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3:お菓子作り

 全3部予定とか嘘だからー!……orz


 ……5話ですね。

 あたしは一人、舞台から降りる。あたしの肩の上ではラーニョが前脚をせわしなく動かし、伸ばした糸を巻き取っている。

 皆が静まりかえり、エリオットだけがこちらを見て笑う。声を出さずに口を「な、言ったとおりじゃん」と動かす。



 あたしは頷き返す。まぁ、思ったより上手くいったわね。

 あたしがやったのは極めて単純な方法よ。〈失神〉術式でアンナを気絶させただけ。

 もちろん、〈失神〉なんて普通に使ったのでは魔力がまるで足りないし、そもそも抵抗されて終わり。それを覆すのが、接触状態、それも頭部か頸部を触った状態で使うこと。

 接触魔術。直接、それも対象となる部位に触れることで、空間に魔力が分散しない分、威力を増したり魔力の消費を大きく下げられるやり方。



 触ってないだろうって?ラーニョの糸で、アンナの首に触ってたのよ。

 いつ触ったか?ステージでアンナが話しかけに近づいた時よ。



 ラーニョの糸が素晴らしいのは、極めて細いのに強度が高いこと。あたしの魔力が小さいこともあるけど、糸そのものの隠密性が高くて魔力を通していてもほぼ気付かれないこと。



 まぁ、それでも必要な魔力が足りないんで、色々と〈失神〉の魔術に制限加えて消費を削減してるんだけどね。

 あたしがここまで何とか進級してこれたのも、こっそり術式アレンジして消費量減らしてるからだもの。



 舞台ではエリオットが炎の精霊の腕を巨大な翼の様に変形させ、全体を薙ぎ払っている。

 魔力の多い強者の特権のような戦い方。防御の魔力が切れた相手が降参して戦いはすぐに終わった。



 エリオットが右手を掲げると、幻のように炎が消える。彼は華麗に杖を腰に納めると、相手の健闘を称えて共に舞台を降りた。

 女子からは黄色い歓声。

 あたしは溜息をつき、おざなりな拍手をした。





 それから。

 毎週の戦いは順調に勝ち進んでいく。開始の合図と同時に魔術を発動し、魔力が漏れることなく糸を伝わっていくから、誰も攻撃に気付かない。

 あっけなく、本当にあっけなく連勝を重ねていく。



 魔術の勉強を続け、ラーニョとの魂絆を強くすべく日々触れ合い、思うところあって日課にランニングを加え……気が付くと2月も半ばになっていた。



――コココン。



「メリー先輩!早くチョコ下拵えしろって先輩たちが!」



 あたしが巻物に文字を書いていると、ノックの音がし、そう言い捨てられた。

 ……チョコ?

 あたしはキリの良いところまで文字を書くと、羽根ペンをインク壺に戻す。

 広げた巻物には中央に魔法円と八芒星、その外側にはびっしりと細かく文字が並んで、巻物の7割くらいを覆っていた。

 部屋は手元のランプ以外真っ暗で、ランプシェードの端っこから糸を出してラーニョがぶら下がっていた。



「……あれ?」



 いつ夜になったのだろう。授業が終わって部屋に戻って巻物描き始めて……きゅるるぅ……お腹が鳴る。夕飯食べ損ねてるわね。

 ラーニョにも食事をさせてないと気づき、〈虫召喚〉を使って羽虫を食べさせる。

 1月に脱皮していたこともあり、召喚したてのころより一回り大きくなっている。食事も1回で羽虫を2匹食べるようになった。



 チョコ……?カレンダーを見ると今日は2/12、あー……明後日が恋人達の日か。今日あたしに下拵えさせて、明日各自で完成させるのかな?



 キッチンへ行くと、あたしの分の料理が皿にのって残されていて、冬至祭の時も見た記憶のある1年生の子、後はチョコレートや卵、お菓子の型が山を成していた。



「メリー先輩、お待ちしてました!」



 後輩……名前……まあいいや。後輩が言う。

 あたしは頷くと、残された料理の冷めたスープを手に取って一気に飲み干し、鶏肉をナイフでカットすると、2・3個口に放り込んでエプロンを手にした。



「さっさと片付けよう。チョコ刻んどいて……待て、まな板に水分が残ってる。先に完全に水気を落として」



 後はひたすら作業。たまにあたしが作業しながら指示を出し、後輩がそれに応えるだけだが。刻んで、湯煎、テンパリング、冷やして、生クリーム、混ぜて、ガナッシュ、メレンゲ、ゼラチン……。



「メリー先輩スゴいですよね」



 後輩は雑談を所望するらしい。何が、と呟くと後輩は続けた。



「勉強が4年生でトップで、魔術決闘も勝ち進んでいて、料理も得意で。スゴい才能だなって……」



「おい」



 思わず低い声が出た。あたしは振り返るとちょうど手にしていた泡立て器を彼女に突き付ける。後輩は驚いた表情を見せた。



「才能とか言うな。4年生であるあたしの魔力総量は、1年のお前の半分程度しかないのよ」



「す、すいません!」



 ……まあ、1年だし知らなかったのだろう。あたしは泡立て器を降ろしてボウルに向き直る。



「……あたしは孤児院の出身なの。それを卑下するつもりはないし、あたしは孤児にしては本当に恵まれた人生送らせて貰ってると思ってる。

 でもそれは才能のせいじゃない」



「はい……」



「……ああ、料理が上手いのは孤児院でずっと作ってたからよ。院長の料理がマズくてね。毎日一食と、週末の菓子はあたしが作るようになってたわ」



 孤児院を出るときに歳の小さい子達にギャン泣きされ、他の子達も目に涙をためてたのは、あたしと別れるのが辛いのではなく、あたしの料理が食えなくなるのが辛かったのだ。間違いない。



 そんな話をしているうちに、真夜中頃になって大量の菓子の下拵えは終わった。

 洗い物と片付けまで行ったが、部屋には濃密な甘い匂いが立ち籠めている。

 あたしの手元には1つだけボールに入ったガナッシュが残されていて、後輩はそれを覗き込んだ。



「あれ、さっきまで作ってたガナッシュと違う……?

 え、なんですかこれ。あ……誰かに、お菓子あげるんですか?」



「ビターチョコベースでブランデー入れてるのよ。せっかくだからあたしの作っちゃおうかと。

 あげるよ。……毎年エリオットにやってる。孤児院の頃からだからもう10年目かな?」



「エリオット先輩と幼なじみなんですか!いいなぁ……え、ってことはこれエリオット先輩の好みの味だったりするんですか!」



 食いついてくるわね。……まぁ、確かにあいつあたしのお菓子スキよねえ。いつも週末、菓子をたかりに来てた気がするわ。

 丸めたガナッシュにココアパウダーをまぶしたもの、ホワイトチョコをかけたものの、フランボワーズソースも入れて桃色にしたものと色々な種類のものを用意していく。



「ふぇぇ、ピンク可愛いなぁ……」



 あたしはピンクだけ3つ作って、合計7個のトリュフチョコレートを並べて冷まし、その間に片付けをすます。そして腰から杖を取り出した。



「来年までにこれくらい憶えておきな。付与系魔術の初歩よ。

 ……〈造型〉、〈刻印〉」



 トリュフチョコレートは机の上でハート型に変形し、その全てに『Dear E.R.』と刻まれた。



「出来上がりよ」



 後輩が拍手する。

 あたしは5個のトリュフを箱に花のように並べて蓋をし、残った2つのピンクのものを手に取り、1つを自分の口に、もう1つを後輩の口に放り込んだ。



「歯、よく磨いて寝なよ。……お休み」



 なぜか顔を赤らめてすとんと椅子に座り込んだ後輩を残し、あたしは自室へと戻った。あぁ、……眠いな。

 ちゃうねん。というか、お菓子作りの話とかそもそも書く予定なかったんですー!

 これだからノープロットは……。

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ξ゜⊿゜)ξ <実はこの作品のスピンオフ短編ですの!
i521206
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