二ノ一
同日。放課後。
「ファーストコンタクトは酷かったが、生十会の同じ仲間なのじゃ。改めて自己紹介と行こうかの」
生十会会議室には現在、ここ数ヶ月で最高人数の生徒が集まっていた。
その数九名。生十会役員勢揃いだ。
「それってあたしたち両者を知ってる者たちも含まれるのかしら?」
この場合両者というのはユキ、シオンペアとロリィ、くノ一ペアの事だ。
会長の疑問は同じ立場にいる者たちも思っていた事なのか、一人を除いてうんうんと頷いていた。
「この際良い機会ですし一度しても良いのでないですか?」
「……まあ、それもいいわね」
唯一の例外的反応を見せていた少女、六花の提案によって各々改めて自己紹介をする流れになっていた。
「じゃああたしからね。あたしは神崎美希生十会生徒部会長よ。……あとは何を言えばいいかしら?」
「スリーサイズでも言ってみたらどうですか? 私は言うつもりありませんけど」
「ぶん殴るわよ? それじゃあ……そうね。主属性は火。メインウエポンは剣よ」
一番最初に席を立ったのは当然、ここのトップ。低身長ツルペタ金髪ロングの少女、会長だった。
六花と軽い言い合いをしつつ紹介内容を決めていく会長。
「まあこんな所でいいんじゃない?」
「そうですね。性質の公表は流石に控えた方が良いでしょうし、妥当だと思います」
「……なんか偉そうなのよね……」
「気のせいですよ。会長」
普段の無表情を崩し小さく笑う六花を見て、なんとも言えない気分になる会長だったが、ため息を一つこぼすと席に座った。
「では次は私ですね」
そう言いながら会長と代わるように起立したのは、綺麗な銀髪のミディアムヘア。そしてメガネがチャームポイントの頼れる生十会のブレイン兼クーデレ担当者。
「生十会生徒部副会長、柊六花です。主属性は氷、武器は特に使っていません」
多くの幻操師は武器と操術を併用するものだが、六花はその卓越した幻操師としての才能により、武器を持たない純粋な幻操師だ。
ガーデンに通いつつも純幻師というのは中々にレアなケースだ。
「席順的にあたしかな?」
最後にぺこりと頭を下げた六花が着席する中、周りをキョロキョロとしつつ手を挙げたのは、人見知りとは無縁の赤みがかった茶髪の少女。
「生十会生徒部所属、雨宮桜だよ。主属性は会長と同じで火属性。メインウエポンは一応刀だよ」
六花を真似るかのように頭を下げる桜。中々の勢いで上体が動いたため、身長の割には大きい女性的な身体の一部分が存分に揺れていた。
「えーと、生十会生徒部所属、日向琴音です! 主属性は水属性です! 使用武器は鞭です!」
自己紹介を終えて座る途中の桜に立つように促され、緊張した顔で立ち上がった琴音。
立ってから落ち着く事はなく、二本のブラックロング三つ編みを揺らしながら何度もぺこぺこと頭を下げつつ自己紹介をしていた。
途中頭を下げた反動でメガネを落としてしまったのだが、どうにか割れずに済んだようだ。
「これで生徒部側は終わりね。次は委員長から同じように順番で良いんじゃないかしら?」
「そうじゃの、それが楽じゃな」
会長が隣に座るジトメへと声を掛けると、彼女は素直に立ち上がっていた。
そんな反応に向けて小さく反応を示す二人の少女がいる事に、ユキは気が付いていた。
「生十会風紀部会長、通称ジトメじゃ。属性術は正直使わんの。もっぱら[固有術]じゃからの。武器は基本使わんが、槍を使っておった事もあるの」
「へえ、あんた槍なんて使えるのね。知らなかったわ」
「ここに来てからは一度も使っておらんからの。それに多少嗜む程度じゃよ。クフフッ」
見た目が小さい会長よりもさらに小さなジトメ。
会長を中学生だとすると、ジトメは下手をすれば小学生にも見える。そんな見た目だ。
しかし実際にはここにいる全員正真正銘の同学年であり、一切の色素が見当たらない真っ白の髪も生まれ付きだ。
髪の長さは身体との比率を考えれば一位であり、立っている時には膝裏にまで達しているスーパーロングストレートだ。
ジトメの自己紹介が終わり、彼女が着席した瞬間生十会会議室に緊張が走った。
何故なら次は——
「……生十会、風紀部、副会長、[刻み名]、くノ一。主属性、風、武器、クナイ」
今回の面倒事の中心になりそうな二人の内の一人。腕の包帯と首に巻いた長いマフラー、長い黒髪をサイドテールにしている少女。
外見も独特だが、何よりの特徴はその独特な喋り方だろう。
話す時には最初に間を置き、接続詞を一切使わずに単語のみで話すのだ。
まだ内容が内容なだけに単純でわかりやすいが、今後なにか複雑な会話をする事になった際などには、理解するのが難しい事もありそうで不安だ。
「生十会風紀部所属、[刻み名]はロリィなのぉー。主属性は[固有術]、武器は人形なのぉー」
武器紹介の際にいつも抱いているデフォルメされた熊の人形を前に出すロリィ。
その呼び名の通り会長に近いタイプのロリッ娘であり、黒髪をボブカットにして頭の上には大きなリボンをしている。
制服には至る所にフリルが追加されているため、なんともわかりやすい見た目だ。
「んじゃ次は私だね! 私の名前は佐倉シオンだよー。所属は生十会風紀部で、主属性は氷になるのかな? 武器は特に使わないけど、必要となれば氷でちょちょいのちょいするつもりだよー」
待っていましたと言わんばかり手を上げながら立ち上がり、なんとも楽しそうに自己紹介をするシオン。
夜をそのまま投影しているかのように煌めきのある黒髪。猫耳のような癖っ毛があり、毛先は所々少々外側に跳ねているロングヘアだ。
「ちょちょいのちょいってどういう事?」
「こういう事だよー」
桜の問い掛けに対してシオンは笑顔でそう返すと、頭の高さ程度まで軽く手を上げた。
一切幻操陣を出現させる事なく、その手の中に氷のナイフを生み出すシオン。
それは丁度先ほど桜が自己紹介の時に見せた彼女の武器と全く同じ形状をしていた。
「おおっ! 流石はシオリンっそんな事出来るんだ!」
「そだよー凄いでしょー? えっへん! なんてねっあははっ」
ニコニコと楽しそうにしているシオン。
あの一件からどうも前にも増して日々楽しそうにしているように見えた。
変化の内容はポジティブなものだ。それについて不満は一切ない。
「それじゃあ次はメインイベントだね!」
「なんでそうなるんだよ」
「だってユキの番だもん!」
そう言いながら氷のナイフを指先の動きだけで上に弾くシオン。
彼女の行動に皆は一瞬驚くものの、シオンがナイフを手放してその手で指パッチンをする事によって氷のナイフは目に見えないほどの細かい粒子となり、キラキラと綺麗な跡を残して消えていた。
「シオンさんの操術っていつも綺麗ですよねー」
「そうだよねー。この前の天蓋だっけ? あの時も解除した時凄かったもんねー。まるで芸術だよ」
「えへへー、褒められちゃったー」
頬を赤らめながら恥ずかしそうに自身の後頭部を撫でるシオン。
「んじゃ俺で最後だな」
唯一目の前に誰もいない端の席に座るユキが立ち上がるのと同時に、皆の視線が集まった。
「生十会風紀部所属、佐倉ユキだ。属性は使えないけど状況に合わせて無数の武器を使う。だから武器も様々だな。みんなに見せたのは剣と銃だったな」
「へえ。それなら他にもまだ使える武器があるって事なのかしら?」
「ああ、槍とか弓とかも使えるぞ。他にも色々とな」
ユキの[固有術]によって彼の内包世界に存在している無数の人格たち。
彼女たちの人格と自身の人格を接続する事によって彼女たちの武器を使う技術を一時的に会得する力。
これがあるからこそ本来であれば難しい複数の武器の使い方を極める事が出来ているのだ。
「そんなの幻操師じゃないのぉー。やっぱり所詮は男ー、取るに足らないのぉー」
「……停止、要求」
突然そんな事を言い始めたロリィに向かって鋭い視線を向けるくノ一。
しかしそんな事は知らないとばかりにロリィは立ち上がると、ユキの前にまで進んだ。
「ロリィは絶対にお前を認めないのぉー。お前のような男が姫の側にいる事なんて絶対に許さないのぉー」
「……ロリィ」
ユキに向かって威圧的なオーラを叩きつけるロリィに向かって一通の手紙を投げるジトメ。
それを受け取った彼女は皆の前で封を開け、中の手紙にチラリと視線を向けると、それをポケットの中にしまいその場でジトメに身体を向けて膝を付いた。
「命令確認しましたなのぉー。くノ一行くのぉー」
「……了解」
ロリィの呼び掛けに応じて立ち上がるくノ一もまた、ジトメに身体を向けて膝を付くと二人共に退室して行った。
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