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第一話(4)

「委員長。こうして呼び出した理由はわかってるわよね?」


 二人に対して興味深そうな視線を送っていた会長は、小さな声で「まあいいわ」と一旦己の感情を抑え込むと、ジトメに向かって鋭い視線を送った。


「なあ? 何の事じゃろうの」


 入り口で二人を背後に従えるように立ち、苛立ちが乗っている声に向かって挑発するようにニヤリと笑みを浮かべるジトメ。


「……まあ、委員長がそういう奴だって事は知ってるわ。奇行だっていつもの事、普段は気にしないようにしてるわ。だけで、今回の件は流石に無視出来ないわ」


 奇行がいつもの事と言われているジトメの生活態度が気になるものの、それよりもそんな認識の上でここまで怒気を向けている会長の様子からユキは不安な気待ちでいっぱいになっていた。


「どうして委員の二人を勝手に移動させたの?」


 委員というのは生十会所属の内、風紀委員会側つまりジト目の部下という事だ。

 その二人を勝手に移動した? 空席というのはここにはいない、そう言う意味か。

 昨日ジトメが言っていたシオンを特別扱いしても問題ないという発言、その意味はまさか……そういう事なのか?


(特別扱いしても同じところで働かせなければ問題ないってか?)


 確かにそうすれば事実上問題はない。なんせ特別扱いをして貰えてない側はもう一人が特別待遇だという事に気が付く事が出来ないからだ。

 しかしその考え方はバレなければ犯罪ではないという、あまりにも極端な思考。ジトメお得意の極論だ。

 誤魔化しはいずれバレる、その時被害を受けるのはフェイクの本人であるジトメだけじゃない。シオンにだって敵意は向かうだろう。

 ここまで想定したものの、ハッキリ言って問題はないだろう。なんせジトメの行動だ。そう簡単に破綻する事をしでかすわけがない。

 ユキに迷惑を掛ける事は十分にありえるが、シオンを被害者にするような事はまずしないだろう。

 これは二人に共通している感情。シオンには迷惑を掛けたくないという想い。

 ……その想いの根源にあるものは、とても人に言えない。

 だからユキは自身と彼女の関係性をこう表現する。

 ——共犯者と。


(……まあ、委員の二人とやらはジトメの眷属だろうから心配する必要はないな)


 その話は昨日もしている。元々慌てる要素なんてなかったんだ。

 それにしても、どうしてジトメは二人を移動させたのだろう。何か理由があると思うのだが……そう思いジトメの言葉を待つ一同に、彼女はニヤリと笑う。


「必要と判断したからじゃ」

「——っ!? まさか何も説明しないつもりじゃないでしょうね」


 ジトメの言葉に明らかに怒気を向けるものの、それをオープンにする事なくどうにか抑え込み、静かに口を開く会長。


「確定的じゃないからの。無駄な混乱を避けるために誰にもいうつもりはありゃせん」

「——っ確かに街の防衛も私たち生十会にとって大切な仕事よ。でも今の時期にどうしてわざわざガーデンの守備を甘くするのよ」

「何、問題はありゃせん。それ故の二人じゃ」


 そう言って背後の二人に前へ出るように指示をするジトメ。ユキとしてはまるでジトメの部下のように動く必要はないのだか、今の状況からしてノッておいた方が色々と楽だろうと判断し、シオンと共に言われるがまま一歩前に出た。


「……つまりそういう事なのかしら?」


 前に出た二人を見て目を細めながらそう言う会長。

 状況から今の流れを把握している桜と琴音は静かにしつつも、驚いた表情をユキたちに向けていた。


「そうじゃ。この二人は生十会の新規メンバー候補。無論ワシ直属としての」

「二人を好きに移動させたから代わりに二人連れてきた。なるほど、委員長の考えはわかったわ。一応考えているみたいだけど、でも一つ破綻してるわ」


 変わらず厳しい視線を怒気と共に送りながら会長は続ける。


(それにしても、流石はシオンだな)


 ユキはちらりとジトメを挟んで隣にいる彼女の様子を伺うと、その態度に感心していた。

 先程から会長はジトメにだけでなく、こちら側つまり三人に向けて怒気を放っている。

 ユキはこういう感情を向けられる事に慣れが、耐性があるため問題ない。しかし箱入り娘のような環境にいたシオンにとっては厳しいかもしれないと不安に思ったいたのだが、どうやら杞憂だったらしい。

 笑みを浮かべて何やら楽しそうにしているジトメとまではいかないものの、流れに付いていけてないのか疑問符を浮かべているだけで、何も負担に感じていないようだった。


(……まあ、ただの天然って可能性が大なんだけど……)


 そもそも胃痛な立場である事に気が付いてないだけというのも十分にあるのだ。

 どちらにせよ、事実として負担がないのなら良い事だ。


「破綻? 何の事じゃろうのー?」


 明らかに会長が何を指しているのかわかった上で言っているのだと、誰も理解した。

 ジトメの性格をわかっているためシオンもまた苦笑を浮かべていた。そんな彼女の反応に会長は少し驚いたような顔を向けると、すぐに視線をジトメへと戻した。


「委員長が移動させた二人。くノ一(クノイチ)とロリィは二人で十分にガーデンの治安を守るだけの実力があったわ。その二人にそれだけの力があるのかしら?」


 会長の言葉にずっと静かに佇んでいた銀髪の少女が、そっと手を挙げた。


「少し良いですか?」

「良いわよ。どうしたのよ六花」


 会長から許可を得た事で銀髪眼鏡の少女、六花は「では」と視線をユキたちに向けた。


「昨日の朝、見事な氷の橋を生み出したのはどちらですか?」

「あっ、それなら私だよーっ」


 シオンが楽しそうにくの字に横棒を一つ足したような目をしつつ手をあげると、キラリと六花の目が光った。


「そうでしたか。私も氷を主属性として使っていますので、あそこまで規模が大きなものを一瞬で作る技量に感心すると共に、嫉妬を覚えました」

「ふえ? ……えへへぇー」

「六花がそこまで言うなんて凄いわね。」


 六花から絶賛の言葉を貰い、頬を赤く染めながら照れるシオン。

 しばらく喜んでいたシオンはふと疑問符を浮かべた。


「ねえねえ。どうしてあたしたちのどっちかってわかったのー?」

「生徒から時計台から二人の人影が落ちたという連絡がありました。その後氷の橋が出来たという連絡もありましたので、ならばその二人の内どちらかが発動させたものだろうと判断しただけですよ。それから本来ガーデン内で教務課の許可なく操術を使う事は禁止されていますので、気を付けてくださいね」

「えっ! そうだったの!? ごめんなさぃーっ!」


 知らなかったとはいえ、禁止されている行いをしてしまった事に深々と頭を下げるシオン。そんな中ユキはジトメに責めるような眼差しを送っていた。

 二人があの方法を取ったのはジトメの言葉があったからだ。術を使うのが前提の方法、それに規模も大きいため確実にバレてしまう。

 ジトメが禁止事項を言わなかったからいけなかったのだという事実を言えば、二人はもしかすると許されるかもしれないが、委員長であるジトメと立場としては敵対関係と言っても過言ではない会長にそれを言うのは憚れた。

 最悪それをネタに委員長の座から引きずり下ろされてしまうかもしれないからだ。

 それはユキにとって望む結果ではない。

 次回更新は明日です。感想や評価、お気に入り登録などよろしくお願いします。

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