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ニノ二十


「——っ! 危なっ! 思わず吹くとこだったじゃん!」


 ギリギリそれを防いだユキは、恭介に向かって叫んだ。

 それほど彼の口から出た言葉に驚いたのだ。


「で? どうなんだ?」

「……一応聞いてやるけど、なんでそう思った?」

「シオンが言ってたんだよ。ユキは戦士じゃない、王だってな。それに最強の個じゃなくて、最上の群とも言ってた。あの時生十会の皆の所で来たらしいお前の仲間ってさ、お前が召喚した精霊じゃないのか?」


 真剣な顔をして語る恭介に向かって、ユキは肯定も、否定もしなかった。それはつまり……そういう事なのだと理解した恭介は、ため息を一つこぼした。


「俺たち男が強くなるには、どうにかこうにアイデアがいる。ユキにとってそれはが精霊だったって事なんだな」

「もしもそうだったら?」

「別に、凄え奴なんだなって再認識しただけだ。精霊魔法なんて刀和国で使う奴なんて早々いないからな」

「……お前……よくそんな事知ってるな」


 ここのガーデンだけでなく、日本に存在する全てのガーデンをまとめて一つの国とする考え方。

 日本の夢の中にあるもう一つの国。その思考の上では刀和国と呼ばれるもう一つの日本だ。

 確かに刀和国で精霊関係の事はポピュラーじゃない。だからこそ恭介がそれを知っている時点で凄いんだ。


「それと、俺は気にしないけど魔法って言わない方が良いぞ。魔法は魔物が使う術で、俺たち人間の技は操術だ」

「それって確かに今じゃそういう認識だけどよ。元々は委員会の元になった研究者たちのプライドだろ? 別に魔法で良くないか?」


 恭介が言うように、魔法とではなく操術と呼んでいるのは最初に操術を生み出した研究者たちのプライドだ。

 そんなものは知らぬと、もっともわかりやすい魔法という表現を使っているガーデンは実の所、割とある。


「……恭介ってそんなキャラの癖に博識キャラなのか? 賢者恭介なのか?」

「賢者と呼ばれて悪い気持ちにゃならんが、今の状況だとその言葉、お前にも降り注ぐからな?」

「確か……」


 恭介が今話している内容自体には一切驚いていない。それはつまりユキは既にそれを知っているという事だ。


「元々確立させようとしていた技術を魔法と呼んだ場合、今のそれは魔法とは呼べないレベル。それ故に未だ()の技術を()()で幻操術、だろ?」

「そういう理由もあるらしいな。魔法と言うよりも幻術に近い、故にって話も聞くよな」

「聞くよなって……そんなポピュラーな話じゃないからな?」


 実際どちらも調べればわかるような事だ。しかしそれを知っている術師がどれくらいいるのだろうか。そんなレベルの話だった。


「んで? 結局ユキって精霊召喚師なんだろ? 模擬戦とかは召喚じゃなくて、憑依してその力を使ってるって感じで」


 恭介の言葉にユキは思わず笑ってしまっていた。

 そんな彼の反応に、恭介は不満そうな表情を見せていた。


「おいユキ」

「悪い悪い、まさかそこまでバレるとは思ってなかったからな」

「て事はやっぱりそうなのか?」

「ああ。違うぞ」

「やっぱり……って違うのかよ!」


 思わずノリツッコミをしてしまった自身に、恭介は僅かに頬を赤くしていた。


「けど半分アタリだよ。俺は精霊召喚師と精霊憑依師の戦い方を参考に今のスタイル、佐倉ユキとしての戦い方を作ったんだ」

「参考にか……なるほどな。つまり召喚や憑依はしてるけど、精霊じゃねえって事か?」

「そう言う事」


 精霊関係の知識が能力の元になっているのは本当だ。だからこそ彼女たちの色に合う精霊の名前を与えているのだ。そこに自ら名前をプラスしている意味はよくわからないが、結果的に当初想定していたよりも高性能になったのだから、良かったのだが。


「だったら模擬戦でも問題ないな。召喚って形ならルール違反じゃねえし」

「いやルール違反だろ? 常識的に考えて」

「うんにゃ。召喚した者と共に戦っちゃいけないなんてルールはねえからな。つまり問題なしってもんだろ?」

「いや……お前も言ってただろ? そもそも精霊操術を知ってる奴が少ないから想定してないって話だろ?」

「ルールを作った無知な奴が悪い」

「お前……」


 知らない事そのものも悪とか、随分とアレな奴だな。

 まあ、そういう隙をついてでも色々考えないと女には勝つ事が難しいのがこの業界での男って生き物なのだ。

 中には例外的に素の力で強い者もいるけど、それは本当に例外だ。


「けどまあ、使うつもりはないぞ」

「……なんでだよ」


 不満気にしてる恭介だが、別にユキの中に正々堂々精神があるわけじゃない。


「理由はちゃんとあるぞ」

「へえー、聞こうじゃねえか」


 何故かニヤニヤとしている恭介に言われ、なんとも言えない気分を味わいつつ答えるユキ。


「今回の模擬戦の目的は俺個人の力を二人に認めさせるためのものだ。あいつらを召喚して戦わせたとしても、それじゃ俺の力を認めるって事にはならないだろ」

「それは屁理屈だろ? 召喚っつう立派な力じゃんか」

「だとしてもだ。というか今更だけど、俺に召喚師みたいな感じだって事、誰かに言ったか?」


 桜あたりには話している可能性が十分にあるけど、どうだろうか。そうなったらなったで、どうとでもなるが。


「いや、言ってないぞ」

「え、桜にもか?」

「おいユキ。初対面の時にも言ったが、俺とあいつはただの幼馴染であって、そういう仲じゃねえからな?」

「あんな美少女と幼馴染やってて、そういう事考えた事ないのか?」

「あー、まあ昔に一度はあるぞ? 可愛いなって思った事」


 頭を掻いて照れながら白状を始めた恭介に、なんだか楽しくなってくるユキ。


「ほほう。それで?」

「でもよ。桜には好きな人が居たんだよ」

「あー、それは……いや、でもそれで諦めるには早いんじゃないか?」

「いや、歳上のお兄さんで、見た目良し、実力良し、性格良しと来たもんだ。勝ち目が見えなくてな」

「……えーと、悪いこういう時なんて言えば良いかわかんない」

「別に良いって。それで諦めて、友として一緒にいる時間が続く中で、なんというか兄妹みたいな感覚になってきてな。桜が惚れた歳上の男に恋人が出来て、失恋したって聞いてもだからと言って自分のものにしたいって思わなかったんだ」

「……なんというか、愛って感じだな」

「うえっ。その表現はやめてくれよむず痒い」


 嫌な顔をして自身の抱き締めるように掻き毟る彼に、ユキは思わず苦笑した。


「じゃあさ、今の恭介には好きな奴っていないのか?」

「あー、そうだな……別に特定の誰かってのはねえな」


 頭の後ろで腕を組みながらそう言う恭介に、ユキは黙ってコーヒーを飲んだ。


「まっ、お前が精霊召喚師もどきって事はとりあえず言わないでおくけど、模擬戦どうするんだ?」

「なーに、簡単な話だ。王じゃなくて一戦士として戦う。ただそれだけの事ってな」

「……なるほどな。それ、俺も見に行って良いのか?」

「ああ、大丈夫だぞ。桜や琴音と一緒に見に来れば?」

「おうっ、そうする。楽しみにしてるぜ」

「期待に応えられるように頑張るよ」


 元々の予定は既に達成しているのだ。本鈴が鳴る前に教室に戻るとしよう。


   ☆ ★

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