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ニノ二十五


「とあっ!」


 ユキの大鎌がくノ一を刈り取ろうと連撃を繰り出す中、シオンもまたその手に握る旋棍を回していた。


「ほいっ!」


 目の前で行われている状況に、ロリィは愕然としていた。

 否、そんな言葉では生ぬるい。驚愕、動揺、衝撃、否定、拒否、絶望。

 どれほどなマイナスな言葉を連ねても足りない。

 既に彼女の心は折れかかっていた。


(こんなの……無理に決まってるの)


 ロリィの[固有術]その力は人形を操るのではなく、彼女の命令に忠実な奴隷人形を生み出す力だ。

 その力によって、彼女は無数の熊人形を召喚している。

 力の強い大型人形。平均にしてバランスの取れた中型人間。移動速度が速い小型人形。音を立てずに奇襲を掛ける特型人形。

 それらを無数に、ニ桁では足りない量を召喚し、彼女の頭の中で描かれる最高の連携を持って襲っているというのに、シオンはそれを全て殴り飛ばしていた。


「あちょー!」


 時にはただの蹴りで熊人形を破壊するシオン。

 相手は人間ではない、ただの人形だ。だったら手加減する必要なんてないよね。

 そんな心の余裕が彼女の動きを良くしていた。


「ふぅー。身体も温まって来たし、そろそろ行こうかな」


 シオンは誰かに聞かせるためではなく、小さく独り言を呟いた後にこの一週間で覚えた術を起動した。


「まずは【幻操・刀剣(レイド)


 操力で剣を作り出しそれを維持する術[刀剣]によって、旋棍を延長する形で刃を生んだシオン。

 単純に攻撃範囲が増えただけでなく、打撃ではなく斬撃になった事によって[装甲]に守られていない熊人形は、多少硬くなっているものの、彼女が作る刃の鋭利さと遠心力が重なる事によって、豆腐を切るかのように一撃で分断されていた。


「——っ!」


 ロリィはシオンの変化に焦っていた。

 今までは威力があってもただの殴打だったため、すぐに彼女の力によって損傷部分を直し、前線に戻す事が出来ていた。

 しかし、今や真っ二つにされる状況。流石にそれは即座に修復する事は出来ない。

 その結果、シオンを攻略するための熊兵の数が目に見えて減っていた。

 敵の数が減った事で余裕が生まれたシオンは、より積極的な行動に移るのだった。


「耐えてね」


 そんなシオンの声が聞こえた次の瞬間、爆発音が耳に届きすぐ目の前にシオンの姿があった。


「えっ!?」

「行くよ?」


 [刀剣]を解除してただの旋棍になったシオンの武器。

 だけど、それはただのという言葉からは程遠いものだった。


「【雪月弾薬(カートリッジ)加速撃(ブースト)


 旋棍の長い方の先端部から吹雪が溢れ出し、それを推進力として鋭い殴打を繰り出すシオン。

 拳がではなく旋棍の短い部分がロリィの胸に直撃し、その威力によって彼女は背中を天蓋に壁に叩き付けられる事になっていた。


「ユキさんの銃撃による高速移動に似ていますね」

「そうだね。最初のは推進力を移動用に使って飛んで、二回目のは攻撃力を高めるためだよね」

「移動用はとりあえず慣れれば大丈夫だと思いますけど、攻撃に関しては良くあれだけの反動を受けて体勢を保てますね」

「才能……それで良いと思いますよ」


 琴音のつぶやきにそんな返しをする六花。

 シオンがする事に一々驚いていたら身が保たないと暗に言っている六花の気持ちがわかり、それを聞いている者たちは思わず苦笑いを浮かべていた。


「痛っ……ど、どうにかして! 私の【人形熊兵】!」


 新たな熊人形を生み出し、シオンへと向けるロリィ。

 その顔に強く現れている動揺。きっと長い間痛みなんて感じる機会がなかったのだろう。

 眷属となり、圧倒的な力を得たくノ一とロリィ。

 更にそれを努力で高めた彼女たちと対等に戦えるのは会長と、おそらくは六花の二人だけだ。

 会長は家柄から受け継ぐ力によって戦う事が出来るだろう。六花は基本に忠実だが、それでも圧倒的な弾幕によって戦う事が出来るだろう。

 二人ともそのレベルは並みの生十会レベルじゃない。

 経験的な面で弱点がある可能性は大きいが、単純なレベルならばプロを含めても既にその実力は高い位置にあるはずだ。

 それほどの実力を持っているくノ一とロリィ。

 特にロリィの戦い方では、痛みなんて感じるのは久し振りなのだろう。

 だからあんなにも慌てているんだ。


「ドンドン行くよー!」


 旋棍の先端部から爆弾を発射するシオン。

 炸裂した爆弾の中から生まれるのは熱と風ではなく、吹雪。

 [雪]の力を[月]で封じ込め、それを弾薬として様々な形で力とする。

 弾薬をそのまま投げて爆弾に。

 推進力へと変えて高速移動や加速撃に。

 旋棍の短い方から放出し、光線のように。

 五式を知った事によって自分流にアレンジされたシオンの新たな戦闘方法。

 今回の戦いハッキリ言ってロリィは蛇足だ。

 だからこそロリィの事はシオンに任せたのだ。彼女の能力はシオンの新たな戦い方の試し撃ちに丁度良いから。


(シオンの方は派手だけど地味に終わりそうだな)


 戦いが始まる前にチラッと見えた観覧席にいた人物。確か彼女は新聞部の部長だ。

 となると確実に今回の内容は新聞部が文字にして掲載する事になるはずだ。

 写真は多少あるかもしれないけど、それだけじゃこの戦闘の凄さは伝わりにくいだろうな。

 今ここで実際のそれを映像で見ている者たちだけにしかわからないだろう。

 ……万が一戦う事になるとしても、それなら問題ないか。未来で知られたとしても、その時には成長しているだろうからな。

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