Fight for End
この私が、絶体絶命の危機に瀕するなんて。
一面の砂地。
染まる赤。
本来ならば私の「熱」の力ですべての水分は吹き飛ぶはずだが、その血はじんわりと液体をとどめている。
その理由は至極明確だ。
私が対峙しているのが、力の及ばない強大な何かだということだ。
「お前の内臓はいくつかつぶした」
そういってフードを被った敵は、切り立った岩の上から嘲笑った。
ビリヤードの玉を摘むように、その指が空中を捻ると私の体は沸騰したように熱くなり、次第に脳天から寒気が押し寄せた。
背骨を折り曲げてうずくまる。
意識を失う前にと、右手首に隠していた入れ墨の鳥を放つ。
私が4回瞬きした瞬間、ただの墨は敵の背後で巨大な青白い炎の鳥に姿を変え、急転直下で敵に襲いかかった。
「見えている」
気付くと鳥の動きが止まり、その足元には黒い鎖が繋がれている。
その先には私の首と繋がっており、思考する隙もなく私は引きずられ、のたうちまわった。
「君の能力は熱だ。
熱の本質は、実は燃やすことではなく、異形にある。
最初はほんの少しの火種でも、ある物質をまったく別の形に様変わりさせてしまう。
残念だが、君の意識が形をとどめ置けない以上、その炎は諸刃の刃として君の体を食い尽くす」
「あなたの能力は、意識操作、ただのハッタリでしょう」
「言いたいように言ってほしい。
けれど君はなぜ戦う。理由も答えられないだろう。そんな覚悟では僕は止められない」
フードの下で一瞬表情が濁った気がした。
だが次の瞬間、敵が手を空から振り降ろし、同時に私は巨大な黒い檻に閉じ込められた。
「君の意識は変革を唱えながら、檻の中に閉じこもっている。
だから逃げられない」
ああ、これはやばいかもしれないな。
手札はすべて使った。
砂も雨も風も、すべて熱の力で武器に変えてきた。
けれどそれも通用しない。
檻の外の鳥が私の混乱を読んで暴れ出し、私の首輪をきりりと締め上げる。
ここまでか。
でも、私、誰かのルールで負けるのって、絶対嫌なのよね。
私は手前の柵を一本引き抜き、一瞬狙いを済まして向こうの敵に投げつけた。
柵は高温の疾風の中で唸りを上げて一本の矢に変化し、そのまま敵の脳天を突き刺した。
あっけなく静かな幕引きだった。
敵の首が真後ろに折れ、体ごと倒れこむ。
その音は砂の奥に吸い込まれていった。
苦々しい勝利の味を舌で転がしながら、檻を解体し、伏した敵のもとに歩み寄る。
フードを取る。
息を呑む。
私と齢も変わらぬ少年がそこにいて、武具であろう鏡をしかと胸に抱いていた。
ああ、あなたも、この物語の犠牲者なのね。
血を吐き、深く息を体の筋に通す。
私は彼の瞼をそっと閉じると、炎の鳥に乗って、風吹きすさぶ次の戦場へと向かった。