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第二話(6)



「「「「きゃああああああっ!」」」」

「その登場は普通にホラーだからやめてやれ」


 六花を除いて悲鳴を上げる生徒部の面々を見て、ユキはため息と共に言った。


「お断りじゃ。ワシの生きがいは嫌がらせじゃからの」

「そんなんだから長らくぼっちだったんだぞ?」

「今はぼっちじゃありゃせん。無問題じゃ」

「……つまり今までは問題あったと? へえ、やっぱり当時良く来てた理由って寂しかったのか?」

「黙るのじゃ!」


 ニヤニヤ顔のユキに対して赤面しつつ叫ぶジトメ。そんな彼女に驚愕の視線を向ける生徒部の面々が見えた。

 ふと気が付けばどうやら驚いているのは彼女たちだけではないようだ。周囲に意識を向ければ、ほぼ全方向から無数の視線が集まっている事に気が付いた。


(騒ぎ過ぎたか? いや、この程度先週と同じだよな。違いと言えば……ジトメか)


 よく思えば外野の面々はジトメの反応に驚いているより、まるで珍しいものを、そうツチノコでも発見したかのような顔になっている事に気が付いた。


「なあジトメ」

「……なんじゃこのいじめっ子」

「その言い方やめろ。風評被害待ったなしだ」

「ふんじゃっ」


 拗ねるようにそっぽを向くジトメ。

 彼女の見た目は元々子供みたいだからな。そんな彼女が子供っぽい行動をすると、本当に小さな子をいじめている気分になるユキ。


「……じゃ桜でいいや」

「えっあたし? えと、何ユキリン?」

「この馬鹿が今まで食堂に現れた事って過去にあったか? というかお前も生徒のはずだよな? クラスどこだよ」


 ジトメは委員長として普通より高い権限を持っているというだけで、本来であれば彼らと同じ生徒のはずなのだが、ユキはこの一週間教室周辺で彼女の姿を見た事はなかった。

 クラスは全部同じ階に揃っている。訓練のために教室移動も多いのだが、その中でユキはジトメと遭遇した事がなかった。

 別のクラスである琴音や恭介。六花や会長とは遭遇した事があるのだが、ジトメとはないのだ。

 この話題になったのと同時に、ジトメがそっぽを向いた状態のまま妙な汗を流しているのが見えた。

 ついでに不機嫌そうに表情を歪めていく会長の姿も見え、そんな彼女と偶然視線が合った瞬間、彼女はため息をこぼした後に口を開いた。


「あたしと同じクラスよ。でも、一度も教室まで来たことないのよ」

「……お前まさか委員長室登校って奴か」

「妙な造語を作るでないわ!」


 珍しくジト目ではなく、両目をくの字にしながら叫ぶジトメ。すくにいつものジト目に戻っていたが、中々にレアだ。


「ジト目じゃないジトメ初めて見た!」

「おっ。シオンは初か。こいつクールぶってるけど実際はただのクソ餓鬼だからな。からかえばすぐにこうなるぞ」

「そうなんだ! これからは私も弄るね!」

「やめるのじゃ! これっユキ! シオンに妙な事を教えるでない!」

「シオンは色々知るべきだろ?」

「それはそうじゃがそういうのは無用なのじゃ!」


 再び両目をくの字にしているジトメを見てユキはシオンに「な?」と言うと、二人は楽しそうに笑い合っていた。


「あっ、そうそう会長。こいつの眷属たちの言葉をそのまま受け取らない方がいいぞ。このアホに惚れ込む奴らなんて大抵とち狂ってるから、理性的な、人間的な会話なんてまず出来ないし、何を言ってもジトメ様万歳とかで終わらせるだろうからな。あ、あとは自分で考えるのを放棄してジトメが全て正しいって思い込もうとしてる奴もいるな。まあ、ジトメがとある線で才能に溢れてるってのは一応本当なんだけど、こいつの場合ステータスを全部それに振った感じのアンバランス小娘だから、他はただのわがまま娘って感じだ。要はクソガキの相手をしてると思って会長が大人になった方が賢明だぞ? 赤ん坊相手にマジギレするなんて馬鹿みたいだろ? というわけでこれからは生徒部だとか委員部だとか馬鹿みたいな派閥作ってないで、仲良くとまではいかなくてもビジネスライクに協力してやれよ。書類処理ならジトメが得意だから全部投げても良いと思うぞ。んじゃ、シオン行くぞ」

「はーい」


 圧倒的な長文を一気に言ったユキに皆が呆然としている中、シオンは元気よく手を上げて返事をすると、二人は既に空になっているお盆を持って立ち上がった。


「……ねえ委員長」

「……なんじゃ会長」

「……いえ、なんでもないわ」


 ユキについて聞こうと思った会長だったが、疲れた顔をしているジトメを見て今はやめようと思うのだった。


「あ、次限からは教室来なさいよ?」

「お断りじゃ。今更習う事なんてありゃせんからの」

「それは正直同じだけど、それでも生徒の規範になるべき生十会に所属しているのだから、サボりはダメでしょ?」

「…………」


 ユキの助言もあって会長は初めて冷静にジトメと会話をしていた。

 彼の言葉を聞いて、そして彼らとのやりとりを見て彼女に対する会長の中でのイメージが変わっていたのだ。

 今まですぐに喧嘩腰に話し掛けてきた会長から突然棘がなくなり、その理由もわかっているジトメはなんとも言えない視線を、たった今片付けを終えて食堂を出て行ったユキへと向けていた。


「……ふん。自分は拒否しているのにワシにだけまた作れと言うつもりなのかの。あのアホは」

「委員長? それってどういう事よ?」


 いつものおちゃらけた雰囲気ではなく、時より見せる真面目な雰囲気を纏いながら呟いた彼女の言葉に会長が問い掛けると、ジトメは「なんでもない」と質問に答える事はなかった。

 それは二人だけの秘密だと、シオンすらも知らない二人だけの秘密だから。


   ☆ ★ ☆ ★


「よし。うまくいったな」


 会長とジトメが和解してから更に一週間が経った。

 昼休み、食事を開始してから少したち、一度周囲を確認した後ニヤリとした笑みを浮かべるユキを見てシオンは言う。


「あっ、やっぱり何か企んでたの?」

「企んでたって表現悪いな……」

「でも否定はしないんだねー」

「まあな」


 ちょうど一週間前にあった出来事。会長たち生徒部の面々の前で、いかにジトメという少女が子供なのかと言うことを熱弁したのだが、その意図は一つじゃなかった。

 一つはジトメ本人の前で話す事によってジトメのキャラをぶち壊し、印象を一気に変えてしまうため。そうする事によって実力はあるくせに不真面目な彼女に対して怒りを覚えていた会長との仲を取り持つため。

 前に桜とした生徒部と委員部の仲を改善するという約束を早々に最も楽な方法で、主に原因となっていたジトメに天誅という名の辱めを与える事によって解決したのだ。


「それでー? 何企んでるの?」

「企んでるというか、企んでた。過去形だな」

「あ、うまくいったって事は終わってるってことはだもんね。それじゃ改めて、何企んでたの?」

「この一週間昼に来なくなった奴がいるだろ?」

「あ、コトコトの事?」


 コトコトというのは琴音の事だ。どうやらあだ名で呼ぶ事になったらしい。


「そういえば琴音っち来てないよねー」


 とはいえ呼び方が安定しないのがシオンという気まぐれ少女なのだ。


「最初はあの一件の印象で上書きされれば良いなーくらいだったんだけどな」

「まさかのお昼は生十会のみんなで食べましょーうだもんねー」


 今頃生十会の面々は生十会室でお昼を食べている頃だろう。そんな二人の会話をユキの隣で聞いていたもう一人の男子は、食事の手を止めて疑問を口にした。


「なんでシオンはいるんだ? お前は役員だろ?」


 恭介の疑問はもっともだ。生十会役員で集まっての食事会。勿論強制参加というわけではないが、桜から聞いた話だとシオン以外はあのジトメすらも参加しているらしい。


「んーと。理由としてはシンプルにユキと一緒に居たいからだよー」

「…………」


 満面の笑みと共にそう言うシオンに、恭介はなんとも言えない顔をした後、ちらりとユキの顔を確認する。

 恭介の視線には「お前ら本当に付き合ってないのか?」という疑いが込められていたが、ユキはそれに気が付かないふりをするのだった。


「それに生十会の食事会ってジトメの人見知り克服のためだもん。仲の良い私が行ったら意味なくなっちゃうと思うよ?」


 シオンの言葉に「あ、そうか」と一時納得したものの、ぐぬぬと唸り疑問顔を浮かべる恭介。


「……人見知り克服のためなら尚更居てやった方が良いんじゃねえか?」

「ジトメに必要なのは荒治療だと思います! ピシッ」


 満面の笑みを浮かべて敬礼をするシオンに、恭介は「そ、そうか」と密かにジトメの事を哀れんでいた。

 次回更新は明日です。感想や評価、お気に入り登録などよろしくお願いします!

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