戦場3
シモーヌは厳格な女性だ。彼女にとって自分が女性であるということは煩わしいものなのだろう。
今までログレスの兵として数多くの任務をこなした歴戦の猛者だ。そのあまりの厳格さに近寄りがたい雰囲気があり、また男性に対してやや厳しい態度を取るところもあった。
街道を進んでいると、既に首都は臨戦態勢に入っていると気づかされる。市民は既にシェルターに避難しており、施設も閉鎖され、至る所に防御用のゴーレムが配置されている。
もうすぐこの地も戦場となる。日常の風景こそあれどそこはもう非日常なのだ。
中央区に入ると、それまで閑散としていた市街地や街道とは違い、人が増えてきた。
だがそれは市民ではなく勇者機関の者か、あるいはヨハン達と同じように遠征に来た者たちだろう。
仮にも一国の王であるヨハン達が護衛もなしに首都に入り、しかも東門から入るという有様は、魔王討伐というものの異様さを際立たさせていたが、そこに各国の勇者達が集うのもまた異様な光景だった。
「おお、これは名だたる勇者達ではないか。」
ヨハンは目を輝かせながら周囲を見渡す。
周囲もヨハン達に気づいたのか視線を感じる。
「これはこれは、なかなか骨のある奴ばかりじゃあないか。ですがご心配なく…アーサー王に叶うものなどおりますまいて。」
ギルバートがぼそぼそと呟く。
アーサー王とはまるで違う風貌、雰囲気は怪しさで満ちていた。
「ギルバート、貴殿もアーサー王の護衛という誉高い任についているのだ。油断はするな。」
シモーヌは相変わらずだ。彼女の男性への当たりの強さは既に知っていたが、ことギルバートのような直接戦わないような、いわゆる武人ではない者に対しては特に当たりがきつい。
中央区のほぼ中心、勇者機関本部
天をも貫くその塔こそ、魔王討伐の中枢、要なのだ。
「ログレスの王、アーサー17世ヨハン殿とお見受けする。長旅ご苦労であった。さあこちらへ。他の者たちも集まっている。」
勇者機関の神官らしき人物がヨハン達を中へ案内する。
他の勇者達も集まっているらしく、戦いも近いのか機関内は慌ただしかった。
「こちらの大講堂で説明が行われる。時間までしばらくお待ちいただきたい。」
「その前に一ついいか」
案内役にシモーヌが話しかける。
「なんだ?」
「一国の王に対してその不遜な態度はいかがなものかと。勇者機関であるのは承知しているが、いささか礼節に欠けているのではないか?」
「我々勇者機関は全ての組織とは別格である。何より勇者達はこの有事に際して召集された援軍にすぎん。
貴様こそ我々に対する礼節をわきまえるのだな。」