亜人種の力2
「ちっ、弱いくせに命令だけは一丁前だな。」
「ひゃっはあああああああ、関係ねええええ、ぶっ殺せええええええ‼︎」
戦場は亜人種の独壇場だった。当然亜人種達は人間の命令を聞くはずもなく、魔物を倒し続けている。
亜人種達は魔物の屍をまるで山のようにうず高く積み上げ、あっという間にそれを幾つも作った。
亜人種の中のリザードマンは人間にこれ以上口出しされるとたまらないと思ったのか、引きちぎった魔物の肉片を後方で控える人間に向かって放り投げた。
べちゃ、という生理的に受け付けない音を立てて、アーロンの足元に、魔物の肉片が投げられた。
「くそっ…趣味の悪い奴らだ…!」
「けけけ、そいつを食べてみればわかるんじゃないか?
ほれ、まだまだたっぷりあるぞ。」
まるで雨のように魔物の肉片が後方の陣に投げられた。
亜人種は嬉々として魔物を殺し続け、その肉片を人間に投げた。肉片の山は築かれなくなったが、今度は後方の陣に肉片が積もる。
亜人種達は楽しんでいた。戦場に秩序などなかったのだ。強者が弱者を蹂躙し、その上に立つ、それこそが戦場なのだとアーロンは痛感させられた。
気がつくと、敵の第一陣は退けられていた。亜人種達は魔物に貪りつくもの、死体すら嬲るもの、ただ獲物をバラバラにするものなど様々だったが、その有様は地獄そのものだった。
「て、敵第一陣…壊滅…我々の勝利です…アーロン殿…」
「そ、そのようだな…」
アーロンは鎧に着いた肉片を振り払った。
戦場を見ると、亜人種が魔物の屍を掲げ、勝鬨をあげていた。
「ぎゃっ」
アーロンが横を見ると側近が倒れていた。
顔に高速で肉片を投げつけられ即死していた。体をびくびくと痙攣させ、顔は肉片で見えなかったが、あまりに一瞬の出来事でアーロンはどう反応していいかわからず立ち尽くしていた。
「よお勇者殿、魔物はぶっ殺してやったんだ。約束通り金と女と酒をよこせ。
今日は気分がいい。たっぷり遊んでやる。」
ぎらぎらした目つきでオークが舌なめずりする。血と肉片でどろどろになった棍棒を振り回しながらアーロンを威嚇する。
「勇者さんよう、まさかさっきの発言撤回するとか言わねえよなあ?
俺たち血の気が多いもんでなあ、それにまだ第一陣を倒しただけだろ?」
骨をしゃぶりながらリザードマンがアーロンに詰め寄る。
アーロンは黙っている。
「シカトするなよ、俺たちが言いたいことわかるだろ?
次も戦って欲しけりゃこの国の金、女、酒全て俺たちによこせって言ってるんだよ。」