男性の弾幕勝負
「昨日、魅魔様来ていたのか!?」
魔理沙は驚いた表情で霊夢に聞いた。
「だからそう言ってるでしょ?」
「そうだったのか……来れば良かったぜ……」
「アンタから出向けば良いじゃない。」
「あの人はわからないんだ。魔界にいる時もあれば地獄にいる時もあるし……」
魔理沙は腕を組みながらそう答える。
「なんで地獄なんだ?」
そう聞いたのは、龍二。そして答えたのは霊夢だった。
「魅魔は魔法使いだけど、亡霊だからね……だから地獄にも魔界にもいるわ。」
「はあ……成る程ね……それともうひとつ質問。何故俺が神社の掃除をさせられている?」
「今日もあいつが出掛けてるからよ。」
「最近出掛けてるなぁ……もしかして浮気とか?」
魔理沙は軽い冗談で言ったつもりだろう。それは龍二にもわかった。
だが、霊夢は真面目な顔で魔理沙の肩を強く掴んだ。
「アイツがそんなことするはずないでしょ………?」
「あ、ああ!そうだな!!そうだよな!私が悪かった!」
焦りながら謝る魔理沙。
霊夢はため息をついて肩から手を放した。
「博麗の巫女はいるかぁ!?」
神社の鳥居の方から声がする。
その声はどこかで聞いたことのある声だった。
「な、アンタ……!」
「うぉ!お前はいつぞやの……!」
その男性は龍二を見た瞬間構える。龍二も箒を剣を持つように構える。
「それであいつは斬れないと思うわよ。」
「そもそも俺は喧嘩売りに来たわけじゃないからな?」
霊夢のどうでもいい言葉と男性の訳を聞いてとりあえず龍二は箒を構えるのをやめた。
「で、用はなによ?」
「あーちょっとな……幻想郷のルールの改訂というのか……とにかく内容を簡単いうと男性にも弾幕ごっこのようなものをつくった方が良いんじゃないかと思ってな。」
男性の言葉に魔理沙や龍二も納得をする。
「確かに、弾幕ごっこといえば女の子の遊びだからな……」
「少なくとも俺達男がやるものじゃないのも確かだ。」
しかし、霊夢一人だけいたたまれない感じだ。
「何か不満でも?」
魔理沙はそう聞く。少し間が空いてから霊夢は答えた。
「うーん……確かにその考えは良いけど、あのルールは結構考えたのよね……」
「大半のルールは弾幕ごっこに基づいて、少しだけ変えるつもりだ。」
「まぁそれなら楽だけど……もうひとつ問題なのはこのことを決めたあとどうやって伝えるのかしら?」
「それはどこぞのパパラッチ天狗に教えれば『あやややや!それは大ニュースですね!!』とか言いながら新聞のネタにして、明日辺りには号外が出るんじゃないのか?」
「あ~……あいつなら有り得るぜ。」
龍二の考えに魔理沙は笑いながらそう言った。
「基本的なことは弾幕ごっこと一緒っていうけど、まずどこを変えるのかしら?」
「そうだな……ならまずは遊び方を変えるか。」
男性がそう言うと龍二は首を傾げる。
「空で闘わないってことか?」
「そうだな……正確には空のみ地上のみっていう闘い方を変えると言うべきだろうか。」
「つまり、常に空中戦と地上戦同時にやって良いのね。」
霊夢が解釈したことを確認すると男性は頷いた。と、同時に龍二も納得したのか数回頷く。
「それと、もうひとつ。弾幕ごっこは美しさも必要だがそこをパフォーマンス、つまり派手さに変える。勿論綺麗さもアリだけどな。」
「つまり例えるなら、打ち上げ花火ってところか……?」
「おっ良い例えだな!!」
龍二の言葉に男性は笑いながらそう返した。
男性の弾幕勝負のルールは以下の通りになった。
・闘いは地上・空中双方を利用して闘って良い
・地上で闘う場合は広くて障害物があまりない場所で闘う。
・所持スペルカードは必ず合わせる。
・スペルカードの使用は1枚につき1回まで。
・全てのスペルカードが使用不可になった場合はその者の敗けとなる。
・また、戦闘不能になった場合も足掻かずその時点で敗けを認める。
・スペルカードは魅せる闘いを意識する為に全てパフォーマンスを重視したものとする。
・あくまでも“遊び”なので殺傷力のあるスペルカードを作らない。
・武器を使用する場合は能力を利用したりして殺傷力がないようにすること。それが出来ない場合、武器を使用することを禁じる。
・また女性と弾幕ごっこをする場合、掟は女性の弾幕ごっこに従う。
「よし、じゃあ早速実戦とするか。所持スペルカードは3枚な。」
男性はそう言って神社の境内の端へ行き、龍二は正反対の場所へ行った。
「これが記念すべき最初の男の弾幕ごっこか……楽しみだぜ。」
「まぁ基本は弾幕ごっこと同じって言ってるし、変わらないんじゃない?」
霊夢と魔理沙がそう話してると二人とも戦闘準備が整ったらしい。
「そういえば………アンタ名前は?」
龍二は男性に聞く。
男性はにっと笑みを浮かべる。
「俺の名前は平野陰光。ただの半人半妖さ。」
そして陰光は二本の木刀を両手に一本ずつ持った。
龍二も今回は鞘に入った陰陽刀を持って構える。
「奇遇だな…………俺も半人半妖だ。名前は藤崎龍二。」
「そうか。じゃあ藤崎、いくぞ!」
男性はそう叫び、2つの木刀から弾幕を放った。
「直球の丸い弾幕か……」
龍二は冷静に、弾幕を弾幕で弾きながらそう言う。
そして道が開き龍二は走り出した。
「【陰符:妖力解放】……」
「妖力解放……?」
陰光の言葉に龍二は反応する。刹那、前方から人5人分の大きさはある大きな球が、右から左から、そして上からも放物線を画くように龍二の方へ来る。
龍二は更に速く全速力で走る。
「あの球……どうやら追尾型のようね。」
全ての球が今も龍二の方へ進む様子から霊夢はそう呟いた。
球が全て寸前まで近づいたところで龍二は体制を低くして前方へ跳んだ。
「た、球が相殺した!!」
「問題はここで彼が生き残ってるかね……」
その時、煙から一人の青年が現れた。
「よしっ!生きてたぜ!!」
「なぁんだ……賭けはまだ決まってないのね。でも、アレってホントに龍二……?」
霊夢の問いに魔理沙も首を傾げる。
青年の服装は確かに先程龍二が着ていたものと同じだ。しかし髪の色が……確かに青髪ではあったが、正確には現代で言う緑だったのだ。
「髪色が変わったな……」
「これもアンタと同じ、妖力解放の一種だ。」
陰光の呟きに龍二は答える。陰光は驚くが、そんな陰光もまた髪型が普通のストレートからオールバックになっている。
妖力解放は名前通り、自らの体内の妖力を解放するもの。解放中は妖力の影響で見た目が変わるらしい。
変わるのは半人半妖のみらしいが……
「だがまぁ俺の場合は、スペルカードではないな。そもそも妖力解放はあまり好きじゃない……」
陰光の弾を避けながら龍二は言う。
「何か嫌な思い出でも?」
「……まぁそんなところだ。」
龍二はそう言うと、陰光の方へ走る。
弾を跳んだりして避けながら。
「この弾幕勝負ってさ……見せ方によってはホントにパフォーマンスになるよな。」
突然魔理沙がそう呟く。
「まぁそうね。それが1つの需要でもあるし。」
「いや、需要とかそういうのじゃなくて……ほら避け方も場合によっては観客に見せられるというか……つまりそのうち、あの外来人が言ってたボクシングとやらとかみたいになるんじゃないか?」
「………つまり、人里とかで流行るってこと?」
「まぁ多分そういうこと。大会とか開かれそうだなって思ったんだよ。」
魔理沙のその意見に霊夢は頷いた。
「そうね……もしかしたらホントに流行るかもしれないわね。」
その頃龍二は陰光のすぐ近くまで距離をちぢめていた。
「【弾符:夢想羽織】!!」
龍二はそう言い、刀を地面へ突き立てる。刹那その周りから弾幕が四方八方放たれる。
「成る程……打ち上げ花火という例えはこのスペルカードからか。」
ニヤリと笑みを浮かべながら陰光は二本の木刀を交差させ、前へ走る。
「あいつ、弾幕に突っ込む気か!?」
「よく見なさい。木刀が光を帯びてるわ……」
「てことは………」
「スペルカード同士の相殺かもしれないわ。」
霊夢のよみはあたった。男は木刀を持ちながらスペルカードも持っていた。
刹那、男はスペルカード宣言をする。
「【陽符:白光流動】!!」
宣言と同時、陰光は交差させてた木刀を振った。
そこから刃の形をした光が放たれる。
「なっ……」
「あの光二本で相殺したぜ!」
見ていた二人は驚く。
そして龍二も勿論驚いたが顔には出さず刀を構えた。
相殺したとき生じた煙で陰光の姿が見えない。
「!」
何かに反応したように龍二は左へ避ける。すぐに木刀が先程龍二がいた場所に現れた。
手応えがないからかすぐに陰光本体もそこへ移動。
しかしすぐに龍二に右手の木刀を1つ弾かれる。「握る力があまいな……」
「意外と疲れるんだよ、二刀流って。」
陰光は木刀を拾わず、左手の木刀を両手に持ちなおした。
持ち直した瞬間、陰光は走り出す。
それに対し龍二は膝を軽く曲げて刀を水平に構える。
三寸ほどの間まで詰めよせた陰光は右下から左上へ斜めに振るが水平から少しずらした刀で防がれた。
その後も陰光が攻め、龍二が防ぐという行動が続く。
「あいつ、随分と冷静だな……いつもとは大違いだぜ。」
魔理沙は龍二を見ながらそう言う。
彼の眼はただ獲物をしとめる時の蛇と似たような、冷静に相手を伺う眼。
「そういえば龍二の眼って変わってるよな~。青いし、なんか蛇みたいだし。」
「アレは蛇というより龍じゃないの?」
「どちらにせよ似たような眼だぜ。」
そんなどうでもいいことを二人が話してる間も、陰光と龍二の行動は変わらない。
「たまには攻めてみたらどうだ?」
「それは挑発か?それとも単に負けたいだけか?」
「言うじゃねぇか………」
冷静に答える龍二に陰光は思わず頬をひきつってしまった。
その時だ。龍二は反動を軽減させる為に曲げていた膝を今度はサイドステップへの助走として利用する。
陰光の木刀に当たるように、自分が持つ陰陽刀を強く握りしめて。
龍二は木刀を叩きつけるように刀を振る。木刀を放さなかったがそれでも陰光に多少の怯みが起きた。
そしてそれを予想していたかのように龍二はすぐに左手を掲げる。
「!!」
「これで詰み……これも戦闘不能になるんじゃないか?」
陰光の周りに弾幕を張られた。刀を封じられ、振り払うことも出来ない。
それでも弾を放つ呼とはできるがそれでも陰光の敗北は確定している。
「これ以上は無理だな……足掻かず敗けを認める。」
陰光はそう言い元の姿に戻り龍二も妖力解放を解除した。
弾幕は消える。
「空中はまだまだだが、地上ならある程度自信がある。」
「あの時も思ったが……お前何者なんだ?場数があるのは闘っててわかるが………」
陰光の答えに龍二は多くを語らずに
「………ただのしがない半人半妖さ。」
そう答えた。
その後、この話を聞いた文は
『あやややや!それは大ニュースですね!!』
と言った後、これを記事にして号外を出すと約束した。