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ニノ四


「で? どこでそんな美少女と遭遇したんだ? 折角だし一目見ておきたいんだけど」

「って興味津々なのかよ!」

「当たり前だろ。俺だって男だ。可愛い異性に興味くらいある」

「「え……」」

「こらお前ら。なんでそこで息が合うんだよ」


 あまりにも失礼なタイミングで声を揃えた二人に対して、頬杖を解除したユキは鋭い眼差しを向けていた。


「いや、だって……ねえ?」

「だよな……」

「不服だ。説明を要求する」

「いや、だってよ。シオンみたいな美少女と一緒にいるってのに何も聞かねえし」

「そうそう。シオリンレベルが側にいるのに、そういう感情にならないんでしょ? だから……ねえ?」

「……あー、そういう事か」


 手続き上は兄弟という事にしているが、実際は血の繋がりなんてカケラもない。

 それを互いに理解しているというのに、あの距離で居るというのに、二人が恋人関係にならないのを見て、ユキの中に異性に対する興味がないのだと判断されたのだろう。


「……はぁー。その話なら前に恭介にはした気がするけど?」

「何々そうなの恭介?」

「……ゆかりか」

「あ……」


 さっきまでの態度とは一変して、真剣な顔付きでその名を口にした恭介。

 その名の意味を知る桜もまた、表情を一変させると小さく声を漏らしていた。


「……えーと、俺がこんな事を言っても仕方がねえとは思うけどけどよ。もっとシオンの事も見てやれよ?」

「ああ、わかってるよ。もうゆかりに対する想いは断ち切った。……つもり」

「つもりなのかよ!」


 気まずそうに頬をポリポリと掻きながらそんな事を言う恭介に、ユキはこの前にした覚悟を口にした。

 とはいえ、最後にくっ付いた三文字によって台無しになってしまっているが。


「ちょっと恭介。当時の話をするのは……」

「大丈夫だぞ桜。いつかは乗り越えないといけない傷だ。見守ってくれているあいつらのためにも、俺は前に進まないといけないからな」

「……そっか。強いねユキリンは」

「そんな事ないよ。今までが迷子になってただけって話。そんな俺を見つけてくれたのはシオンだし、生十会のみんなだと思ってるよ」

「……ユキリン。あはっそっか!」


 ユキの言葉によって嬉しそうに満面の笑みを浮かべる桜。そんな彼女とは反対に、面白くなさそうな表情を浮かべている恭介。


「そこに俺の名前はねえんだな」

「……いい年した男がそんな所で拗ねるなよ」

「へっ!」


 呆れた視線を向けるユキから視線を逸らした瞬間、目を丸くする恭介。

 何かに驚いているらしい彼の視線を辿り、ユキと桜が顔を横に動かすと、そこには一人の少女が立っていた。


「どう足掻いてもそこに私の名前が含まれる事はないのでしょうね」

「お前……」


 悲しそうな顔をしてそんな事を言うのは、綺麗な長い黒髪をハーフアップにした少女だった。

 そんな彼女を見つけたユキは驚愕の表情と共にそんな声を漏らしていた。


「お久しぶりですね。結希兎(ゆきと)お義兄様」

「「え?」」


 二人の疑問符には2つの疑問が含まれているのだろう。

 一つはユキの事をお義兄様と呼ぶ少女との関係、そして少女がユキに向けた結希兎という呼び名。


「……久しぶりだな。双花(そうか)


 ぺこりと礼儀正しくある頭を下げて挨拶をする双花と違い、動揺を多分に含んだ声を出すユキ。


「約一年ぶりですね。お義兄様」

「お義兄様って呼ぶのはやめろって言っただろ」

「そう……でしたね」


 ユキの言葉に対して悲しそうな顔をする双花を見て、桜は恐る恐る声を掛けた。


「あのー、どちら様ですか?」


 妙にシリアスな空気の中一人でそんな質問をするのは精神的に辛い。そう思った桜が期待出来ないものの、いないよりかはマシだと思い、幼馴染に応援を頼もうと視線を送ると、何故か虚ろな目をしている恭介が見えた。


「……女神様もなのか……」

「きょ、恭介?」


 彼のつぶやきの具体的な笑みはわからないものの、とりあえずわかった事として、先ほど恭介が言っていた女神様というのは、どうやら今目の前にいるユキの知人なのだとわかった。


「なんでお前がここにいるんだ双花。所属は別のガーデンだろ」

「お父様から教えてもらいました。お義兄様がここにいると、そして前を向き始めたと」

「……はあー。賢一さんめ、余計な事を」

「賢一さん?」


 ユキの口から漏れた人の名前に眉をピクリと動かす桜。

 何やら考え込むような仕草を取った後、彼女は「あっ!」とプルプル震えた指を双花へと向けた。


「ままま、まさか夜月(やづき)双花様?」

「はい、その通りです。私のフルネームは夜月双花です」


 桜の大声によって教室中の視線が集まり、そこにいた見覚えのない美少女の存在によって、静寂の世界になっていた空間に、彼女の自己紹介が轟いた。

 数秒の静寂が再臨した直後、耳が痛くなるほどの歓声が上がった。


「おや? 皆さんどうかしたんですか?」


 可愛らしく首を傾ける双花を前に、ユキは深いため息を漏らした。

 夜月双花。その正体は、このガーデンのマスターである夜月賢一の娘。

 そう。生きる伝説の子なのだ。


「桜。俺はこの馬鹿と話があるから、ホームルームは……いや、場合によっては一限も出れないって言っといて」

「えっ!? う、うんわかった……」


 目をパチクリとさせている桜をどうにか頷かせた後、ユキは不思議そうにしている双花の手を取ると、颯爽と教室から出て行った。


   ☆ ★

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