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メリス帰る


「あー…………、おかえり。メリー」


 ──さて。どう説明したものかな。


 僕はベッドの上でインちゃんに縛られてる最中だった。

 目つきが怖いし息づかいが荒いのに妙に手つきが丁寧でメリーがやったやつより快適だなーとか思いながら縛られてた。


 その横には子どもたち。そろそろ今晩の寝床について、そしてそれ以降のこと──具体的にはこの子たちがこれからどうやって生きていくのか話し合いをしようとしてたところだった。

 そこは縛られてから話をしても問題ないな、って思った。


 それから、まだ帰らないセツナさん。僕と一緒晩ご飯まで食べる気らしい。てっきり僕は昼ご飯をタカった時点で帰ってくれると思ったんだけど。

 この人は妙に律儀なところがあるので、今日はもう僕を斬ることはないとある程度の確信を持って言える。だから、挑発の意味合いも込めて目の前で縛られてみたのだ。

 セツナさんは鯉口をチャキチャキ鳴らしている。多分、隙だらけの僕を見て、でも信条が邪魔をして……と言ったところなのだろう。僕はこういう無意味な挑発行為が大好きだ。

 これだけで招いた甲斐はあったな。


 ……いやーー……、しっかしこれ、ほんとどう説明したものかな。


「誤解なんだ」


 僕は言い訳から入った。



 メリーは全身血まみれのまま、金色の瞳で僕をじいっと見ている。

 どうやら『まっすぐ』帰ってきたらしい。

 子供たちに動揺が走った。


「誤解なんだ」


 僕はメリーの体を拭いてあげながら誤解であることを強弁する。


「ごかい?」


 うん。誤解なんだ。

 なんていうか……誤解なんだ。

 とにかく誤解なんだよメリー。


 メリーは誤解を主張する僕の瞳を、じいっと見つめてきた。

 澄んだ金の瞳には、作り笑いをする僕の顔もくっきりと映っていて──。


「ええと、その……ごめん」


 僕はメリーに綺麗なフォームで謝った。


「ドゲザするでござるドゲザ」


 はい? 外野がなんか言ってるぞ。

 地べたに伏すとかどこの部族の風習ですかね。辺境じゃ流行ってるんですか?

 しませんよそんなの。だって僕悪くない──はっ。


「わるく、ない?」


 いや違うんだメリー。悪くないっていうのは言葉のあやというか、その、ね?

 そ、そうだ情状酌量! 情状酌量の余地ってやつが僕にはある!

 君は僕に何の説明もなく拘束してくれてたわけだしさ! となると、不安に思った僕が──あ、そうそう、不安だったんだあの時! 暇とかじゃなくて不安!

 そんな僕が全身の拘束を解くのは、別におかしなことじゃっ……。


「きふぃは。いつも。やくそくやぶる」


 うっぐ。


「えっとー……、そんなことは、ないんじゃない? あと、僕たち二人の、二人だけの問題だし、他の人にはとりあえず席外してもらわない?」


「いん。つづける」


「はひっ!」


 インちゃん呂律が回ってないんだけど。手際がどんどん良くなるんだけど。

 もう指先ひとつ動けないんだけど。


「よい。よかった。とてもよい」


「ありがたき幸せですっ! ごはんの準備がありますので、これで失礼しますっ!」


「ん」


 インちゃんはぱたぱたと部屋から駆け抜けていった。

 あの子立ち回り上手いな……。


「きふぃ」


「なんだいメリー言っておくけど僕はね──」


「きふぃ」


「ごめんなさい」


 僕はじっと見つめてくる幼なじみから目をそらした。

 うう……罪悪感が。罪悪感が僕をさいなんでくる。でも悪いのはメリーじゃない? いきなり監禁とかある? ないでしょ普通?


「ひとりのきふぃ。ひどいことする」


「メリーに言われる筋合いはないなぁ。僕は大したことしてないよ」


「ごろつきどもと殺り合って。壁外の小童どもを匿い。憲兵から逃げてきたんでござったなぁ。あの小柄な憲兵の娘、未だにぬしを追いかけておろう」


「『あなたに何度も斬りつけられた』も加えといてくださいね? ついでに『凶悪な指名手配犯に昼食を奢らされた』も。ほら、今日は大人しくしてただろメリー」


「アンタ、すげえな……」


「いや別に。僕とか六流冒険者ですよ」


 ランクに見合わないダンジョン潜る方がよっぽど危険だ。法的にも灰色で危ない。

 D級は『ダメ野郎』の略です。昇格条件のひとつに勤続年数があるのでサルでもなれます。覚えておくように。

 そこの刀持ったB級は『物騒なのでただちに逃げろ』。サルより危険です。よく覚えておくように。

 冒険者のランクと人間性は反比例の関係にあることが多いよ。


「てぬるい。てぬるかった。つぎもっとしばる」


「仮にそうされても、僕は絶対抜け出すけどね」


「きふぃ。おとなしくして」


「大人しいよ? でも、一日の半分以上を全身縛られて過ごすとか流石にごめんだからさ。現に今夕方前だもんね」


「おとなしく」


「メリーも知ってると思うけど、僕はご飯、一日三食食べる派の人なんだ。大人しくはできないかな」


「めりが、みてないうちに。きふぃが。……死んじゃうかもしれない」


「それを言うなら君だってそうだろ。たとえどれだけ力が強くても──」


「めりは。つよい」


「それでもね。僕の目の届かないところで危ないことして欲しくないなって気持ちは、僕にだってあるんだよ」


 メリーが目を丸くした。

 ……当たり前だろ。僕が見てないところでメリーが死んじゃったらどうするんだよ。


 メリーと比べたら、僕は何もできないだろうけどさ。それでも、隣にいたい気持ちはある。

 君がいなくなったら、実利的な意味でも、まぁ……それ以外の意味でも。僕は困ってしまうんだからさ。


「…………。だめ。きふぃ。だめ」


 ……ああ、もう! メリーは分からず屋だなあ!

 こうなれば僕も搦め手を使わせてもらおう。


「セツナさん?」


「む。なんでござろう」


「これから毎朝僕の部屋来ていいですよ」


「まことか!?」


「はい。メリーとはち合わせないように、タイミングは図ってくださいね」


「きふぃ」


「カナンくん。君と他の子たちには、仕事を頼みたいかなって思うんだ」


「シゴト? オレらにできるのか?」


「うん。ギルドに納品するための薬草を採ってもらいたい。最初は見分けつかないだろうから一緒に付いていくし、そこで色々学んでほしい。それと合わせて僕がメリーに縛られてたりしたら助けてほしいんだよね」


「きふぃ」


 ん? どうかしたかな、メリー。

 僕が誰と仲良くしようと自由なはずだけど。

 さて、あとはインちゃんとスメラダさんにレベッカさんに本官さんにニーナくんにそれから──、


「きふぃ。わかった」


「わかってくれたかい?」


「わかった。めりは。きふぃから。はなれない」


 そう言ってメリーは僕に飛びかかってきた。

 痛い痛い痛い痛いいたい!!


「加減してメリー加減していたいいたいいたたたた!!」


「はなれない。ずっとはなれない。ごはんも。おふろも。ねるときも」


「それは無理だよ痛い痛い痛いいたーーい!! 僕をわざと困らせようったってそうはいかな──いたぁっ! あとセツナさんとの約束はゴミだから普通に破るつもりだけど子どもたちに身を立てるための知識を身につけてもらうのは結構本気で考えてて──」


 痛い痛いいたいいたい! ねえもうホント! ホントに痛いんだってばー!




「……それにしても、貴様はよく、この化生の外れと意志疎通ができるでござるな。表情もろくに変えず、会話も意味が取れぬのに」


「いきなり切りかかってくる人に比べたらよっぽどわかりやすいですけど。メリーは素直な子で顔によく出るでしょ。ほらこれ。今すごい喜んでる顔ですよ。……ん? 何を喜んでるんだろ。まさか僕に暴力を振るうことがメリーの喜びに……あっ違うの? よかった。いやでも、じゃあ君、一体なにがそんなに嬉しいのさってああ不機嫌にならないでならないで」


「表情まったく変わってないでござるが」


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