第一話(3)
両腕を上げて背後にドドーンと擬音が出ているかのオーラで叫ぶ桜と、同じようにオーバーリアクションで驚愕するシオン。
……また琴音がカフェの皆に頭を下げているのを見て苦笑するユキ。
(店員とか思っきり、あっまたあの子か、みたいな目なんだが……これは入るグループ間違えた疑惑か?)
店員だけでなくお客の半数ぐらいも同じ反応をしている事に、ユキは気付かないフリをするのだった。
「普段は普通なのに、本気になると翼を出して天を舞うっまさに天使様なんだよ! 天使様に栄光あれーっ!」
「天使様バンバーイッ! 栄光あれーっ!」
二人揃って立ち上がり大声を上げて万歳をしているのを横目に、ユキは小さくため息をついていた。
「でももう天使は消えたんだろ?」
そんな恭介の言葉に二人は固まった。
「……え……どういう事?」
まるで助けを求めるような眼差しを桜に向けるシオン。そんな純粋な眼差しに桜は万歳をしていた腕をゆっくりおろすと、ぽとんと座った。
「一年前くらいから活動がなくなっちゃったんだ」
「……それって……まさかっ!」
「わかんない。天使達は美しくて可憐だっただけじゃなくて、強かったから」
「だけど活動報告がなくなったって事は、つまりそういう事だろ」
「そんなのわからないじゃん!」
冷たいというよりも、冷静な恭介の言葉に桜は強く言う。
「確かに急だったからその可能性が高いよ。でもそんなのわからないじゃん! 天使様は最強だもん!」
「そうだよ! 天使様は最強なんだよ!」
「……お、おう。俺が悪かった」
二人からの鋭い眼差しを受け、両手をあげて降参のポーズをしながらそう言う恭介。
「シオン。あんまり恭介を困らせるな」
「あっ……ごめんなさい。つい……」
流れに任せて少し恭介を困らせる事になってしまったためユキが叱ると、シオンは目に見えて落ち込んでしまっていた。
俯いてシュンとしているシオンを見てユキはため息を一つこぼすと、仕方がないなと笑みを浮かべながら落ち込む彼女の頭に手を乗せると、ゆっくりと優しく撫でていた。
「ノリが良いのは美点だけど、それで人を困らせるなよ?」
「えへへぇー。はぁーい」
一応怒っているのだが、シオンは幸せそうにしていてまったくそんな感じはなかった。
とはいえ、いつもこれで学習してくれるので問題はないだろう。
「……ねえ恭介。二人って……」
「やめろ桜。本人がああ言ってるんだ。俺たちはただ見守るだけだ」
別に天然というわけではない。こういう事をすれば誤解を招くだろうという事は重々承知しているが、その内慣れるだろうし問題はないだろう。
「あっ、一応言っておくけど」
「ん?」
ふと思い出したようなそんな事を言う桜に、ユキとシオンは視線を向けた。
撫で撫でタイムが終わり、若干悲しそうな顔を一瞬ユキに向けるシオンだったが、すぐに疑問符を浮かべて桜を見詰めていた。
「恭介ってドMだから苛めても問題ないよー」
「ぬあっ!? なんて事を言いやがる!」
「本当の事でしょー!」
とりあえず把握した事。桜と恭介は仲が良い。以上っ。
☆ ★ ☆ ★
今日は入学式がある。
転校ではなく正確には途中入学であるユキとシオンにとっては、ある意味自分たちの入学式でもあるのだが、そんな二人は今、昨日と同じようにジトメからの呼び出しを受けていた。
「キレていいよな?」
「開口一番危ない奴じゃのー。お主は」
早速苛立ちを顔に浮かべながら文句を言うユキとは反対に、涼しい顔をしているジトメ。
「で? 何をやらせるつもりだ?」
「何、そう難しい話じゃありゃせんよ。昨日の放課後シオンの事を会長に話そうとした所、朝に本人を連れて来いと言われてしまっての」
「……そういう事か、ならしゃーないか」
やれやれといった風に両手を上げ、首を振りながらそういうジトメ。
シオンは生十会に入る事に希望している。ジトメは生十会のツートップの一人とはいえ、もう一人つまり会長にも紹介しておくのは当然の事だ。
元々顔合わせは放課後の予定だったが、会長に言われたのなら仕方がない。
「ほれ。ついて来るのじゃ」
立ち上がったジトメにそう言われ、渋々立ち上がるユキと楽しそうにしているシオン。
これから会うのはジトメ以外の生十会メンバーだ。
生十会入りが確定しているシオンにとっては大切な機会だ。初対面の印象は長く関わってくるからな。
魔動力エレベーターを使って移動した先は変わらず時計塔の中、生十会の施設は全てこの中にあるため当然の事だ。
「心の準備は平気かの?」
「モチのロンだよ!」
「……ああ」
両手で敬礼をしながら返事をするシオンを見て、桜の影響を受けてるなーっと思いつつも、特に問題がある事ではないのでスルーで良いだろう。
二人の許可を得て生十会室、正式名称生十風紀会室の扉を開くジトメ。
部屋の中に見えるのは四つの人影。
「えっ!?」
それはシオンの声だった。
だけど、驚いているのはシオンだけでなく、既に生十会室に来ていた半分の少女が目を丸くしていた。
「なんで桜と琴音が居るの!?」
ここにいる理由。つまり、雨宮桜と日向琴音は生十会メンバーだったのだ。
☆ ★
どうやら二人は元々生十会メンバーらしい。
恭介は本当に幼馴染だから誘っただけで、生十会との関係はないみたいなのだが……やっぱり桜って恭介の事……——
「ユキリン? 怒るよ?」
「……さーせん」
女の勘って奴はマジでヤバイみたいだ。
考えるだけて怒られるなんて想定外以外のなにものでもないな。
「桜? 知り合いなの?」
「あっうんっ。クラスメイトのユキとシオンだよ!」
そう言って二人の紹介をする桜だが、それを受けても変わらず疑問顔の少女。
「どっちがどっちなのかしら?」
「えと、男子がユキで女子がシオンだよ!」
改めて紹介を受け、不満そうな表情を浮かべるその少女。
(……会長か。それにこの席配置……三人とも会長側か)
二列横並びに座る事になる八席と違い、ジトメが座るのであろう席の隣に座っている少女。
それは綺麗な長い金髪を結ぶ事なく流している小柄な美少女だった。
桜と琴音、そしてまだ名前の知らない眼鏡を掛けた銀髪の少女は、会長が座っている席に近い方で横に並んで座っていた。
つまり、向かい八席の内片側にしか人がいないという状況だ。下手をすればこれはそういう状況を指している。
次回更新は明日です。感想や評価、作者お気に入り登録などよろしくお願いします!