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第一話(5)

「クフフッ謝る必要はありゃせんよシオン。中々意地悪な言い方をするものじゃの。副会長」


 六花に向けてそう笑みを向けるジトメに、ユキは目を細めシオンは不思議そうに首を傾げていた。


「どういう事ー?」

「あたしたち生十会メンバーは皆教務課の許可を得る事なく術の使用が許可されているわ。そして教務課と同様に生徒に対して術の使用許可を出す事も出来るのよ」

「私が教務課に報告をしたところ、既に委員長から許可を出しているとの連絡がありましたので、今回に関しては問題ありません」

「そういう事じゃシオン」


 生十会にはある意味、教務課と同等の権限があるという事なのだろう。

 本来ならば生十会にまだ加入していないシオンの術発動は問題だが、ジトメの権限で許可しているという連絡が教務課にされていたため大丈夫という事らしい。


「はーい。でもそれならこれからは気にしなくて良いって事だよね?」

「……そうね。まあ六花がお墨付きしてるし、あんたなら問題ないわ」

「中々に純粋でからかい甲斐がありますね」


 そう言って眼鏡をくいっとあげる六花に、シオンはニコニコとしながら「お手柔らかにねー」と返事をしていた。


「ふふっ。本当に面白い人が来たみたいですね。会長」

「ええ、そうね」


 六花の言葉に対して全く嫌がる素振りを見せないシオンに、二人は驚いたような顔を一瞬見せると楽しそうに微笑んでいた。


「ふむ、ならばシオンの入会は承認で良いかの?」

「ええ。シオンの入会はあたしも承認するわ。六花も文句ないわよね?」

「はい。あれだけの術を使う実力があるのですから、風紀委員としての役割を立派に果たす事が出来るでしょうから」


 六花の言葉に会長は優しく微笑むと、次の瞬間ユキに向かって鋭い視線を送った。


「だけどあんたの入会は認められないわ」


 会長の言葉に六花は小さく息を吐きながら俯き、桜は苦笑を浮かべ、琴音はオロオロと慌てているようだった。


「なっ! どうし——」

「へえ。それは俺にとっても都合が良いな」


 困惑した様子で叫ぼうとしていたシオンを遮りユキは言う。そんな彼に対して会長は不機嫌そうに目を細めた。


「何よそれ、どういう事?」

「そのままの意味だ。俺はシオンと違って生十会なんかに入るつもりはない」

「……なんかですって?」

「ああ。ここにはジトメの命令で仕方なく来ただけだ」

「へえ、そう。つまりはあんたも吸血姫ヴァンパイアプリンセスの眷属って事ね」


 目を細め、嫌悪感たっぷりな声を出す会長。

 ジトメと契約を交わしたものは眷属と呼ばれている。

 ジトメに己の未熟な力を明け渡し、その代わりに過去にジトメが得た完成した力を貸し与える。そうして契約する前以上の力を得た幻操師、シードなのだ。

 その力はジトメの意識一つで消えてしまう、そうして絶対の服従を強制させる幻操術。それが彼女の固有術(アイデンティティ)だ。


「さあ? どうだろうな」

「——っ! あんた……委員長! これはどういう事よ!」


 ギリッと歯を噛み締めた後、立ち上がりジトメに向かって叫ぶ会長。


「二人が抜けた穴を塞ぐのなら委員の移動に関して言う事はなかったわ! でもいくら六花が認めた子だとしても、一人であの二人分の働きをするのは無理よ! 委員長っ今すぐ二人を呼び戻しなさい!」

「お断りじゃ。会長」

「何ですって?」


 般若のような顔をして憤怒を撒き散らす会長に向かって、ジトメは冷たく即答した。それによって火に油を注いだかのように、怒りを増す会長。


「ユキ。ワシの生十風紀会委員長としての権限を使い、お主にガーデン内における術の使用を常に許可する」

「委員長! 本気なの!」

「無論本気じゃ。既に教務課から申請許可は貰っておる」

「なっ!」


 生十会メンバーが一般生徒に術の使用許可を与える事が出来るという話は先程聞いた。

 しかし、今の話はどうもそんなレベルの話ではないように思えた。


「ユキ。今後お主はワシらと同じように操術の使用が常に許可させる」

「それが委員長権限って奴か?」

「そうじゃ。無論シオンは生十会入りが決定しておるからの、同じく使用に問題はない」


 これからは一々ジトメから許可をもらう必要がないって事だ。それはつまり個人の判断で術が使えるという事になるのだが、一体ジトメは何を考えているのだろう。

 もしかすると、ガーデン内で自由に術を使えるようにするための行動なのか?


「さて、これで顔合わせは終わりじゃの。シオンこれからは委員の一員としてよろしく頼むのじゃ」

「はーい!」

「まだ終わってないわよ!」


 そう言って背を見せたジトメに向かって叫ぶ会長。


(対立していると言うよりも、シンプルに相性が悪いな、こりゃ)


 自分の頭の中で全てを解決させ、その内容を周囲の人間に説明したり、共有しようとしないジトメ。

 会長から受ける印象は真面目だ。何か変化を起こすならその理由と、その変化によって起こるリスクとその対処方を定め、共有しなさいって感じだ。

 わかりやすく言い換えると、不真面目なジトメと真面目な会長。そりゃ相性悪いに決まっている。


「なんじゃー? まだ何かあるのかや?」


 不満そうな表情を浮かべつつ振り返るジトメに、会長の額に怒筋が浮かんだ。


「結局あたしの問いに答えてないじゃない! シオン一人でどうやって二人分の穴をカバーするつもりなのよ!」


 感情的になっている会長に対して、いつも通りの冷めたジト目を向けつつ、やれやれとため息を吐くジトメ。


「なんじゃ。さっき言ったであろう? ワシの権限でユキにガーデン内で戦える権限を与えたとの」

「——っあんたまさか生十会員じゃないそいつを戦力として数えてるって事!?」

「当然じゃ。故にワシの権限で一人しか出来ぬ常時許可を与えたのじゃ」


 委員長の権限でも一人にしか術の常時許可を与える事は出来ないらしい。だからシオンを生十会に入れたのか?

 そして、その実力を示すためにわざと時計台から飛び降りさせたのか?

 ……いや、流石に考え過ぎか。


「——だそうじゃぞユキ」

「……ん?」

「……なんじゃ、聞いておらんかったのか?」


 呆れ顔プラスジト目のジトメにユキは「悪い」と素直に頷いた。


「お主の実力を示せとの事じゃ」

「……はあー」


 彼女の言葉に深いため息を吐くユキ。そんな彼の反応にジトメは楽しそうにニヤニヤと笑っていた。


「今日の放課後。場所は生十会専用の訓練室よ。相手は六花、良いかしら?」

「会長の命令ならば」

「ならお願いね」

「承知しました」


 まるで主人に従う騎士のように綺麗な礼を披露した後、クイッと僅かにずれた眼鏡を治す六花。


「ユキ。勝敗よりも注目されるのは中身じゃ。お主個人の戦闘能力を示す戦いになる。わかっておるな?」

「ああ、つまりは一対一の模擬戦だろ? わかってる」

「……でも、ユキ……」


 不安そうな表情を浮かべているシオンの頭の上に手を置くと、ユキは「大丈夫。心配すんな」と撫でた。


「ならばあとは放課後じゃ。行くぞ」

「はいはい」

「……ん」


 先頭を切って生十会室から出るジトメの後を追うユキ、そしてそんな彼の服をちょこんと不安そうに掴むシオン。

 そんな三人を生徒部の面々は各々様々な感情を抱きながら見送っていた。


   ☆ ★

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