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B級ダンジョン《サキュバスの巣》エピローグ


 ダンジョンの主を倒し、赤く輝くダンジョンコアを破壊して。

 僕ら四人は無事、迷宮都市デロルに戻ってきた。


「今日はありがとうございました、愛の人。本当に助かりましたっ」


「僕は愛の人ではないでーす。あなたは既に、自分からダンジョンに潜るという形で報酬も支払い終えている。これで縁切りです。病気の子がいるのなら、今すぐ帰った方がいいでしょ」


 というか帰って。


「はい。このお礼はいつか。必ず」


「いりませーーん。振り返らずに帰ってくださーーーーい。もう会わないことを祈ってまーーす」


 あなたが会話してる相手は、冒険者でもない人間をダンジョンに潜らせて、痛い思いと怖い思いをさせようとするような輩なんだからさ。

 そんなろくでもないのと関わったことなんて忘れて、元の生活に戻った方がいい。


 去っていくアイリーンさんの背中を目線だけで見送った僕は、アネットさんに向き直った。


「きふぃ。きふぃ」


「うん。……ちゃんと、アネットさんと話をするよ」


「ちがう」


「ああ、うん。今までの僕とは、ちょっと違うかもね。ただ、やっぱりお世話になってるからさ」


「も、いい」


 なんかメリーがすねた。……悪いけど、優先順位は今は下だ。

 僕は、すっ、と息を吸う。


 ──声が震えないように、一息に訊ねる。


「……覚悟は、決まりましたか?」



「………………なんの?」


「今更とぼけないでください。あなたは──自殺を、考えていたはずだ」


「は? え、ほんとにわからん。なんの話だそれ?」


 えっ?



「わたしが、そんなことするわけないだろ? 人の命は尊いんだ。わたしは、どんな相手にだってこの言葉を言ってきたし、きっとこれからも言い続ける。そんなわたしが、自殺ぅ? ないない。やるわけないだろ。考えたこともない」


「え、だってアネットさん、人間関係で悩んでるって……」


「え? ああ、あれか? ……わたしのじゃなくて、キフィナスくんのだよ!」


 はあっ!?

 なんですかそれ。え、アネットさん、まさか、そんなことでなんかやたら深刻そうな顔してたんですか?

 というかメリー、わかってたんなら最初っから言ってよ……。


「ゆった」


 いや、わからないし。

 ほんとわからん。わからないわからない。全然意味わからない。なんでこの人、そんなことで悩めるんだ。

 余計なお世話性高くないですか? というか困るー。そういうの困るーー。


「君すごいムカつく顔するな? 制服着てたら公妨取れるぞソレ」


「生まれつきですー。そんなことより僕の優しさ返してくれませんか?」


「そんな発言できる子はやさしくないだろ!」


「そうですよ。僕は優しくなんてないんですよごめんなさいね。ああもう、全部アネットさんのせいじゃないですか。謝ってくださいよ」


「なんで謝られた直後にわたしが謝ることになるんだよ!? 何に謝ればいいの!?」


「なんでアネットさんが謝る必要があるんですか。僕なんかに流されないでください。あなたは立派な人なんだから」


「どっちだよ! 何なのその態度の温度差!? 砂漠の昼夜か!? 体調崩すわ゛!!」


「いや、ダンジョンではこれくらいの温度差平気でありますよ。極寒からマグマ流れる地底とかあります」


「きみほんといちいち発言が適当だな!!」


 ……よし。

 これで普段の調子に戻せたぞ。

 アネットさん──本官さんは、僕を相手にぷんすかと怒っている。

 こっちもいつも通り──。


「……ところで。キフィナスくんは、いつも、街の人にああなのか?」


 あれ?

 なんか、声のトーンが低い。


「ああ、とは?」


「いや、頼みごとを聞いてあげながら、あんな風に別れたりするのか、って」


「ん? ええまあ。何か?」


「…………そうか。まあ、なんだ……。今日は、ありがとう。ダンジョンの奥まで潜るのは初めての経験だったが、その……、わたしも。色々と参考になった。うん。色々、ほんっっとイロイロあったけど。楽しかったよ」


 そう言って、本官さんはくるりと踵を返す。


「……だけれど。君を見ていると。わたしは、少しさびしくなる」


 去り際。

 アネットさんの背中は、なぜかいつもより小さく見えた。


 僕はその背中に、なんて声をかけたらいいかわからなくて。

 ただ、見えなくなるまで彼女の後ろ姿を見つめていた。



・・・

・・



 はあ……。

 それにしたって今回、全体的にカッコ悪すぎたなぁ、僕……。

 アイリーンさんには呑まれるし、アネットさんは盛大に勘違いするし、メリーに至っては忠告無視して腰抜かすし。


「……今日は、なんていうか、ごめんね」


「なにが」


 いや、色々。

 君けっこう人見知りじゃないか。連れてきた時点で、ちょっとごめんって思ってはいたんだ。

 その上で、最初にアイリーンさんの話を聞いちゃった時点で問題だし、アネットさんはなんか別れ際様子おかしかったし。

 ……自分からわがまま言ったくせに、あんなザマだったし。


「ん。きょうのきふぃは。ださださ」


 ダサダサかぁ……。

 ダサダサだよねぇ……。

 いやもう、正直ほんとに恥ずかしいよ。


「きょうのきふぃ。あまちょろ。おっちょこちょい。わがまま」


 あー、うん。返す言葉ない。ないです。

 君はSランク冒険者なんだから仕事は選り好みすべきで無償で受けるとか論外だし、アネットさんの件はなんかもう恥ずかしいくらい行き違えてるし、ダンジョンの扉開けてからの僕はクソ雑魚もいいところだった。

 なんかもう、もう、もう……。帰っておいしいもの食べてお風呂入って寝たい…………。


 ……わがまま、か。わがままだったよね、改めてさ。


「ん。わがまま。めりのいうこと。きかないと、いたい。こわい」


 痛みは君由来のものしかなかったけどね?

 怖かったのは……、まあ、そうだね。その通りだった。魔人が出たからって動けなくなるとか、思ってなかったよ。

 数百年単位で残ってる高ランクダンジョンなら、まあ魔人だって出るよね……。

 我ながら、自分がカッコ悪くて、情けなくてしょうがない。


「でも、めりは。うれしかった」


 …………そうかい?


「ん」


 僕、足手まといじゃなかった?


「あしでまといだった。でも。うれしい」


 え。……それって両立するものかな?


「する。ださださと、かっこいいも。する」


 そっか。メリーの特殊な感性だと、そうなるのかい?

 まあ、いくら幼なじみって言っても、僕の感性と君の感性は共有してないわけだし。

 メリーがそう思ってくれるなら、いいんだけど。


「ん」


 ……まあ、思い返すだけで悶絶しそうな経験だけどさ。


 それでも、君を喜ばせることができたなら。

 僕は今日、この一日の選択に後悔はないかな。

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