第12章
小屋につく前に野宿をすることになり、
一泊した。
足が痛いこともあり、すぐに寝てしまう。
次に目を覚ますと、目の前に雲が浮か
び、近づくと甘い香りがする。
驚いて瞬きをすると、雲は消え、床は
ビスケット、キャンディーケーンの柱、
様々な菓子で出来た建物があった。
甘くて美味しそうな外観だが、食べて
はいけないような気がして見るだけに
留めておく。
きっと、これは夢なんだと思った。実
際に存在していたら、この風景は多数
のアリたちに食べつくされてしまうだ
ろう。
「あれ、起きましたか」
「エリュニス。あの、夢を見たの」
「どんな夢なんです?」
「お菓子が沢山出てくる夢」
「そうですか。……そうだ、足に湿布
をはっておきますね」
足にはった湿布がひんやりとする。
ここには甘い香りの菓子もないがそれ
を食べてしまってお仕置きをされるこ
ともない。
絵本の物語のように恐ろしい魔女が出
てこない事に心から安堵した。
「どうしたんですか?」
「いや、夢でよかったなと思って。で
も甘いものが食べたくなった」
「……それでは、これをどうぞ」
エリュニスが差し出したのは葡萄だっ
た。
「菓子もいいですが、こういう自然な
食べ物のほうが身体にいいかと思いま
して」
確かに夢の中には果物が出てこなかっ
た。夢の世界が作り物のように思えて
くる。葡萄を一粒食べると、皮の渋さ
と、甘酸っぱい果汁が口中に広がる。
「甘い……」
「菓子の甘さに慣れてると、あまりお
いしいと思えないかもしれませんが」
「ううん、これはこれで美味しい」
「それはよかったです」