藤崎龍二の物語
数日後、神奈子と文はある場所へ向かっていた。
「この先ね?」
文は頷く。
「しかし、まさか本当に用があるとは……それも数年前の、外の世界で起きていた異変についてなんて。一体何故ですか?」
「あの異変だからこそ、聞かないといけないのよ。それが雪菜についての手掛かりになるから。」
「そうですか……」
そう話しているうちに、目的の場所へ着いたようだ。
「ここが……」
「えぇ。ここが彼女の住む家です。」
木造の家の前で立ち止まる神奈子と文。文は扉の前でその家主の名前を呼ぶ。
「梨子、いますか?」
家から返事が来ない。
しかし、文は話を続けた。
「山の神が貴方に聞きたいことがあると聞いて来ました。なんでも、東條雪菜に関する事のようです。」
扉が開く。
そこから現れたのは、蒼い瞳の黒髪の少女。
その少女こそが外の世界で東條雪菜の近くにいた武酉梨子という少女だった。
「……今更、私になんのようですか?八坂神奈子さん。」
喧嘩腰でそう問う。
睨まれながらそう聞かれた神奈子は、一度息をはいてから答えた。
「そこの天狗が言った通りよ。雪菜が外の世界で何をしていたか聞きたいの。」
「…………。」
「その様子じゃ私が雪菜を生んだ張本人だって知っているようだし。」
「……生んだ、ねぇ。」
嘲笑うように呟く梨子。
「梨子。さっきから失礼よ。」
「いや、良いんだ。馬鹿にされようが構わない。いや、本当は私の事を憎んでいるんだろう。でもそれで良い。それは雪菜の事を思っているから、そう捉える事ができる。」
文は神奈子の言葉の意味がよくわからなかった。しかし、梨子には伝わっている。
「……まぁ立ち話もなんなのでどうぞ。」
梨子は二人を家の中へ入れた。
三人が座り、話は続く。
「それで、聞きたい事ってなんですか?」
「そうね……いろいろと聞きたいけど、まずは“誰が彼女を解放した”のかしら?」
梨子は眉間にしわを寄せる。
「どういう事?」
「確かに私は彼女を早苗から引き離した。しかし、その後彼女を封印したはずだ。いずれ解放して新たな命として誕生させるつもりだったが……」
「えっと……すいません、話の流れがよくわからないんですけど。」
そう言ったのは文だった。
「そうね。この子は多分雪菜から聞いているんだろうけど、あなたは知らないよね。」
神奈子はそう言い、説明を始めた。
「早苗は昔、一度だけ感情が抑えきれなくて暴走した事があるわ。」
「暴走……?」
「えぇ。能力の暴走。あの子の能力は【奇跡を起こす程度の能力】だけど、奇跡というのは何度も起きてはいけない奇々怪々なもの。何度も起きてはいけないわ。」
「一体何故、そのような事が……?」
「私もよく知らないわ。でも能力の暴走っていうのは大体、負の感情が抑えきれなくなった時に起きるの。貴方もそのような事例にあったはずよ。」
文は暫く考え、思い出した。
龍二の能力の暴走の時、文はとある事件で一緒に戦っていた。その時、文は暴走した龍二を止めるのに必死だった。
(あの時、なんで龍二さんは暴走したんだっけ……)
考えるが、思い出せない。
一方神奈子は話を続け始めた。
「負の感情が抑えきれなくなったなら、無理矢理その感情を引き剥がせば良い。」
「そんなこと出来るんですか?」
そう聞く文に、キリッとした表情で神奈子は言う。
「できるわ。神様だもの。」
「わぁかみさまってすごいですねぇ」
「その時引き剥がした感情を思念に変えたのが雪菜……で合っているのかしら?」
そう聞く梨子に神奈子は頷く。
「でも私はその後に彼女を封印した。理由は、暫く放って暴走する感情が静まるのを待つためよ。」
どんなに悲しい感情でも、どんなに憎い感情でも、いずれは静まるのが感情。
思念体に変え、行動を制限しつつ普通な人間のように生活させるのが目的だった。
「他の感情もいつか自然とついてくる。だから、いつかは普通の人間のように暮らせさせたかった。でもいつの間にかその封印した感情は消えていた。」
「その時点で怪しいとは思わなかったんですか?」
「場合によっては、消滅することもあるから、まさか盗まれただなんて思っていなかったわ……」
神奈子は早苗から引き離した感情を思念体に変え、暫くの間封印していた。
しかし、封印していた思念体はいつの間にか盗まれていた。
犯人がどんな意図をもって盗んだのかはわからない。しかし、思念体を盗む……という事はその思念体を連れていく事が出来るほどの力を持っていることが前提。
「えっと……つまり犯人は神奈子さんのような神様である可能性が高いと?」
「それか、スキマ妖怪みたいな高い格の妖怪が、まるで式として操っているのか……いずれにせよ、厄介な相手だということは確かだわ。」
「それと、私が知りたいのは盗まれた後よ。」
神奈子は梨子に聞く。
「この際、誰が彼女を解いたのかはわからなくても良い。あの子が何をしていたのか。龍二との接点はなんなのか。それについて知りたいわ。」
「……それは、百華繚乱に聞くのが一番じゃないの?」
「百華繚乱……龍二の事ね。そう出来ればしたいけど、それが出来ないのよ。」
「どういうこと?」
そう聞く梨子に答えたのは、文だった。
「貴方はすぐに捕まえてこっちに戻って来たから知らないだろうけど、龍二さんは急に東條雪菜の事を敵対し始めたんですよ。」
「あいつが?なんで……」
「とられたのさ。記憶をね。」
神奈子は雪菜の能力について、またその能力で雪菜が何をしたのか、説明をはじめた。
東條雪菜の能力は東風谷早苗と同じ【奇跡を起こす程度の能力】だと神奈子は推測する。
しかし、記憶を消す奇跡なんてものは存在するのだろうか?
本人はそう説明したが、もしかしたら記憶を消す能力も、封印を解いた者が与えた能力かもしれない。
「……ホントに厄介ですね。」
能力の説明を受けた文がそう言う。梨子も頷き、神奈子に聞いた。
「それで、あの子は百華繚乱に何をしたのよ?」
聞かれた神奈子は、あくまで推測だという事も予め言って、説明し始めた。
雪菜は龍二の記憶の中から自分との思い出や自分の印象等、【東條雪菜に関する記憶全て】を龍二から奪った。
そして龍二は東條雪菜の事は全く知らない、赤の他人の関係になった。
「成る程ね……でも、それから雪菜を敵対した理由は?」
「そこがわからないんですよ。私が気付いた時には既に敵対関係になっていましたし……」
「それなら、私が知っています。」
扉の方から声がする。三人は一斉に振り向いた。
そこにいたのは椛と藍。
「彼女が龍二の記憶を奪ったのは中2の時。先輩は覚えていますか?龍二殿が暴走した時のことを。」
聞かれた文は頷く。
「勿論。忘れてるわけないわ。」
「なら良かったです。雪菜さんはその時龍二が暴走したのは自分のせいと理解していました。そして龍二が自分の所に来たのは自分の事を知っているから……」
「だから、記憶を奪って、他人にさせたと。それで、雪菜が敵対関係に立った理由は何かしら?」
神奈子は椛に聞く。
「雪菜さんが敵対したのは……多分、それでも龍二殿は戦いに巻き込まれているからでしょうね。」
「どういうこと?」
「そもそも、龍二殿はなんで戦うことになるのか。そこから考える必要があります。」
「なんでって……そりゃ椛が巻き込んだんでしょ?」
文が椛にそう言う。
その通り、龍二が戦う事になったのは椛が外の世界にある任務でいった時に助っ人として龍二に頼んだ。
しかし、椛はそれを否定する。
「確かにそれも理由かもしれませんが……龍二殿の親が、龍二殿に言っていた言葉が気になるのですよ。」
それは龍二が戦うと決めていない時の事。
龍二の親が龍二に告げていたのを椛は偶然聞いていた。
『いつかこうなるとは予想はしていた。何も知らないアンタには悪いけど、アンタは闘う運命にあるから……ごめんね。』
「……よくわからないわね。ホントにそう言っていたの?」
梨子は椛に聞く。椛は二回頷いた。
「言ってましたよ。ちゃんと記憶しています。」
「戦う運命にあった……?」
「えぇ。でも、その言葉には絶対に裏があります。そもそも彼はたった13年しか生きていなかった。なのに、妖怪と渡り合えるような力を少しでも使いこなせるなんておかしいと思うんです。」
「それは……前々から訓練されていたとかじゃないの?」
「昔、本人に聞きましたがそんなことは一切なかったと。」
「一切なかった……ねぇ。アンタはどう思う?藍。」
神奈子は話題を藍にふる。
「そもそも、なんでスキマ妖怪の式がここに来た?」
「少し、事情があってね……なに、紫様は関係ない。私の事情でここに来た。」
「アイツとは関係なく……?それこそ気になるが……答えるつもりは?」
藍は首を横にふる。
「悪いが、あまり言いたくはない事なんだ。」
「……そうか。まぁいいけど、それで、アンタはどう思う?こういうのは得意でしょ?」
「まぁ苦手ではないが……そうだなぁ……」
藍は自分の右手を顎に当てて考える。
「藤崎龍二が戦う理由……か。それを当てるには少し情報が少ないんじゃないか?しかし元々戦う運命にあったという事は、東條雪菜という少女を操っている犯人は、最初から龍二を狙っていたんじゃないか?その理由がわからないから、なんとも言えないが……」
「最初から龍二さんを……やっぱり訳ありですよね。」
「それも、龍二殿が知らない訳が……」
「ここで話す事は終わった?ならとっとと帰って欲しいんだけど。」
黙りこんだ辺りの空気をやぶったのは梨子のその言葉だった。
「冷たいですね……もう少しここで考えたって良いじゃないですか。」
「よくないわよ。私がこんなところに住んでいる理由知ってるでしょう?」
「???」
知っているかと思っていた梨子だが、ここに来たものは全員知らないらしく。
梨子はため息をつき、全員に言った。
「…………見られている可能性があるわ。アンタ達の言うその【犯人】とやらに。」
「!?」
言われた四人全員が驚く。最初に梨子に聞いたのは神奈子。
「なんで言わなかったのよ!?」
「貴女ならわかると思ったけど……考えてみなさいよ。私がなんで妖怪の山の奥地に一人でいると思う?」
梨子が住む場所は他の天狗や妖怪達が住む場所とは離れた所にある。
「まぁ場合によっては、見られてない可能性もあるわね。或いは見ても見ぬフリをするか。あの人なら考えられる。」
「梨子……あなたまさか」
文の言葉に梨子は頷く。
「そのまさか、かもね。私はあなた達の言う者が誰かわかっている。ただ、それを言うことは出来ないわ。言ってしまったら消滅させられちゃうもの。」
梨子がそう言ったとき、床を強く殴った音がする。
「………最終的には自分か。正しいが、腹立つわね。」
「当たり前よ。人間だって妖怪だって、最終的には自分が一番に決まっている。」
睨む神奈子に臆する事なく答える。
「第一、これは交換条件もふまえられているの。流石にあの人の事を言ったら、消滅するのは私だけじゃないかもしれないわ。」
「…………」
神奈子はずっと睨んだままだった。
次に聞いたのは藍。
「……結局ここに来て話した時点で相手が優勢になったようだが、ヒントぐらいは貰えないか?」
「ヒント……ね。しいて言うなら貴女の主くらいの人と言っておくわ。」
藍に対してそう答える梨子。
「紫様と同等……か。これは厄介じゃすまないな。」
「でも、何故そんな人が龍二殿を?」
「さあ?でもまぁ、大体予想はつくわ。正体さえわかればね。」
椛にそう告げる。
神奈子は座り直して聞く。
「……あいつは?鬼神との関係はなんだ?」
「鬼神……?ああ、あの人。それは私にだってわからないわ。」
「……となると、アイツの性格からして楽しそうだからかしらね。」
「鬼神……って誰ですか?」
文は神奈子に聞く。
「あそこの世界で言われていたのを聞いたことないか?現代に現れし鬼神……多分龍二の反対関係として言われていたはずよ。」
「聞いた事はありますが、実物を見たことは……」
文はそう言う。
椛も同意見だったようで、頷いた。
「そうか、えらく特徴的な髪型だとは思うが……」
「どんな感じですか?」
「黒い髪に赤い瞳。髪型はツンツンで瞳はなんか、猫っていうか、蛇みたいな目で……」
神奈子の説明を聞いた椛は心当たりが浮かぶ。
以前、突然意味深な事を言った妖怪がいた。妖怪と判断していたのは自称していたからだが、正確には妖怪ではなかったのかもしれない。
「その人って刀使いますか?」
「刀?あー……使っていたような使っていなかったような……そういえば、前に見た時は持っていた気がするな。少し大きめの両刃造の刀だった気が……」
そこで椛は確信する。
神奈子も思い出したようだ。
「そういや、前にうちの神社に誘き寄せた時に……」
「いました……逃げられましたが、多分あの人です。」
頭をフードで覆っていた為顔が少ししか見えなかったが、特徴は同じだった。
「成る程ね…………とりあえずここから離れるか。」
神奈子は立ち上がる。
梨子は神奈子に聞いた。
「話はまとまったかしら?」
「ああ、おかげさまで。とりあえず、続きは別の場所で話すわ。」
神奈子が家から出て、椛と藍も続いて家から出た。
文も下駄をはき、家を出ようとした。
「……どうしたのかしら?」
文は立ち止まったまま、家を出ない。
振り向いて文は聞く。
「……梨子は、いつまでこんな生活をしてるのですか?」
「いつまでって……そうね、いつまでかしらね。」
「なんでそんな適当な答えなんですか?なんでそんな冷たく言うんですか!?」
急に大声を出す文に、ビックリする。
「困ってるなら言ってくださいよ!助けが必要なら助けますよ!梨子は一人で……独りで何を抱えてるんですか?」
「……突然ね。どうかなったのかしら?」
梨子の言葉を聞いた文は歯ぎしりして、下駄を脱いで梨子の前に立つ。
「ふざけんなっ!!」
怒鳴り、梨子の頬を平手打ちする。
「そんなに冷たくしなくったって良いじゃん!私は…私は!貴方を思って………!」
それ以上先は何も言わない。
梨子はため息をつく。
「……一方的ね。ホント……一方的よ。勝手に心配して、勝手に怒鳴って、勝手に泣いて。あんた、ホントどうかしてるわ。」
梨子は涙を流す文にそう言う。
泣き叫ぶのを堪えるように文は答えた。
「だって……梨子はいつも私に何も言わないで……勝手に独りで抱え込んで!前だって一人で外の世界に、掟を破ってまで勝手に言った!私に何も言わないで!!」
「怖いの……また独りで何かを抱えて。独りで無茶をして……突然消えてしまいそうだから。」
武酉梨子という少女は、あまり友達がいなかった。
数少ない友達の中で文とは特に親しかった。だからこそ、梨子は文に隠して幻想郷から飛び出した。
「私の事なんて、忘れちゃえば良かったのに……」
「嫌だ。忘れたくない!ホントは梨子は優しくて、強くて、皆のことを思ってくれる。私の大切な友達なのに……」
「……ホント、アンタは。」
そう言って梨子は文に近づき、優しく抱きしめた。
「大丈夫よ。いなくなったりしない。今度は絶対に。」
「……本当に?」
「大丈夫だって。私はただ、こが落ち着くのよ。不備なら特にないわ。」
そう聞いた文は少し不安だったが、頷いた。
彼女を信じると決めた。
「……では、また今度会いましょう。」
文はそう言う。
梨子は笑顔で答えた。
「ええ。いつでも来なさい。」
そして文は再び下駄をはき、梨子に手を振りながら去っていった。
文を見送った後、梨子の家には二人。
「……もう私しかいませんよ。出てきたらどうです?」
梨子は自分のクローゼットに話しかける。
するとクローゼットから小柄な少女が一人飛び出してきた。
「……暑かった。」
「なんでそんなところにいたんですか。」
「暇だったからだよ。」
赤い髪の少女はそう答える。
梨子はため息をつき、聞いた。
「それで、私をどうするんですか?」
そう聞いた梨子の目は、確かに覚悟を決めていた。
少女は暫く黙り、答える。
「そうだね。そろそろ楽にさせようと思っていたよ。だから、今日を持って監視はやめる。」
少女はそれ以上、何も言わなかった。
「……それだけですか?」
梨子は聞く。少女は頷く。
「君はまだ、彼女の記憶に残っているんだから。大切にしてあげな。」
「……そうですか。」
そう答えた梨子の顔は安心していた。
それを見た少女も笑みを浮かべる。
「君は俺と違って幸せ者だな。」
「……貴方は、やはり。」
少女は頷く。
「うん、やっぱり俺は幸せじゃない。全く、源川繰希もここまで邪魔をしてくるとはな……おかげさまで藤崎龍二を取り戻すのに時間がかかる。」
「……貴方なら、彼を仕留めるくらい朝飯前なのでは?」
その問いには首を横にふった。
勿論梨子は聞いた。
「何故ですか?貴方ならあの半人半妖なんて」
「あ~それね。思わず口出しそうでまずかったけど、彼は半人半妖なんかじゃない。」
「は?」
梨子は思わずそう返す。
予想はしていたが、やはり驚くものだ。
今まで半人半妖と呼ばれてきた者が、実は違ったなんて、誰が信じるだろうか?
しかし、少女は話を続ける。
「まぁ詳しくは言いたくないから言わないけど、とりあえずそういう事さ。だから確実に仕留めるならまずは精神的に何かをしてやりたい。けれど中々確実な方法が思い付かないんだなこれが。」
淡々と話を進める少女。
「……仕方ない。あの方法にするしかないか。」
そう言って、少女は外に出た。
「んじゃ、俺はこれで失礼するよ。」
「あの……最後に1ついいですか?」
「ん?大丈夫だよ。君とあの子には手を出さない予定でいるから。」
「いえ、その事ではなく……もし藤崎龍二を取り戻したら、その後はどうするんですか?」
梨子の問いに少女は笑顔で即答する。
「そりゃあ勿論、幻想郷を消滅させるよ。」
さらっと答えた少女は更に続ける。
「俺の知る彼のいない幻想郷に意味はないからね……」
「そうですか……」
「まぁすぐには消さないさ。なんだかんだ言って、このゲームは楽しいからね。」
笑いながら少女は言う。結局は藤崎龍二を取り戻す事も楽しんでいるようだ。1つの余興として。
最後に少女を呼ぶ梨子。
「有難うございます。幻想郷の最高神よ。」
聞いた少女は笑みを浮かび、どういたしましてと答えてからどこかへ飛び去った。
「……この先、どうなるのかしらね。」
長く続く虹を眺めながら梨子は呟いた。
「で、ここからどうする?」
藍は神奈子に聞いた。
「そうだな……とりあえず、私の神社に行こう。すぐそこだし、諏訪子も混ぜて話したい。早苗が出掛けていたらの話だが……」
守矢神社に着いた、と同時に諏訪子が神社から飛び出てくる。
「お、おっと……どうした、諏訪子?」
「ヤバイ!かなりまずい!」
「?」
「やばいって……どうかしたのか?」
「八雲藍か、なんでも良い。人は多めの方が良い!」
慌てる諏訪子の顔はまさに蒼白だった。神奈子は諏訪子の肩に手を置いて問う。
「落ち着け!何があった!?」
「さ、早苗が……」
次に、諏訪子は皆が予想していなかった事を言う。
「早苗が雪菜と一緒にどっかに……!」
「!?」
それを聞いた神奈子の顔も真っ青になる。
他の者も、先程の話から良くない事態ではあると考えた。
「……どこにいったかは?」
「わからない。出先から帰ってきたら置き手紙が……」
諏訪子は持っていた置き手紙を皆に見せた。
【東條雪菜という子が相談があると言っていたので出かけてきます。少し遅くなるかもしれませんが、晩御飯は作っておきました! 早苗 】
「……一応、字は早苗だな。」
そう呟きため息をつく神奈子。そして、藍に聞く。
「八雲紫に捜索の手伝いを頼みたいが……大丈夫か?」
「残念ながら、ついこのあいだ冬眠に……」
「こういう時にいないのはキツいな……」
額に手を当て、考え始める。しかし情報が少ない今、得策は考えられない。
「……仕方ない。手分けして探すわよ。」