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マルシスな二人  作者:
5/6

祝福

「由夫やい、由夫やい」先生の呼ぶ声がする。

他の子たちが一斉にドアの方へ向いた。

そしてゆっくりとぼくの方にも。

ぼくは、遅かれ早かれ、先生に呼ばれることを確信していたんだけれども、いざ呼ばれると、一気に背中から熱が放出してしまう直前のように、むんと体が熱くなった。

皆の視線で、ぼくは、優越感でおかしくなりそうになりながら、臭い芝居みたいに先生が居る部屋の前に小走りで駆け寄って「先生、先生!」と叫んだ。

すると中から、くぐもった声で「入りなさい」と聞こえて来たので、ドアの外で入りますと一礼してから、ドアを開けた。



ぼくは憤怒した。

先生の側に横たわっている腐乱した死体に。

先生に愛されているというのに、形を変えてしまうなんて失礼にも程がある。

先生は瞬間を愛している人間だ。

ぼくらは成長するけれども、風化はしない。しちゃいけない。

お前は、液体じゃないか。ホットケーキの素のようにどろどろと融解しやがって。

一体、それを理解せずに、先生に愛される資格があろうか。

蠅が!蛆が!名も知らぬ害虫が!先生と死体の領域を犯していることにぼくは耐えられない!


「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


ぼくは気違いのように、泣き叫んで死体に飛びかかった。

まず、右の太ももを蹴ってやった。

簡単に太ももの黒い肉塊が飛び散った。泥を蹴っているような感覚が、ぼくを余計に腹立たせた。

ぼくは、夢中になって蹴り続けた。異臭の汁が、体の至る所ににかかった。

すると、いつの間にやら足の骨が露呈していることに気付いた。

そして、その骨が驚くほど、腐った肉に良く映えていた。

「あ、ああっ」

急に恐ろしくなって、ベットから飛び降りた。

美しいものに対する畏敬。それを忘れてはいけない。

きっと先生もそれを感じている。


「私の気持ちを汲んでくれたのだね。ありがとう」

ぼくの背中に、静かく、深みのある声が突き刺さる。


わかってくださったーーーーーーーーー


ぼくは、先生の正面に向き直って、「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます」と何度も叫んで、地面に額を擦り付けた。

鼻をつんざく腐乱臭が愛しい。ぼくらだけをつつむ腐乱臭が。


ふと先生の足が目に入った。

まる5日も中に閉じこもっていたわりには、いつもと変わらない。

もともと、足を使わないので、かなり細かったのだが、ぼくには分かる。血色だって良好だ。


「木見先生」ぼくは悟り、笑った。

先生が目で応える。

ぼくは次第に泣き笑いの表情を浮かべ、「おめでとうございます」と先生を祝福した。

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