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ニノ十


「はぁー。やっぱりただの氷じゃユキには通用しないかー」


 一旦攻撃の手を止め、深いため息を吐くシオン。

 そんな彼女の様子にユキもまたホバリングをし、上空からシオンの動きを観察していた。


「ユキと共に戦いたいから。ユキを助けたいって思ったから、だからユキが眠ってる時に作ったんだけどね。まさか最初に使う相手がユキになるなんてなー。なんだが不思議な気分」

「……作った?」


 何やら気になる事を言い出したシオンに、ユキは目を細めて問い掛けた。


「そっ! 私の全力はどうしても影響範囲が広過ぎて、普通の戦いじゃ使えなかったからね。だから[自幻法(じげんほう)]で調整してユキがやってるみたいにいくつかの[設定技能(アビリティ)]にしたの」


 自分自身に対して影響を及ぼす操術の事を[自幻法]を呼ぶが、確かにユキはそれを応用する事によって自身の[固有術]を細かく調整してすぐに使えるようにそれぞれ[接続技能]と一つの術として形にしている。

 シオンの力といえば、ユキを助けるために大襲撃の魔物たちに放った溶ける事ない完全なる氷結術だ。

 彼女が言っているのはつまり、それをコントロールする事に成功したというのと同義だ。


「それじゃあお披露目行くよ!」


 ニコニコとした笑みを浮かべながらそう叫んだシオンは、両手を空中のユキへと向けた。

 それと同時に彼女の全身から迸る凄まじい幻魔力。

 否。幻魔力よりも強く、濃く、深い力。術師の心から発生するより純粋な力。[心力(しんりょく)]だ。


(幻操陣が形成される気配がないっ! て事は本当に[固有術]っ!)


 シオンの発言が嘘でも勘違いでもなく、事実なのだとユキが理解するのと同時に、彼は自身の周囲にシオンの力が満ちている事に気が付いた。


「行くよユキ! 【固有術・雪月花(せつげつか)(つき)】っ!」


 シオンがその術の名を口にした瞬間。ユキは巨大な氷の球体によって閉じ込められていた。


「よしっ! ちゃんと出来たね!」


 今このバトルフィールドを作り出している氷の箱とは違い、ユキを覆っている氷の球体の中に空洞はない。

 牢獄に閉じ込めたのではない。ユキ毎凍らせて閉じ込めた状態なのだ。

 中にいるユキに自由なんてものはない。


「んー。普通なら一撃必殺なんだけど、ユキならどうにかしちゃうよねー」


 シオンの術が発動される瞬間に、ユキが手を合わせているのを彼女は見ていた。

 巨大な球体が発生した直後は冷気が安定していないため、白いオーラのようなものに覆われていて中の様子を見る事は出来ない。

 少しずつ冷気が安定し、白いオーラが消える事によって漸くシオンはユキの姿を目視した。


「……何あの武器」


 透明な氷の中でユキが握っている見慣れぬ長柄武器に目を細めるシオン。

 次の瞬間、氷の球体は二つの半月となって地に落ちた。


「……ふぅー。これは使いたくなかったんだけどな」


 ため息交じりに呟きながら、翼をはためかせて地面に着地するユキ。

 そんな彼の手に握られているのは長い棒の先にやや湾曲した刃を持つ武器。

 [死神]が持つとされる武器、大鎌だった。


「……ねえユキ。それ何?」

「ちょっと特殊だけど、これは大鎌だよ」

「大鎌って外側にも刃あったっけ?」

「たった今言っただろ? ちょっと特殊だって」


 通常大鎌に限らず鎌というものは内側のみに刃が付いているものだが、ユキの握るそれは内側にも刃が付いた諸刃の大鎌だった。

 問いに答えて貰ったものの、未だに不思議そうにしているシオン、更なる疑問を口にした。


「今のユキってば普通に話してるよね? 解いたの?」

「いや。そういうわけじゃない。今の俺はユキとしての俺じゃなくて、過去の俺、ユキトとしての俺だ」

「過去? どういう事?」

「簡単な話だよ。俺たちのリーダーはゆかりだ。妙な言い方になるけど、下っ端が王と名乗るわけないだろ? シオンが知っている俺はみんながいなくなってから新たに作った力だ。今から見せるのは佐倉ユキとしてではなく、佐倉ユキトとして生きた俺のスタイルだ」


 皆を失い、結果封印した過去のスタイル。

 しかし、今のシオンとまともに戦うには過去の自身。ゆかりと共に作り上げたこの力でなければ通じない。

 それ故にユキは[接続技能]により、過去のスタイルを再接続したのだ。


「[接続技能・戦身憑依・ユキト]って感じだな」


 ユキは一度下ろしていた大鎌を右腕一本で前に突き出し、その刃を左手で撫でると鋭い視線をシオンへと向けた。


「さて、それじやあシオン。過去の俺を超えてみせろ……てね」


 ユキは冗談のように一度笑みを向けると、すぐに真剣な顔へとなって地面を蹴った。


「【六月法・衝月(しょうげつ)】」


 ただ地面を蹴っただけでは決してならないような音がシオンの耳に届いた瞬間、気が付けばすぐ目の前で大鎌を引いているユキ……ユキトの姿が見えた。


「わわっ!」


 咄嗟にバク転をしてユキトの横薙ぎを躱すものの、彼はすぐに追撃をしていた。

 刃の部分だけでなく、時折反対側の石突きを振るう事によって攻撃のパターンを増やすユキト。

 更には石突きを地面に突き刺し、ポールに見立てて素早く蹴りを放つなど、あまりにも近接戦闘に慣れているように感じた。


(近距離じゃダメっ! 遠距離から氷で攻撃するしかない!)


 シオンの頭の中にある自身の戦い方は、氷の鎧によって無敵の防御力を得ている自身の身体を用いた徒手戦闘だ。

 しかし体術だけでは決め手に欠けるため、それを自身の氷によって補う。

 そのために作り出した[雪月花]だ。

 相手の攻撃を無視出来る防御力があるからこその徒手戦闘だったのだが、ユキトの大鎌は氷の鎧よりも数倍頑丈な[雪月花・月]を切断している。

 十中八九彼の攻撃は自身にとって有効打。今まで戦闘にもるダメージを受けた事がないシオンにとっては一撃が致命傷に等しい。


(ダメっ距離を取れない!)


 本能的に持っている高い徒手戦闘技術に圧倒的な氷の力。この二つがあればユキの手助けを出来ると思った。

 だけど実際はどうだ? 致命傷になりうる刃による攻撃は全て躱しているものの、それ以外の攻撃、石突きや蹴りなどは素手で防御している状態。

 回避と防御で精一杯で何も出来ずに防戦一方になってしまっている。

 氷の鎧を突破出来る攻撃を持つ相手に対して、自分はどれだけ無防備だったのだろうか。


(私にとって必要なもの。それは……っ!)


 才能がある者とない者。両者の間にある明確な差はなんだろう。

 ユキは自身に才能がないと知っている。佐倉院で過ごしていた事でそれを強く悟っている。

 だからこそ頭を使い、常に相手よりも優位に立つ事によってそれを補って来た。

 ならばシオンはどっちだ?

 両者の間にある明確な差。それは——


 ——実戦における成長速度だ。

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