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マルシスな二人  作者:
2/6

影と死体



ぼくは、気付いた時からこの屋敷にいたんだ。

気付いた時からという表現は正しくないのかもしれない。

けれど、ぼくはこの屋敷にいるべき人間で、それは生まれた時からすでに決まっていた様な気がするんだ。

カメレオンはあらゆる背景に馴染むけれど、ぼくは屋敷内だけにしか馴染むことが出来ない人間なんだよ。きっと。

そう思わせてくれたのは、あるお方のお陰なんだ。

名は、木見先生。性は知っているんだけれど、名前は知らない。

けれど、それで充分。

ぼくは、数ある少年の中で、最も彼の身近にいてお世話をしていたんだ。

先生は、70,80歳位(年齢も知らないんだ。だけど、必要ないだろう?)のご老体だから足が悪いんだ。

だから、ぼくは、先生の車いすを押したり、食事の補助をしたり、生活面で不自由なことを補助してる。

たまに、お世話をしている時に、先生が「由夫よい、由夫よい」といって手招きしてくれる時がある。

「なんでしょうか、木見先生」と言うと、先生が黒い眼鏡の奥にある目が柔和に弧を描いて「よいのお、由夫はよく働く」と言って微笑んでくださる。

その瞬間の喜びといったらもう、言い表せないくらいに嬉しいのだよ。

しかし、ある出来事をきっかけに、その喜びに不安の影が付きまとうようになったんだ。




先生をお世話している側近の一人が、肺炎か何かの病気で、突然死んじゃったんだ。

こんなことは珍しいんだよ。

何たってコックを雇っていたから、栄養のバランスはバッチリだったし、それに、定期的に医者が訪問してたからね。

医者が訪問してたといっても、先生を診るためなんだけれど、ぼくらだって、体調不良を訴えたら喜んで問診してくれるんだよ。

先生は、働いてるわけもなく(第一、歳だしね)毎日屋敷の中にいたんだけれど、お金が腐るほどあったんだ。

ぼくたちは、小さな部屋で、縮こまって死んじゃった男の子が不憫で堪らなくなって、葬儀を提案したんだけれど、先生は、珍しく怒声を発して、いかん。と言ってぼくたちを部屋から遠ざけたんだ。

部屋を放り出されたぼくたちは、「先生は、自分が悲しむ姿を見せたくないんだろうね」「アア、そうだ。愛しい先生」と口々に言って、先生が出てくるのを待っていたんだけれど、何日経っても、先生が出てこないんだ。

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