戦場
「兵士諸君、お前達のその力はこの家族を、国を、世界を守るためにある。決して他者を貶めるためにあるのではない。
亜人種諸君、お前達のその力は我々人間では及ばない、かけがえのない神からの恩恵なのだ。今の諸君らは奴隷などでは決してない‼︎志を共にする仲間なのだ‼︎」
ダンテの演説はその場にいる者達の心に響いた。それは他の者でもできることではない。ダンテだからできたことなのだ。彼の持つ人望、カリスマと言うべきものが今の演説に心を打つ何かを持たせていたのである。
「すまなかった…言いすぎたようだ…前線は任せるが、後方はこちらに任せてくれ。」
「ああ。」
すぐに関係が修復するものではないが、前線は秩序を取り戻した。
「亜人種諸君は配置につきたまえ‼︎
後方は魔術師、弓兵‼︎白魔導師及び戦士系クラスは場内で待機‼︎
敵は待ってはくれません、迅速に対処するのです‼︎」
ダンテの指揮は的確だった。
その力量に兵士だけでなく、今しがた会ったばかりの亜人種達からも人望を寄せれるほどに。
だがその賞賛の声もダンテの心には届いていなかった。彼はアーサーの代替品、予備に過ぎないと、他でもないダンテ自身がそう思っていたからだ。
彼の心にはただ一つ、アーサーには絶対に届かないというある種の諦めがあった。ダンテという存在はある程度認められ、人望を寄せられても、それは王の器ではないのだ。
万人の王たる者には、生まれ持った違う何かがある。今の演説も、いや演説するまでもなくアーサー王がいたなら、今のような争いすら起きていなかったであろう。
ダンテは空っぽだった。
「将軍、お見事ですな。」
1人物思いにふけっていたダンテに隣国エスターブルの将軍が話しかけた。
エスターブルはログレスの周辺国の一つであり、国の規模は大きくない。兵士もログレスなどの大国ほど屈強ではなく、将軍自身その鎧姿からはあまり強そうな印象は抱かない。
「これはこれはバート将軍ではありませんか。」
「いやいや同じ将軍位とはいえ、貴方ほどの者と同列などと言うのもおこがましいほどです。」
バートは老齢の将軍である。その姿や仕草からは年齢相応の落ち着きというのか、物腰柔らかな雰囲気が備わっていた。争いもあまり起きない小国の将軍らしいものであるとダンテは思っていた。
「いえいえ私もまだまだなのですよ。現にアーサー王がいたならば、あのような争いすら起きていなかったでしょう。」
ダンテはやや虚ろな目で戦線を見下ろしている。