亜人種の力
天を、地を埋め尽くす大軍勢ー
唸り声を上げながら、獲物を前にして歓喜の雄叫びをあげながら、その魔物達は眼前まで迫っていた。
「なななな何ということだ‼︎まだ我が戦線は配置がっ、配置が終わっておらぬ‼︎」
アリゼイユの将軍は頭が真っ白になった。
亜人種達はまだくつろいでいる。もう誰も自分の言うことを聞いてくれるものはいないのか。
将軍はプライドだけ高いのか、この状況が信じられなかったし受け入れることができなかった。
「ええい、もう知るか‼︎儂は撤退する‼︎」
だが将軍は撤退できなかった。空から魔物の攻撃を受け、首をはねられてしまったのだ。
将軍の体は地面に倒れ、そのまま魔物の餌となった。
「ええい、亜人種共聞けええ‼︎
今回の戦いで功をあげた者には、報酬をくれてやる!」
混沌とした戦場、アリゼイユの勇者の号令が響く。軍勢は怒涛の勢いで本陣まで迫る勢いだった。
戦いの始まりからこの状況は最悪の事態だった。打破するためにはこれしかない。
「金も、女も、酒もくれてやる‼︎戦うのだ!」
その号令を聞き、亜人種達はやっと行動を起こし始めた。
勇者は内心亜人種達と魔物の共倒れを狙っていた。共倒れとまではいかなくても、互角な戦いを展開してくれれば魔物のデータを後方の魔術師勢が調査し、後の戦いに役立てるだろうと、そして死にかけの亜人種達にもこちらは恩賞を出さなくてもよいと思っていた。
次の瞬間耳をつんざくほどの絶叫が平原に木霊した。それは魔物のものかと思われたが、よくよく聞いてみるとそれは自陣から聞こえていた。そう、亜人種達の雄叫びだったのだ。
「金、女、酒‼︎自由!!」
「ウオオオオオオオオオオオオオオ、殺せええええええええええ」
亜人種は普段奴隷として扱われ抑圧されていた反動か、恩賞を聞いたせいか歓喜の叫びを上げながら、襲い来る魔物達へと向かい始めた。
「す、凄まじい…」
「勇者アーロン殿‼︎見てください!あれは…」
アリゼイユの勇者アーロンの側近が戦場を指差す。
アーロン達が見た光景は想像を絶するものだった。
「ま、魔物が…瞬く間に倒れていく…」
空から迫り来る翼竜、闇を纏った鎧姿の悪魔、地中から迫るワーム、骸骨の魔道士、合成獣キマイラなどなど。それらが亜人種達によって、叩きのめされ、引きちぎられ、燃やされ、爆発させられ、とにかく完全に一方的な展開になっていた。戦場には魔物の屍が積み上がっていく。
「少し落ち着け、お前達!
敵を倒すのもいいが、敵の能力を判別しろ‼︎それがそもそものお前達の役目だ‼︎」