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劇的ビフォーアフター


「あいたたー……」


 見上げると曇天模様の空が広がっていた。どうも大規模な模様替えをしたらしい。壁と天井と床を取り払うという大胆不敵な匠の技に僕は舌を巻いた。


 吹き飛ばされたとき、したたかに腰骨を打ち付けたと思ったんだけど。[どうやら気のせいで][無傷だった]。

 いたた、なんて口では言ってみたけど痛みはない。

 メリーのおかげだろう。先ほど縛りつけた暗殺者たちまで生きていた。


「ん」


「……ね、ねえさま……お屋敷が……」


「シア! 怪我は……ないわね。他のみんなは!?」


 辺りに倒れている召使いに、ステラ様は駆け寄っていく。


「マリク! ムマ! ルーナ! ヘイル! アマス! ……よかった。みんな呼吸はしてるみたい。他は──」


「……あ……、あ……」


 きびきびと生存確認を続けるステラ様に対し、シア様は呆然としている。

 ……見ていられないな。


「いやあ。こんなことならもっといいものを沢山貰っておけばよかったですね。失敗でした」


「……こんなときに、おまえは、なにを」


 こんな時だからですよ。


「というか。屋敷が壊れるとなにか困ることとかあるんですか? あー、天井がないのは困りますけど」


「……っ! ロ、ロールレア家には代々伝わる家宝が──」


「いいえ。今日この場にいた使用人34人全員、命に別状がないことは確認しました。すぐに目を覚ますでしょう。困ったことはありません」 


「……ねえさま? おやしきには、ねえさまの集めていた蒐集品も──」


「そんなもの、また集めればいいのよ。それに、瓦礫の下にまだ残ってるかもしれないわ。堅いものも多いのよね」


「一応言っておきますけど。メリーに瓦礫撤去とかさせたら全部壊れますからね」


「それは残念ね。けれど今は、惜しむよりすぐ避難すべきでしょう」


「……姉さま、それは」


「当家のダンジョンに潜るわ。あなたたちも、来てくれるかしら?」


「あー、これも依頼の一環ですかね?」


「そうなるかしら?」


「はあ。じゃあ、付き合いますよ」


 依頼なら仕方ない。

 貴族様と関わるとか普通に嫌だけど、僕は冒険者ギルドから目を付けられてるし。

 嫌だけど。嫌だけど、目の前で痛い思いしそうな人に手を差し伸べないっていうのも居心地悪いしさ。

 まあ当然、何よりは冒険者ギルドに目を付けられるかどうかってところが問題であって、ただの打算からくる行動なんだけど──。


「きふぃ。かわい」


 ……君にかわいいと言われる筋合いはないと思うんだけどなぁ、僕。

 あ、メリー。ちょっとそれ持ってて。よろしく。



・・・

・・



 貴族様の多くは、自前のダンジョンで資源を囲い込んでいる。出土する貴重資源を管理することは財と権力を増やしていくことに繋がる。

 蓄財とかいうゲームを飽きることなく四六時中してる疲れ知らずの人たちにとっての切り札であり、隠し持っていることはそう不思議なことじゃない。

 とはいえ。まさかそれが、邸宅のすぐそばだとはちょっと思わなかったけど。


「さっきシアはロールレア家の家宝がー、って言ってたけど。あんな棒きれよりこっちの方がよっぽど当家の家宝じゃないかしら?」


「……姉さま。ですがあの笏杖は王位継……」


 あーあー聞こえなーい。面倒なことになりそうな情報は最初から耳に入れなーーい。


「ここなら、ダンジョンの入り口さえ見張っていれば、刺客に奇襲される心配はないわ。まずはここで、これからの方針を考えましょう」


「それ考えるのも依頼のうちです?」


「そういうことにしておくわ。対価は弾むわよ?」


「そこは別にいらないですけど。アイデア出すくらいはしますよ」


 僕らは《次元の裂け目》をくぐって、石造りのダンジョンに入っている。

 暗殺者のうち、僕が棒で叩きのめした相手だけは一緒についてきてもらった。

 今も酩酊状態でふらふらしている。


「……姉さま。家人たちは……」


「あの爆発なら、すぐに憲兵隊が駆けつけてくるでしょう。寝ている彼らに危害を加えられる心配は……もちろん、あるけれど。それでも私は、あなたと私の命を優先するわ、シア」


「それに、彼らの中に裏切ってる人がいるかもしれませんしねー」


「……それは──」


「事実よ。この状況でいったい誰が信用できるのかはわからない。……私たちのために大立ち回りを演じてくれた貴方を除いてね」


「僕を信用するのも危険なのでは? 冒険者ですよ冒険者」


「屋敷の者より信用できるのよ? それだけで十分だわ。だって疑うのって疲れるもの」


「……わたくしも、おまえを、……姉さまがおっしゃったので。姉さまがおっしゃったのでっ。信用します」


「はあ。……えー、なんか変な空気になったな。これからの方針とやらの話に戻りましょうよ」


「きふぃ。かわい」


「かわいいとかよりにもよって君に言われたくない。僕らは今から話し合いをするんだ。どうせメリー参加する気ないでしょ」


「ん。どでもい」


「ええと。私から、いいかしら。基本的な方針について話すわね。まず、私たちはこのまま屋敷には戻らず、身を隠します」


「……はい。復旧のために指揮を取れないのは心残りですが、それがよいでしょう。襲撃の協力者が潜んでいる可能性は……否定できません」


「そうですねー。いると思いますよ」


 僕がちょうど屋敷にいる時の犯行とか、ちょっとタイミングがよすぎる感がある。僕は長居する気とかなかったわけで。

 二人を殺した上で僕に……ひいてはメリーに濡れ衣を着せようとしてる動きを感じてならない。

 それはちょっと看過できないぞ。


「不思議よね。私たちすら貴方がいつ来るのか知らなかったのに。わたし、日付や時刻の指定をしていないもの」


「……姉さまは最初から、屋敷内の不穏分子を炙り出そうと考えておいでだったのですか?」


「考えてた……、って言えたらカッコいいお姉ちゃんだったんだけどね。単に忘れてただけよ。それでも、うっかりのおかげで警戒することができるわ」


「……屋敷の防御術式を外から突破することは困難ですが、内通者がいればその難度は減ります。それがいる前提で行動する、ということですね」


「そうよ、シア。疑いたくはないから、できれば正面から防御を貫いてきたって考えたいところだけれど……」


「えーと。すみません。詳しい方針を決める前に、やることがあると思います」


「やること?」


「はい。相手方の情報を揃えれば、方針の決め方も変わるかもしれません」


「……情報、ですか」


「ええ。シア様の視線の先に、多分ありますよ。情報」


 そのために、ここにひとりだけ持ってきたんですよ。刺客のひと。

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