第七話 もう一人の自分
「失礼します。」
「ん、来たわね。」
前の通り椅子と机しか無い、殺風景な部屋。
その中に彼女、湯館は居た。
「まぁ、座んなさいよ。」
「はい。」
彼女に促され、椅子に腰掛けた。
「そんで、この部隊の説明だけど、まずあんたには試作機のフレイスヴェルグ推進改良型ってのに乗ってもらうわ。」
「フレイスヴェルグ…推進改良型…?」
「ほら、フレイスヴェルグってさ、加速力低いじゃない?それを外付けのバックパックと内部機構をマッチングさせたのよ、それがフレイスヴェルグ推進改良型。」
「名前…そのまんまですか?」
「あんた、それ気にしたら負けよ、試作機だもの、文句言わない。」
「は、はぁ…?」
「そんで、本題の部隊活動内容だけど、実戦に出てもらうわ、データ取りのためにね。
」
「他に、居るんですか?部隊所属パイロットは。」
「うーん、今のところ、あんたと田神ってガキと、三上、幹原、そんぐらいね。」
「田神…。」
「あぁ、最初ほんと面倒だったわ、グノーシス盛大に壊すし、機構に文句言うし、今はそうでもないけどね。」
「グノーシスって…?」
「こっちも試作機、万能側面装備の機体、あたしの自慢、なんだけどねぇ…。」
「やっぱり、雪弘ですか。」
「そうよ、でもあんたはちょっとまともそうだし、むしろあんたにグノーシス渡したかったわ…、あと五日間ぐらい早く起きなさいよ。」
「す…すみません…。」
「今の所の所属機体とパイロットを教えたげる。」
「幹原は、一号機イェーガー、三上は五号機ウィルシェル、田神はさっき言った通り八号機のグノーシスよ。」
「お…俺は何号機ですか。」
「知らない。」
「えぇ…。」
「ともかく、湯館局長、これからよろしくお願いします。」
「湯館局長…ねぇ…、幹原から聞いたの?あたしの名前。」
「はい、勇谷との事も聞きました。」
「そう…なの…?」
「もし、俺だったら、ですけど、苦しくなったら、言ってください、俺もある程度は力になれると思います。」
「…ふふっありがとね、でもあんたに言うようになったら、そろそろやばいかしら?」
「いえ、問題ないです。」
そしてゆっくりと椅子から立ち上がった。
「そう?じゃこれからよろしくね、伊勢川担当員。」
「はい、それじゃ失礼します。」
ドアを開けて外に出た。
彼女にも、幹原隊長にも三上にも雪弘にも、誰にでも、苦しいことがある筈だ、それを俺が、どんなに時間がかかろうと変えていかなきゃいけない、そんなことを思っていると、いつの間にか、弓佳のことが頭に浮かび、もう二度とあんなことを起こすかと、拳を強く握りしめた。