神様という存在
今日は人里で秋の収穫祭が行われている。
年に一度の祭では、バーゲンセールのように野菜が売ってある。
龍二はこの収穫祭の入口にいた。
(くそっ……どうしてこうなった……)
人里の主婦達に圧されながら。
昨日の会話が原因であろう。昨日、無理にでも断っておけば良かったかもしれない。
そう思う龍二だった。
「異変が終わって、だいぶ紅葉も深まったよな。」
昨日、博麗神社にやってきた時だ。
魔理沙がそう呟いていたのでそれにくいついた。
「まぁ確かに、紅葉狩りも面白そうだな。」
「お、来たな。」
「ああ。暇だから許可を貰って来た………って、霊夢はいないのな。」
「なんかいなかったぜ。」
不法侵入にならないか心配になったが、すぐにそれはないかと否定した。
「紅葉狩りなぁ……見るだけじゃつまらないだろ。」
「そうか?俺のいた場所は大きな山なんてそんなに無かったから、珍しいんだけど。」
「毎年見てるから、もう飽きたぜ。お前のところの秋も見てみたいな。」
「あまりオススメはしないなぁ……」
苦笑いでそう言う龍二。
龍二がいた日本は、幻想郷とかけ離れている。地面はコンクリートで、高いビルもある。
「それでも行きたい。」
「そこまでか。まぁ機会があったらな。」
「……人ん家でなんで関係ないこと言ってるのかしら?」
「お邪魔してるぜ。」
「同じく。」
いつも通りそう言われた霊夢はため息をつく。龍二を見たときに何かを思い出したようだ。
「あ、そうだ。あんた明日暇よね?」
「まあ基本的に用はないが……どうかしたのか?」
「明日、収穫祭があるのよ。」
幻想郷の秋の収穫祭。
バーゲンセールやったり野菜の大きさを競ったりする祭……ということにしてください。うん、少なくともここの小説ではそういうことで。
霊夢から収穫祭の話を聞いた龍二。
「で、それがどうかしたのか?」
「いやいや龍二君、霊夢にとっての収穫祭の目的はひとつに決まってるじゃないか。」
「……なんだその口調?つーか仮名の方を使えって。」
そう言った直後、龍二は気づいた。
「……バーゲンセールか。」
「そういうことだ。」
魔理沙は笑顔でそう言っているが、霊夢が不満そうな顔で言う。
「その言い方だと、まるで家が貧乏みたいじゃない。」
「違うのか?」
「違うわよ。」
「まぁ、飯も割と普通だったな。」
この前の異変の時の事を思い出す龍二。意外と普通だった為か龍二は戦慄した。
「そうなのか!?」
「そうなのだ。」
驚く魔理沙にそう答える龍二。一方霊夢は散々な言われようで不機嫌だ。
「二人して酷い物言いね。まぁバーゲンセールが目的なのは正しいけど。」
「霊夢自身は行かないのか?」
「私は祭の手伝い。ボランティア精神ってやつよ(まぁお昼と夕飯は早苗が奢るって話だからね)。」
最後の文は心の声なので龍二には当然聞こえているわけなく。
龍二と魔理沙は普通に感心していた。
「ま、そういうわけだから。あいつにも頼んでるけど、あんたはあんたで別な物を買って欲しいのよ。」
「まぁいいけど……」
「じゃ、これをお願いね。」
そう言われ、霊夢からおつかいの紙を貰った。
そんなわけで今に至る。
(帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい……)
やる気が既に0に近い龍二。
正直、主婦達で狭いので素直に並ばない方が良かったかもしれないと後悔している。
(つか、オバハンみんなやる気満々じゃねぇか……)
隣にいる主婦達の会話を聞きながら龍二は考えた。
「こっちは私が行くから貴方はあっちの買ってって。」というどこかで聞いたことのある会話。
具体的に言えば、幻想入りする前に行ったイベントで聞いた会話。
「まもなく、秋の収穫祭が始まりまーす。」
入口にアナウンスが流れた。同時に、主婦達の表情は変わり、雰囲気がピリッとなる。
(ひっ!?)
雰囲気にビビる龍二。
本音を言うと、いつもの戦いよりも遥かに怖い。
(俺……このバーゲンセールが終わったら、結婚するんだ……)
それフラグやーん
「秋の収穫祭始まりまーす。」
アナウンスのあとになった銃声で、入口が開いた。と、同時に主婦達は我先にと走りだす。
龍二はというと宙に浮いて主婦達の流れに飲み込まれる前に逃れた。
「危うく死ぬところだった。」
そう呟きながら目的地へ向かう。
ちなみに、飛ぶのは禁止だったらしい。目的地についてからスタッフに注意された。
飛びはしなかったが、その後も着々と買い物を済ませる龍二。
「これで全部か……」
最後の買い物を済ませた龍二。
そこで、服が汚れた少女を見つける。というか、泣きながら地面で寝ていると気づくに決まってる。
「ど、どうかしたのか?」
龍二はその少女に話しかける。
耳当てをつけているが、こちらの声は聞こえるらしい。少女は答えた。
「ちょっと屠自古におつかいを頼まれていたのですが、その……流れにのみこまれて、下敷きにされて……」
「……おつかいが果たせなかったのか。」
始まってから一時間経つか経たないか、それくらいの時間だが早いところは早く売り切れてしまった。
少女は凄く落ち込んでいる。
「これだとまた『ゴミコ』と言われてしまいます……」
「(なんだゴミコって…)…ちなみに頼まれたものって?」
「えっと……」
聞いたところ、大体が龍二が買ったものと同じものだった。
それならばと龍二は提案する。
「なら、俺の買ったやつあげるよ。」
「……へ?」
「まぁウチの方は多分大丈夫だから。ホラ。」
そう言って龍二は袋を渡す。
「……いいんですか?」
少女の問いに龍二は頷いた。
すると少女の表情が明るくなる。
「有難う!ホント有難う!」
「太子様ー?どこにおられるんですかー?」
「布都だ。それでは私はこれで!」
「焦りすぎて転ぶなよー」
笑顔でそう言って見送る龍二。
「……さて、と。」
見送ったあと、龍二は空を見上げ、呟いた。
「…………今日か明日が命日になるのか……」
「およ?その全身青い姿は龍二かな?」
誰かがそう言う。
と言っても、その誰かというのはすぐに神奈子だとわかったのだが。
「全裸の巨大なオバケみたいな言い方だな……」
「あれはブルーベリー色じゃない。で、なにしてるの?」
「ん?ああ、霊夢におつかい頼まれていたんだけどな……」
「買ったものは?」
「さっき困っていた人にあげた。」
「ワァオ。」
はっきりと言う龍二に神奈子は驚く。同時に馬鹿だと思った。
「仕方ないわね……1からまた回り直すしかないじゃない。」
「金がない。」
「チェックメイト、ね。」
藤崎龍二という男には、既に諦める道しか歩める道がなかったようだ。
「正直に謝りなさい。」
「わかってるよ。霊夢の場所は?」
神奈子に教えて貰った龍二は霊夢が手伝いをしている場所へ行く。
霊夢の場所について、報告をした刹那、霊撃を受けたのは言うまでもない。
「あんたも随分とお人好しね……」
「その人が人かどうかわからなかったけどな……なんか変わった髪型だったし。」
「あんたが言うほどの変わった髪型……ああ、あいつね。」
そう言った霊夢の中では、一人の聖人の顔が浮かんでいた。
耳当てをつけた、朱鳥文化アタックしてきそうな少女の顔が。
「ま、もう過ぎた事だし、仕方ないわ。」
(良かった……やっと許して貰える……)
「紫に頼んで今日は夕飯抜きにして貰うわ。」
「……許されてなかった。」
そう言いため息をつく。
ふと、龍二は霊夢の方を見ると奥にもう一人、げんなりしている少女がいることに気がつく。
「なぁ霊夢……あの人どうしたんだ?」
「ん?あの人?」
後ろを向く霊夢。
そして誰の事か気がついた。
「ああ、あいつね。静葉と言って、よく秋姉妹なんて言われる神様の姉の方よ。」
「なんでげんなりしてんの?見てるこっちも辛いんだが……」
「さぁね。それは本人に聞いてみないとわからないわ。」
「ですよね……ちょっと聞いてくる。」
そう言って、静葉に歩み寄る龍二を見て、やっぱりお人好しだと霊夢は思った。
(前に比べて、少し変わったわね……)
近づいてみると、鬱になりかけている感じがする。
「大丈夫か?」
龍二はそう聞く。
すると静葉は龍二を見て一言。
「……ヴアァァァ…………」
(……廃人か。)
冷静にそう判断した龍二。
静葉はもう一度口を開く。
「……妹が羨ましいなぁと思うんですよ。」
「……妹が?」
静葉は頷く。
「私は紅葉の神様で妹は豊穣の神様なんだけどね、この日は妹がよく慕われるのよ。」
「まぁ……豊穣の神様ってそういうものじゃないのか?」
「うん、確かにそうかもしれないけど。いつも慕われて、今日は特に慕われて、羨ましいなぁなんて……」
(…………嫉妬か?)
妹の人気に嫉妬する姉。
漫画ではたまに見かけるキャラだが、今の静葉にはそのフレーズが似合う。
そう思う龍二だった。
「……私ってよくオリキャラって言われるけど、なんの略かしらね…………」
「……オリエンタルキャラの略か?」
オリエンタルキャラ=東のキャラ(多分)
「……変わった事言うわね。貴方、名前は?」
「えっと…八雲彩。」
「八雲……妖怪の賢者の親戚かなにかかしら?」
「妖怪の賢者?紫姉ってそう言われているのか?」
「知らなかったのね。まぁ本人に聞いてみると良いわ。」
そう言うと、静葉は立ち上がった。
「有難う。彩君。少し元気づけられたわ。」
「え?あ、ああ……」
「また今度、お礼するわね。それじゃあ……」
そう言って静葉は去って行った。
何故か、龍二は見ていることしかできなかった。
「なんか、孤独って感じだよな……」
「そうでもないわよ。」
龍二の呟きに霊夢が答える。
「あいつもみんなに愛されているわ。」
「そうなのか……」(ていうか、神様をあいつ扱い……)
「どうかした?」
「い、いや、何でもない。」
そう、と霊夢は言ったが、少し気になるような顔をしている。
「にしても珍しいわね。」
「なにがだ?」
「あんたが、誰かの相談に乗ったりするなんて。今日はどうしたの?」
霊夢に言われて、龍二も気が付いたようだ。
確かに、今日の自分はどこかお人よしな気がする。
今まではなかなか行動に移さなかったのに。
「……さあな。何となく、そうしているだけだしな。」
そう、と再び霊夢は言う。
それから少し間があって、霊夢は突然言い出した。
「……前に、靈夢は誰だって質問したわよね?」
「ああ。」
「……私の名前は霊夢というけど、あなたが聞いたのは別の靈夢。」
「ああ。お前じゃない、もう一人の靈夢だ。それも気になるが、もうひとつ。酔っていたあんたが俺に向かって言った言葉。」
『…何もできないくせに………誰も守れないくせにぃ……』
『アンタが弱いから靈夢が……』
いつかの宴会で言われたこの言葉が、龍二はどうしても気になっていた。
「はっきり言って俺にはそんな記憶がない。でも、俺は知らないといけないかもしれない。」
龍二は、今まで下を向いて話していたが、視線を霊夢に向けて問う。
「教えてくれ。靈夢に何があったのかを……」
「………酔っていた時の記憶なんて普通ないわよ。でも、アンタは似ているから。」
龍二は首を傾げる。
その行動が当たり前かのように霊夢は話を続ける。
「私がまだ小さい頃、母親はまだ生きていた。父親はいなかったけど……兄のような存在はいたわ。アンタの見た目にそっくりな、優しい兄が。」
「俺にそっくり……」
「正確には、妖力解放をしたアンタね。緑髪に赤い目をした姿で、よく私の遊び相手になってくれた……」
懐かしそうに、そしてどこか寂しそうに、話す霊夢。
「その人はその姿から、青龍と言われていたわ。」
「…………今、その人はいないよな?」
頷く。
「それは…いったいどういう理由で?」
「……靈夢は、死んだわ。」
すぐに、これはマズイことを聞いたと龍二は思ったが、霊夢は話を続ける。
「妖怪退治……だったかしら?私を庇うようにして、靈夢は死んだわ。その時、たまたまいた私を守るように。青龍は既に行方不明。」
「……………」
「そんな顔する必要はないわ。別に今更なんとも思ってないから。」
「この世界には、妖怪やら吸血鬼やら、いろんなやつがたくさんいるわ。」
「……目の前には、神様もいるしな。」
神奈子達のところに戻り、再び話を始めた二人。
前には神奈子や穣子達が祀られている。
そんな中、霊夢は考えた。
(……もし、私の望む神様がいるなら。)
「……せめて、行方不明になったあいつと会いたいわ。」
「?」
小さくそう言った言葉に龍二が反応する。
霊夢はなんでもないと答えた。
「さて、とりあえず紫を呼ばないと。」
「何かするのか?」
「そりゃあ勿論……今夜のあんたの晩御飯をなくすよう頼まなきゃ。」
そう言われた龍二は、ため息をついた。
今日は諦めるしかないらしい。
「にしても、神様って実在したんだな……」
「突然どうしたのよ。」
「いや、なんとなく。ここに来るまで神様なんてものはいないと思っていたからな……」
「妖怪は信じていたのに?」
龍二は頷く。
妖怪は見たことがあるが、神様は幻想郷に来るまで見たことがなかった。
見えるものは信じ、見えないものは信じない。
「……あんた、意外と人間らしい考えもっていたのね。」
「大体そんなものだろ。まぁ実在してるからって今じゃもう遅いけどな。」
なにが?と霊夢に聞かれたが龍二は答えなかった。
とりあえず、こいつにもなにかあったのだろうと、そういう事にした霊夢だった。
「お互い、いろいろあったってことね……」
「……そうだな。」
少しして、龍二は同意する。
「誰にだって辛い過去はある。幸せだけで生きていく人間なんて僅かなんだよ……でもそうした中で、俺はここに来て、お前や神奈子達に会った。前に【倒した】と思っていた、雪菜もな……」
「…………」
「これも運命っていうものなのか……よくわからないが、まぁ悪くはないと思う。ただ……」
「ただ?」
霊夢は聞き返す。しかし龍二はなんでもない、と答えた。
「二人でさっきから何を話しているの?」
そう聞いてきたのは神奈子だった。
「え?あ、いや……なんでもない。ただの世間話みたいなものだよ。」
(にしては動揺しすぎよ……)
龍二の反応に関して、霊夢はそう思った。
「そうか。ところで霊夢。さっき穣子が探していたぞ。」
「え、なんで?」
「さあ……なんかお礼がしたいとかなんとか……」
それを聞いた霊夢は首を傾げるも穣子がいる方に行った。
神奈子と龍二がそこに残る。
「そういや、龍二は霊夢の昔を知ってるかしら?」
「……いや、全然知らない。」
龍二はそう答える。
神奈子はそう、と呟いたあと
「まぁ、私も知らないんだけどね!!」
「なんでドヤ顔なのかがわからない。」
「特に理由はないわ。」
そう答えたあと、話を続ける。
「私は霊夢の過去も、アンタの過去も知らない。けれど、それでも支えてあげることは出来ると思うの。確かに霊夢は信仰を集めるのには敵になるかもしれないけど、でも困った時は助けるつもりだし……」
「?」
首を傾げる龍二。
「つまり!昔いろいろあったとしても、それはもう過ぎ去った出来事。今を頑張れば必ず良いことはあるのよ。私達は、今を生きてるんだ。」
神奈子は話を続ける。
「だから、過去に辛い事があったとしても、それを気にする必要はない。いや、それでも引きずる事もあるかもしれないのだけど……その時は、私が、私達が支える。その為の神様でもあるんだからな!」
「神奈子……お前、盗み聞きしやがったな?」
「うぐっ…………」
龍二から出てきたのは尊敬の声とかではなく、ただの呆れだった。
「龍二ー!!」
大きな声で霊夢がは呼んだ。
龍二は振り返る。そこには、野菜がたくさん入っている袋を持った、幸せそうな霊夢がいた。
「穣子がお礼だって!!」
「お礼?ああ、祭りの手伝いをした報酬か。」
しかし、龍二の勘は外れのようで、霊夢は首を横に振った。
「それだけじゃないって。アンタが静葉を励ましてくれたからってさ。」
「静葉……ああ、あの人か。励ましたって言えるよなもんじゃいない気がするが……」
「でも、嬉しかったそうよ?誰かから話しかけられること自体、あいつにとっては嬉しい事だったみたいよ。」
「……なら、いいんだけどな。」
そう、言いながら頭をかく龍二。
それを見た霊夢が噴き出した。
「なに照れてるのよ。」
「なっ……!照れてねぇよ!」
「へぇ……?私は照れてるように思うけど?ね、神奈子。」
「まぁ……そうね。」
「おい!なんで神奈子までにやけてるんだよ!」
どんどん恥ずかしくなってきた龍二の顔が赤くなる。
「まぁとにかく、でかしたわ!!」
笑顔でそういう霊夢。
「……まぁ、良かったんじゃないか?それで、買い物の分チャラってことで。」
「それとこれは別よ?」
「……え?」
信じられないと言わんばかりの顔で霊夢を見る龍二。
許されないようだ。
夕方より少し前、太陽が沈み始めた頃、収穫祭の一部が終わった。
二部は人里で宴会らしい。
「結局宴会か……ここの住人は酒さえあれば生きていきそうだな。」
呆れながら言う龍二。
神奈子も苦笑いだ。
「まぁいいんじゃないかしら?酒を飲んで騒いでみんなで大団円。いいじゃない……」
そう話す神奈子の顔は少しだけ寂しそうだった。
ふと、龍二は東條雪菜に関して気になる。
「なぁ……雪菜はどうやって生まれたんだ?」
神奈子は驚いた表情で龍二を見た。
彼から雪菜の話をしだすなんて、思ってもいなかった。
「……いきなりどうしたの?」
「いや、少し気になってさ……諏訪子から話は大体聞いているけど、なんであいつが生まれたのか気になったんだ。」
龍二はそう言う。
しかし、心の中では否定していた。
(……ホントはそれだけじゃない。なにか別の理由があるんだろうが……)
そっとため息をつく龍二。
(俺自身にもわからないとはな……今に始まったことじゃないが。)
そう、思っていたが、神奈子はまだ話しはじめない。
「いつまで黙っているんだ?いや、どうしても話したくないなら話さなくてもいいけどさ……」
「…………諏訪子がか……そう、ならあいつに早苗を頼まれていないかい?」
龍二は頷く。
続けてこう答えた。
「早苗だけじゃない。雪菜も助けてくれと……」
そう、と神奈子はいう。
(諏訪子が言った……確かに、この子なら期待できそうね。)
龍二を見つめながら神奈子はそう思う。
しかし声には出していないので、龍二は首を傾げた。
「そうね、話そうかしらね……でも、ここじゃ話しずらいわ。」
それもそうか、と龍二は考える。
「といっても、宴会には参加しなきゃいけないし……そうね、後日【あの場所】に来てもらうわ。」
「あの場所?神社の近くの湖か?」
しかし、神奈子は首を横に振る。
「獄蝶の崖よ。あそこなら基本的に誰もいないはずだわ。」
「そこでなら、話しやすい。」
神奈子は頷き、つづけて答える。
「そこで話すわ……雪菜が生まれた理由を。」
「神奈子ーそろそろ二次会の場所行くよー。」
遠くから諏訪子の声がする。
「ああ、今行くよ。」
神奈子も大きな声でそう答える。
そして、神奈子が去ろうとしたとき、彼女を龍二が呼び止める。
「神奈子。」
「ん?なに?」
振り返り、そう尋ねる。
「あのさ、遅くなったけど……ありがとう。」
「へ?」
神奈子は思わずそう反応してしまった。
「どうしたのよ急に……」
「俺さ、ここに来て急に元の世界に帰れなくなって……でも、早苗が俺を居候させてくれた。諏訪子も遠慮しないでくれたから気まずくなかったし……神奈子も、俺の事を心配して弾幕の修行をしなかったときもあった。」
「心配するわよそりゃ……当たり前でしょう?」
「そうなのかもしれないけど、でもホントに嬉しかったんだよ。」
つづけて話をする。
「俺の存在が一度なかったことになる時も、それからも、特に神奈子には助けてもらった。支えてもらった。初めてあったのが守矢でよかった。」
恥ずかしそうに、そして幸せそうに、一言、最後に言う。
「ありがとう。」
神奈子もだんだん顔が赤くなる。
「な、なんか照れるじゃないの……つか、急にそんな事言わないでよ!なんか、フラグっぽいからさ!」
龍二は照れ笑いをしている。つられて神奈子も笑った。
「ほら、行くわよ。」
「……ああ。」