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ツバサに彩る1ページ  作者: 結城 麗漓
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1話目


妃芽、陸、陽のクラスは3年G組。

生徒数の多い聖桜学園は、もちろんクラス数も多く、A組からG組まである。


そのクラス割の規定は様々だが、学校である故、基本的に生徒の成績や部活動で名を挙げた者など(例外あり)。


自主性と向上心、自由を掲げる聖桜学園では、悪ければ悪いほどクラスが下がっていく。



「うーっす、お前ら、そろってっかー」



そんな最後から2番目のクラスの担任教師である平カ崎(ひらがさき) 一流(いつる)が、軽いノリで教室に入ってくる。


もう40代半ばな筈だが、かなりの童顔な為、まだ30代前半で通りそうな一流は、そのくだけた性格から、生徒に人気があった。



「あ? なんだ、まーた3バカは遅刻か?」



三人分の空席に気づいた一流は、呆れ混じりにため息を吐いた瞬間、教室の扉を外さんばかりの勢いで、妃芽、陸、陽が傾れ込んでくる。



「よっしゃー、ギリギリセーフ!!」


「って、もう平ちゃん先生、来てんじゃない⁉︎」


「あ、この時計、3分遅れてた」



騒がしい陸と妃芽、マイペースな陽。

そんな彼らの姿に、クラスメイトたちはいつものことだと苦笑してしまう。



「そこの3バカ」



出席簿片手に、彼らのところにやってきた一流が、不敵な笑みを浮かべ告げた。



「あとで職員室に来い。良いもんくれてやる」



絶対ウソだと、彼の不敵な笑みが言っている。



「あは、あはは、あああたし、用事思い出したんで早退しまーす……」


「逃がすか、アホ」


「ぎゃふっ!!」



危険を感じ、すかさず逃げようとした妃芽の首根っこを掴み、一流が目を据わらせ笑う。


「この俺から逃げようなんて、4千年早いぜ。お前程度の悪ガキの行動パターンは、お見通しなんでな」



「きゃあ〜〜〜、お助けぇぇ〜〜」


「そう嫌がるな。今から俺の楽しい楽しい英語の授業が始まるだからなあ。くくくっ」



ドSな笑みを浮かべた一流が、暴れる彼女を強引に席に座らせる。



「さすが平カ崎先生……」


「姉貴や海兄さんたちの担任だっただけあるな」



渇いた笑みを浮かべた陸と陽がそんな会話を、囁き交わす。


偶然というのは恐ろしいもので、一流は18年前、妃芽の両親の担任でもあったのだ。




            ♪



「なに、これ……」



休み時間、半ば連行される形で職員室に連れてこられた妃芽たち3人の前には、山積みにされた英語のプリント用紙があった。



「なにって、俺お手製の英語のテストだ。ありがたく受け取るがよい」



煙草の煙を吹き上げた一流が、ニヒルに笑い答えるが、すかさず妃芽が噛みつく。



「そんなの見りゃ解るわよ、見りゃ‼︎ まさか、このテストがプレゼントって言いたいわけ⁉︎」


「その通り。遅刻した罰だ」



マジでと、彼女ら3人が不満げに眉を寄せてしまうが、一流は呆れ顔で続けた。



「文句あるなら遅刻すんな、バーカ。若しくはバレないように遅刻しろ」


「先生ー、言ってることが矛盾してまーす」



一流のよく解らない言い分に、思わず陽がつっこんでしまうが、彼は気にせず言い募る。



「大体、俺がお前らくらいの時、遅刻なんて一度もバレなかったぜ」


「な、なんでよ?」



興味本位に彼の話に食いついた妃芽、陸と陽も気になるのか視線を向ける。


そんな彼女たちに、煙草の煙を吹き上げた一流が、強気に笑い答えた。



「替え玉作戦」


「「はぁ?」」



なんだそれはと、彼女たちのマヌケな声を上げてしまう。しかし彼は、学生時代の悪行を語る。



「だから替え玉だってーの。出席取る時に、ダチに代返してもらっといたのさ。担任の奴、返事さえしとけば誤魔化せたしな」



ちなみにと、メチャクチャ楽しそうに目を輝かせた一流が、まだまだ話を続ける。



「遅刻してんのに、わざわざ正面から入るなんてしなかったしな。風紀委員に見つからねーよう、塀を越えていれば、あとは楽勝楽勝」


「くっ、まさかそんな手があったなんて……」



一流の話に、オーバーリアクションで応えた妃芽が、本気で悔しがるが陸と陽は呆れ顔だ。



「いや、明らかに二人とも話が明後日の方向に行ってるから……」


「ていうか、妃芽も今更それに気付くかな……」



確か自分たちは、遅刻のことで呼び出されたはずだがと、彼らは互いに顔を見合わせ、大きなため息を漏らす。



「よし、妃芽。この一流大先生が、遅刻した時のせこい裏技を教えてや……るぼはあぁ!」


「よっしゃー、これで明日から堂々と遅刻でき……るぐふり!」



不意に潰れた蛙みたいな声を上げた妃芽と一流が、その場にひっくり返る。



「ったく、手前ェらは何しに学校に来てんだ」



そんな呆れ声でぼやいたのは、一流の向かい側の席に座った緋色の髪が印象的な男性教師。



「己嶋先生……。今、思いっきり辞典投げたっすよね⁉︎」



表情を引き攣らせた陸が、暴走する妃芽と一流を黙らせた分厚い辞典を拾い上げる。



「心配するな。妃芽にはちゃんと頭と顔を避けて投げたから」


「いや、そういう問題じゃなくて……」



涼しげに答えた緋色の髪の彼、己嶋(こじま) (かなめ)は、この学園の数学教師だ。


一流の向かい側の席で、彼らの暴走話を聞いていて、堪らず手荒いツッコミを入れてしまったようである。



「そういう問題だよ、陸」


「は? なんだよ、陽」



ふと、要の判断に頷いた陽に、陸は訝しげに振り返るが、至って真面目な顔をした彼が応える。



「妃芽の取り柄っていったら、両親からのDNAを受け継いだ美形の顔とバレーの腕だけなんだし」


「なんだと、コラーー!!」



陽の失礼な発言に、のびていた妃芽がすかさず蘇った。

ちなみに、まともに辞典が顔面直撃した一流は、未だ気絶している。



「頭の方は、これ以上馬鹿にならないようにっていう己嶋先生の『生』暖かい優しさ……」


「だーっ! うるさーいっ!」



ムキになり、どつこうとする妃芽を、陽は易々と躱して歩く。完全に彼の方が、妃芽より一枚上手である。



「陽の隠れドS〜〜!!」


「うん、そうだよ。それがどうかした?」


「肯定しやがったし……」



負け犬の遠吠えを挙げた妃芽に対し、あっさりと開き直った陽が、末恐ろしい。

柔な顔をして、その腹の中は真っ黒なハトコに、陸は今後が心配になってしまう。


一方、職員室であることを忘れ、大騒ぎしている彼らに、要は再び大きなため息を吐く。



「手前ェらもいい加減にしろ。職員室で騒ぐな」



だが、そんな要に、妃芽は辞典をぶつけられた事で噛み付いてくる。



「てか、己嶋先生!! いくらなんでも脇腹に辞典を減り込ませるなんてシドイーー!」


「手前ェらがやかましいからだろうが」



反省の色ゼロな彼女に、さすがに青筋をおったてた要が凄むが、妃芽は小型犬並みにキャンキャン吠えまくる。



「だからって暴力反対ー! 朝斗(あさと)のお父さんじゃなかったら、絶対に教育委員会に訴えてやるんだからっ!」


「やかましいっ。チワワみたいにキャンキャン喚きやがって」



妃芽の背後に、気の強いチワワを思い浮かべながら、要は暴れる彼女の首根っこを掴むと、陸たちに差し出す。



「このチワワ連れて、さっさと戻れ。煩くてかなわん」


「あたしゃ、犬かぁー!」



犬扱いされ、妃芽が両手両足振り回し暴れる。



「まーた、パンツ見えっぞ、お前は……」



学習能力のない彼女に、陸は呆れてしまうが、そういえばと、何かを思い出した陽が声を上げた。



「朝斗と言えば、朝斗たち待ってんじゃないか?」


「ああっ!!」



陽の言葉に、とんでもない大声を上げた妃芽が慌てだす。

首根っこを掴んでいた要の手を振り払い、妃芽は一目散に職員室を飛び出していく。



「こうしちゃいられないわ。まっててね、朝斗〜〜〜!!」


「チワワ大暴走だなあ〜……」


「だな。とりあえず俺らも行くか、陽」



廊下を暴走列車並みに突っ走っていく妃芽に呆れつつ、陸と陽も彼女の後を追って、職員室を出て行く。


そして、ようやく嵐が去ったと、要が疲れた様子でため息をついた頃、一流が起きた。



「なんだ、3バカトリオは、またどっか行ったのか」


「朝斗たちのところですよ」



それよりと、目を据わらせた要が、頭をさすっていた一流に振り返ると、一気に捲くし立てた。



「いい加減、その暴走グセ直してください!! そうでなくても、あのチワワ……妃芽が騒がしいんですから!!」


「あーはいはい。スミマセンデシター」



ムチャクチャ棒読みな一流の態度に、もう一発くれてやろうかと、要は広辞苑を構える。

そんな要の様子に苦笑した一流が、不意に真面目な顔で口を開く。



「つい楽しくてな。妃芽たちを見てると、あいつら教えてた頃を思い出しいちまってよ」


「……ま、まあ、それは解らんでもないですが」



あいつらと、妃芽の両親たちを教えていたころの事を口にした彼に、要も少し懐かしい気持ちで頷く。


一流とは、要が教師になる前からの知り合いだ。

彼の教え子だった妃芽の両親たちとは、友人関係で、それを通じて一流と顔見知りとなった。


まさか同じ学校に赴任するとは思ってもみなかったが。



「ですけど、それとこれとは話は別です。あんたが暴走する度に、オレが尻拭いする羽目になるんですから、少しは大人しくしててください!!」


「おわっ、ちょっ、落ち着け要〜〜」



なんだか良い話で、話を逸らそうとしたが、そうはいくかと、要が一流のネクタイを掴む。

そして、職員室の隣にある生徒指導室へ彼を引き摺っていく。



「少しはあんた、落ち着いてくださいよ。もう40過ぎのオッサンなんですから……って聞いてるんですか……のわ!」



振り返ると、引き摺っていたネクタイだけを残し、一流は逃げていた。



「悪ぃーが、俺は長い説教は嫌いなんでな」



窓から逃げようと、身を乗り出した一流が呑気に手を振ると、そのまま飛び出していく。



「あっ、コラ、平カ崎先生!」


「じゃーなー、次の授業までには戻ってくるわ〜」


「っ〜〜〜……」



人の話などガン無視で逃げていった一流に、プルプルと体を震わせた要が次の瞬間、キレた。



「だから、そういうところを落ち着けって言ってんだーーー!」

 

 


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