが必要とするんじゃ」
「じゃあ、空を飛ぶ魔法の手助けをし
たエリュニスは……」
「ああ、そこに寝ている優男じゃな。
奴にはしばらく休んでいてもらう。治
癒の魔法が必要になるかな」
話を聞き、ルシェットは考え込んだ。
ルシェット達のパーティに治癒魔法が
使えるのは今のところエリュニスしか
いない。それに使えるのは初歩的な治
癒魔法だけだ。
「まあ、そう考え込むな。分かってい
るぞ、治癒の魔法が使える司祭が欲し
いんじゃな?」
「う、うん……確かにそれはそうだけ
ど」
「こっちへ来い、……うん? あぁま
た遊びに出かけたのか、困ったものじ
ゃ。ルシェットよ、すまんが連れ戻し
てくれ」
「わ、分かった。けど私一人?」
「そうじゃ、ほかの皆は眠ってるしな
……準備はいいか?」
「うん、……大丈夫」
「よし、私の後についてこい。……こ
の扉の先はお前一人だ」
「え、えっと……。が、がんばります」
「うむ」
扉を開けて中に入ると不思議な光景が
眼の中に飛び込んできた。
薄いピンクのようなパープルのような
色が混ざりあった空の景色だ。
不思議な色の幹と葉っぱの木があちこ
ちに植えてある。
それになぜか花と果物か菓子のような
甘い香りが漂っていた。
(そういえば、ここってどこか見覚え
があったような……)
歩いていくと、段々と菓子で出来た柱
や扉、床等の景色へと変わってゆく。
(この床……ビスケットみたいだ……
木の柱は固いクッキー……それから、
キャンディケーンで出来たような街灯)
しかし、人はいなかった。人がいない
ということは探しやすくもなるだろう。
甘い香りで食欲を刺激される。
(……ああ、お腹が空いた……昼ご飯
まだだっけ……)
菓子を食べてくれといわんばかりに強
烈な匂いがする。それは奥に進むごと
に強くなっていった。
(うう……そこら中に甘い匂いが……。
多分食べたら駄目だろうなぁ)
ビスケットの床は意外に硬く、歩いて
もヒビが入っていくことはなさそうだ。
空腹と闘いながら進んでいく。色とり
どりの菓子で作られた風景から、チョ
コレートのみで作られた景色に変わっ
ていった。
茶色、黒、白、多分苺が練りこまれた
ピンク色をした板チョコレート。床も
窓も壁もチョコレートだ。
そっと触ってみるが、不思議と溶ける
気配がない。
更に先を進むと飴の風景へと変わって
いった。
「……あれ?」
飴の風景の中の奥に小さな人影を見つ
けた。
気になり奥へと進み人影に話しかけて
みる。
「……あの……?」
いたのは小さな子供だった。しかも髪
の色も瞳の色も変わっていて、耳がと
がっていた。
エルフの女の子だ。白いワンピースに
同じ色のキュロットスカート、サンダ
ルを履いている。サーモンピンクのふ
わっとした髪の毛にエメラルドグリー
ンの瞳、とがった耳は小さな子供がエ
ルフ族という証明になる。
少女は赤と白の混ざった棒付きのキャ
ンディをなめていた。
キャンディから口を放すと少女はルシ
ェットに返事をした。
「……だあれ……?」
「あ、私はルシェット あなたはだあ
れ? もしかしてお腹空いてるの?」
「わたし、ミアナっていうの。……ん
ー、よくわかんないけど甘いの好きだ
からずっとなめてる。お姉ちゃんはわ
たしに用事なんでしょ?」
「……う、うん……よくわかったね」
そういわれると少女は悲しそうな顔を
した。
「あーあ、またなの? 誰もわたしを
見てくれない……」
「ど、どういうこと?」
「ほとんどの人は誘惑に負けてお菓子
を食べてから会いに来るの」
「で、でもあなたは食べてるでしょ?」
「うん、子供だもん」
「ああ……そっか……」
「お腹空かない? 飴あるよ?」
「大丈夫なの?」
「うん、この場所では大人は食べちゃ
駄目だけど子供なら平気だよ」
そう言われ、飴を一つもらった。半信
半疑で飴を口にほうりこむ。甘いミル
クの味がした。
「……あぁ、美味しい」
「そんなに美味しかったの?」
「そだね、お腹が空いてたから。あな
たは何でここにいるの?」
「だってここ、お菓子がいっぱいなん
だもの。でもちょっと飽きたかも」
「私はあなたの治癒の力が必要なの」
「……ねぇ、外に出たら美味しいもの
ある?」
「えっと、そうだね。食べ物に飲み物
にこの部屋以上に色々なものがあるよ
服も靴も色々あるし」
「ふぅん……どうしよう」
「多分食べるものは沢山あるよ。この
空間にあるもの数倍はあるんじゃない
かな」
「……うーんと、行く!」
「じゃあ入り口に戻ろう」
「うん、分かった!」




