閑話・メリスちゃんの反省会
「きふぃ」
「はい」
「すわって」
「はい」
夜。二人きりのテントの中。
僕は従順だった。
「あれ。なに」
「あれとは?」
「きふぃ」
……透明な視線が、僕にガシガシ突き刺さる。
いや、ふざけてるわけじゃないよ。僕はメリー相手にそんなことはしない。
僕はいつでも誠実でありたいと思ってる。
ただ、ちょっと心当たりが多すぎるだけだ。
「ええと、根回しを優先したせいで、到着が遅れたところ?」
メリーは首をふるふると振って否定する。
「じゃあ、ろくに説明を聞かないで石を投げたことかな?」
首をふるふると振って否定。
「それとも、石槍にしてみたこと?」
ふるふる首を振る。
「あ、わかった。考えなしに石槍投げて、戦闘の途中で武器手放したことだ」
ふるふる。
「えーーと? 困ったな、心当たりがない」
「きふぃ」
ひえっ。
メリーがなんか、すごい怒ってるぞ……?
ちょっと理不尽では?
「きふぃは。また、いのちを。なげようとした」
……いや、命を投げるつもりなんてないよ?
品目名『僕の命』は、僕の中で大事さベストランキングで五本の指に入る栄誉を誇ってる。ランキング上位を常にキープし続けている。
「きふぃは。えらぶように、せまった」
いや、それはそうだよ。
人には自由意志があるわけで、僕はそれを尊重したいと思う。仮にあそこで、父親を選んでいたとしても、僕はそれを恨んだりする気はなかった。
なにせ、知り合ってから何日かは経つ子だからね。一回くらいなら燃やされたり凍らされても、まあ……嫌だけど。すごく痛かっただろうけどさ……。
ちょっと痛いくらいなら……、嫌だけど、いいかなって。
振り返って考えてみても、そう思うよ。
「…………。めりも。えらぶ」
メリーはそう言って、僕を強引に引き倒して、覆い被さって、僕の身体をぎゅっと抱きしめ──痛い痛いいたい!!いだだだだだぁ!!
えっ本当に痛い! しかも重い!! 僕の胸にうっすい胸を押しつけないでください! あばらが、あばらが刺さるっ!!
上半身と下半身が分かれそういたいいたいいたいいた──────
キフィナスの意識は落ちた。
華奢な少女は、のしかかっている青年の髪をいつくしむように撫で、やわらかな頬を、青年の全身にこすりつける。
一心不乱に、執拗に、それでいて壊れ物を扱うように繊細に──メリスは、キフィナスのからだに触れる。
「めりは。きふぃだけを。えらぶ」
少女は、寝息を立てる青年の耳元で、ひみつの呪文を唱えるようにささやいた。




