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プロローグ後編

「そんな事出来るのか?」

「同じ事を言わせるでないユキ。ワシは委員長なのじゃ。委員に配分する仕事の量はワシの一存で決定出来るのじゃよ」

「だとしてもだ。そんな特別扱い、他のメンバーが許さないだろ」


 同じ委員メンバーなのに特別待遇の者がいれば他の通常待遇のメンバーからすれば不満でしかないはずだ。

 となれば会長側と委員長側だけだなく、委員長側でも内部でギクシャクするという最悪の状況が生まれるわけだ。

 そうなればその中心で振り回される事になるであろうシオンだけでなく、ジトメにとっても不都合が生まれるはずだ。

 自分たちを入れるための譲歩で別物の問題が発生するという状況。ならばそこを責めるのが合理的だろう。そう判断しユキがさらなる追い討ちの言葉を発しようとした瞬間、今度はニタァーっとした笑みを浮かべるジトメ。


「それに関しては問題ありゃせんよ」

「……何故だ」

「何故じゃと? なんじゃ、ユキはワシの言葉が信じられないと言うつもりなのかの? 他の誰でもない、このワシの」

「ふんっ、良く言う。必要とあれば嘘をつく。それがお前という女だろ、ジトメ」


 確かに無駄に嘘をつく事はまずないと言っていいだろう。

 不都合があれば言わなかったり、暈かすだけで嘘は言わない。

 だけど仕方がないと、彼女の思考の中でこれは仕方がない嘘なのだと判断された場合に限り、彼女は当然のように嘘を吐く。

 ジトメはそういう女だ。必要とあればそういう事もする奴だ。

 優しい嘘を吐く事に躊躇いはないのだ。


「ほう。中々に嬉しい事を言ってくれるのじゃなユキ」

「……嬉しい事?」


 言葉の意味が、というよりも意図がわからず、疑問符を浮かべているユキに、ジトメはその外見に反して大人の女性のような妖艶な笑みを浮かべると、自身のボディラインをなぞった。


「このような(ロリボディ)じゃというのに女扱いしてくれるとはの、中々に嬉しいものじゃ」

「……変態」

「シオン!?」


 まさかのシオンジト目化現象に目を丸くするユキを見て、くすくすと満足気に笑うジトメ。


「お前な……それで誤魔化せると思うなよ?」

「クフフッ。なに誤魔化そうとなんて思っておらんよ。今のはただの茶目っ気じゃ」


 それは嘘だ。いやジトメに言わせれば冗談という奴だ。

 嘘と冗談の違いはなんだろうと考える羽目になるのはこれで何回目だろうか。

 調べればすぐにその定義について分かると思うのだが、それを見た所で恐らくは納得出来ないだろう。つまりは自身が納得出来るラインを作らないといけないんだ、と自己完結するユキ。


「あまりため息を吐くものじゃありゃせんぞユキ」

「そうだぞユキー。ため息って一回しちゃう度に幸せ一個がビューンって、アイキャンフライしちゃうらしいよ!」

「それなら聞いた事あるけど、シオンの表現だと何かがおかしい」

「え、そうかな?」

「そうだ」

「んー、まあ意味が伝わるなら良い思います!」


 そう言って元気よく手を挙げるシオン。まるで先生に自分の意見を言おうと張り切っている小学生みたいだな。当てられる前に主張している所がシオンらしいと笑みをこぼすユキ。


「で、ジトメ。根拠」

「まったくしつこい男じゃのー」

「誤魔化す気ないんだろ? だったらこれ以上の脱線はごめんだぞ」


 そう言ってチラリと壁に掛かっている時計に目をやるユキ。

 ジトメに呼ばれたため早くから学校に来ているものの、既に他の生徒たちも登校してきている時間だ。

 今いるのは敷地中央にある時計台の中だ。

 生十会はガーデンの司令塔だ。故に全体を見渡す事が出来るここに会議室や個人の部屋があるのだが、教室までは中々の距離があるのだ。あまり時間を取られると初日から遅刻確定という状況になってしまう。

 元々ここに通う事に賛成していなかったユキとしては、いくら遅刻しても問題ないと考えているのだが、シオンまでそうなると困る。

 転校初日から遅刻すると友達を作るのに問題があるかもしれないからだ。楽しみにしている学校生活がぼっちになってしまうというのはあまりにも悲惨だ。


「そうじゃの。お主らなら教室まで最短距離が使えるとは言え、そろそろ脱線は終わりにするべきじゃろうな」


 そう言いつつ背後を、大窓をチラ見するジトメ。


「なら早く説明しろ」

「何簡単な話じゃよ。ワシが、このワシがただの生徒(・・・・・)を委員に、つまり部下に置くと思っておるのかや?」

「……なるほど。そういう事か」


 つまり委員側に入ってる連中はただの生徒じやないって事だ。

 十中八九[吸血姫(きゅうけつき)・ヴァンパイアプリンセス]と呼ばれるジトメの従僕に堕ちた奴って事だ。

 となればどんな決定であれ、それがジトメの決定ならば異議を唱えるなんて事はない。

 過去ほどの力はないとは言え、それは絶対的な契約と言えるのだ。


「さて、これでシオンの入会を否定する理由は無くなったのユキ」


 指を絡めてニヤニヤとした表情を向けるジトメに、ユキは深いため息を吐いた。


「わかった。シオンは生十会に入りたいんだろ?」

「うん! めんどーな仕事がないなら入りたい!」


 両手をビシッとあげてアピールをするシオン。

 そのアピールだけを見ればやる気が伝わってくるのだが、残念ながらセリフはやる気が感じられない。めんどーな仕事がないならとか……せめて面倒な仕事ってちゃんと言えよって感じだ。


「まあ、シオンがやりたいならどうぞ」

「わーいっ!!」

「でも俺は入らないからな?」

「うん! ……ってええっ!?」


 反射的に肯定したシオンだったが、すぐに「あれ?」とでも言いたげな顔を浮かべると、一つの間の後に叫んでいた。


「なんで!? 一緒にやろうよユキ!」

「お断りします」

「なんで敬語!?」

「これは敬語じゃなくて丁寧語です」

「あ、そか。……なんで丁寧語!?」


 わざわざやり直すシオン可愛い、と親バカに近い感情を抱き思わず笑みをこぼすユキ。

 そんな彼をニヤリ顔で見詰める姫が一人。


「ほう。ついに親バカが娘を手放したか」

「だれが親バカだ」


 それを言うならばシスコンだろっとツッコミを入れたい気持ちを抑えて、相手の代名詞であるジト目を向けるユキ。


「シスコンと言ってもよいの」

「…………」


 さらっと心情を読んでくるジトメにジト目を向けるジト目の友人、ユキ。


「別に俺はシオンを束縛したいわけじゃない。ただこいつは純粋だからな。悪い奴に騙されないように目を光らせてるだけだ」

「クフフッ。お主が言うと比喩には聞こえんの」

「当然だろ? 比喩じゃねえんだからさ」


 そう言って小さく笑い合う二人を見て、疑問符を浮かべるピュアガール、シオン。


「まあ良い。そろそろ時間もリミットじゃからの。明日の放課後他の者にも紹介する。じゃからここに来るのじゃ良いの?」

「はーいっ」

「ユキ。お主もじゃ」

「は? 俺も?」


 既に本日何度目になるかわからない挙手と共に笑顔で返事をするシオンと違い、不機嫌そうな表情を浮かべているユキ。


「シオンの顔合わせじゃ。同席したいじゃろう? 皆には入会候補と言えば問題あるまい」

「……わかった」


 ジトメの言う通り初日は同席しておきたいという想いはあった。だから彼女の提案はユキにとって都合が良いものなのだが……。


「俺の紹介をする時ちゃんと候補って単語言えよ? 勝手な判断で端折るなよ?」

「うむ、当然じゃ。ちゃんとわかっておる」

「……なら良い」


 セリフだけを聞けば安心出来るのだが、それがニヤリ顔から発せられているため不安が拭えないユキだった。


「ああああああっ!!」


 突然の叫び声にユキとジトメが発信源に目をやると、そこには青い顔をして何かを指差すシオンの姿があった。


(シオン? 何を指差して……時計? ……——っ)


 ホームルーム開始三分前をお知らせします。


「やばっ遅刻!」

「クフフッ。結局こうなったの。ほれ、こっちを使うのじゃ」


 そう言ってジトメが二人に見せるのは、全開になった大窓。


「くそっ。それしかないかっ。シオン! いけるな!」

「モチのロンだよ!」


 シオンの返事を聞くのと同時に走り出すユキ。それはシオンもまた同じで、ジトメの座るコの字型テーブルの横を通り抜け、二人は窓から、十階以上の高さがあるそこから飛び出した。

 床がなくなり、重力に従って落下する二人。そんな中シオンは右腕を前に突き出した。

 風によって靡く制服。隙間から見える彼女の手首には白銀の腕輪が見えた。


「行くよユキ! 【氷操(ひょうそう)・氷結=橋道(ブリッジ)】」


 彼女の声と魔力操作がキーとなり、白銀の腕輪から溢れ出す無数の式。

 それらを空中で組み合わせ複雑な魔法陣のような形に組み立てる。

 幻操式を元に組み立てられた幻操陣にシオンが魔力を、正確には幻魔力を注ぎ込む事によって陣は己を形作る式によって設定された通りに役目を果たす。

 陣が発光しその輝きが消えた時には既に、二人は足元に出来た氷の橋を滑り降りていた。


「クフフッ。見事な魔法……いや、幻操術じゃの」


 このガーデンに通う者たちはそれを魔法とは呼ばない。

 魔法とは似て非なる物。幻の技術、幻操術。

 それ故にそれを行使する者たちはこう呼ばれるのだ。


 ——幻操師と。

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