第一話 運命の刻
「うわぁ!」
夢の出来事に驚き、ベッドから飛び起きた。
妙なぐらいリアルな夢、自分がミートバグと戦う夢。
だが夢落ちだったようだ、窓から入ってくる朝日が目を覚まさせたらしい。
「なんだ…夢…なのか…?」
痛覚まである夢とはなんとも不思議だ、
ふと、時計を見た、5時32分、まだ余裕がある。
直ぐに朝食を作ることにした。
…あまり空腹感を感じない、スクランブルエッグでも作ろう。
卵を焼く、そのままじゃあ甘いだけだ。
適当な食事をとって制服に着替える、少し埃がついていた、どうせ明日は休みだ、洗濯は明日しよう。
鞄に荷物を詰めこんでドアを開ける、いつもの日常、これが日常だ。
息苦しさの無い日常、今人類は、いや、コロニー3は何の障害もない平和がある。
いずれ、戦いに身を投げ出すことになろうと、この平和の中で生きていきたい、今のところ、それが俺の望みだ。
学校に着くと親友とも言える仲間、雪弘がいた。
「よう速人!遅かったな!」
「うっせ、お前は一ヶ月遅刻しまくってたくせに何言ってんだよ」
「…それは言っちゃいかんやつだぞ…」
くだらない会話、それもいつものことだ。
「速人君?」
「あ、弓佳」
「今来たとこ?」
「ああ、お前もか?」
「うん」
何やら後ろから威圧感を感じる…
「ごめん、こいつ連れてっから、ごめんなー」
俺より体がでかいことを良いことに雪弘が俺の頭を掴み引きずる。
「また休みの時間だよー」
弓佳の声が聞こえると雪弘が口を開く、
「てめぇこの野郎!あれ彼女か!?」
「現時点では違う!っつーか痛ぇ!」
「『現時点では』だって?この野郎!」
「あぁ…言い間違った、訂正させろこの独り身野郎」
「あぁん!?もう一回言ってみろこのリア充!」
頭を思いっきり握られる、
「だから痛ぇつってんだろ!?」
「問答無用!」
「ぎゃあぁぁぁあぁぁああぁぁあぁ!!」
授業だ、いつも聞く話もあれば初めての話もある、
「…つまりコロニー1は欧州による開発でコロニー2はユーラシア大陸の北に位置する一部の国によって開発され、このコロニー3はアジア州の諸国による開発でコロニー4はアメリカ大陸全土の国によって開発されました、また、コロニー5はアフリカ大陸の全ての国によって開発され、ほとんどのコロニーは…」
不思議だ、いつもは授業に集中できるのに、
最近は弓佳のことばかりだ、優しいから?それとも何か?考えても解らない、自分が惹かれていることしか。
四時限目が終わると、全校生徒による購買争奪戦が始まる、弁当を作り忘れた俺にとってとても苦痛だ。
全校から生徒達の走る音が聞こえる、幸い俺は近くの教室のため、競争には巻き込まれない、が、帰り道はいつも人混みの中だ、帰れない!
転けたら最後、パンごとカーペットの様になってしまう、それだけは回避しなければいけなかった。
「兄貴!確保できたか!」
「すまねぇ弟よ…もうここまでだ…」
これは戦争か!?パンだけのために!?
もう弁当をつくれ!
人は言えないが…
ようやくの思いで脱出し、別れた二つの校舎の間、そこの公園に辿り着いた。
「弓佳、待たせてごめん」
「ううん、私も今来たところ」
「待てリア充共!俺も混ぜろぉぉぉおぉおぉ!」
見事な頭からのスライディング、下が普通のアスファルトだったら結構痛いだろう。
「危なっかしいっつーの!」
「まぁ怒るな速人!」
怒ってはいないつもりだが…
「ふふっ速人君の友達も面白いね」
「あっいや、ぁ、ありがとう…」
自分の顔が赤いことに気付く、雪弘に見らればまずいと思い、顔を逸らした。
「ずつとこんな日が続けばいいのに、なんか成長することって嫌だな…」
「時間には逆らえない、そうしてこのコロニー3もここまで来たんだ、それに俺達は訓練兵だからいずれ平和とは離れなきゃいけない、俺もずっとこの日常を過ごしたい」
「『フレイスヴェルグ』自体が俺達の進む道を示してるんだ」
雪弘は察したように口を開いた。
「まぁ、あれが無きゃ俺達は生きちゃいねぇな」
「ああ」
フレイスヴェルグ、このコロニーを守る兵器、
俺達がいずれ戦うために搭乗する人型兵器だ。
パンを早めに食べておいた、
「雪弘、今何時だ?」
雪弘が時計を見に行くと慌ててこちらへ駆けてきた。
「速人!次実技訓練だよな!?あと十分しかねぇ!」
「嘘だろ!?ごめん弓佳!また後!」
全力で教室へと駆けて行く、実技訓練の教官はかなり怖い。
「伊勢川速人!田神雪弘!遅いぞ!」
「すいません!」
「サーセン!」
「急げ!!」
大急ぎでフレイスヴェルグに搭乗する、機械音声によって手順が示される、全ての手順をクリアすると機体の人工神経と脊髄を間接接続して
機体と感覚を一体化させる、それから訓練が始まる、ランニングから遊びのようなものから実戦のようなもの、この機体の訓練は多彩だ、実際は機体との間接接続と思考制御に慣れることが、目標であるため、別に苦しいものではない、が、頭を非常に使うため、異常な疲れを感じることとなる、最後の授業が終わって遂に下校となった。
「あぁ~疲れだ~」
「今日も…疲れたな…」
「一日お疲れ様!」
「あ…ありがとう…弓佳…」
「あーあ良いよなー速人はー」
「疲れたってのにまだそれ言うのか…?」
「俺のショックを知れ!」
その時だった、第一種戦闘準備のサイレンが鳴ったのは、
唸るような音、連鎖して広がっていく音はまるで津波のようだった、
「コロニー3の皆さん、こちらは、コロニー3防衛局です、極め危険な状況と発表されました、直に避難シェルターへ避難してください、
また…」
そして衝撃的な言葉が響いた。
「訓練兵の皆さんは司令所へ集合してください。」