前哨戦5
東部戦線ログレス王国 ログレス城
「見ろよ亜人種共だ。」
「獣臭えな、なんでこんな奴らと一緒にいなきゃいけないんだ⁉︎」
キングピサロから亜人種達が到着し、彼らは手厚い出迎えを迎えることなく、人間たちから好奇や軽蔑の視線を向けられながら戦線へと向かった。
日頃の重労働でその肉体は鍛え上げられ、元々の身体能力の高さも合わさり、屈強な身体だった。だが亜人種独特の匂いや、奴隷としてこき使われているという前情報が彼らに好奇の目を向けさせていた。
戦線へと案内する兵も到底これから共闘するとは思えない態度で、まるで罪人を刑場へ誘導するように接した。
亜人種達はただ黙ってされるがまま戦線へと赴いた。
だがそんな中、亜人種の中の1人にログレスの兵が足を引っ掛けてわざと転ばせた。
転ばされたドワーフは顔から地面に激突し、しばらくうずくまったままだった。
そのあまりの態度に亜人種たちも我慢の限界を迎え、戦線は一触即発の様相を呈した。
「へへ、すまねえな。お前のことがよく見えなかったんだよ。」
「てめえ人間風情が!今この場で八つ裂きにしてやろうか‼︎」
地面に倒れたドワーフを庇うようにコボルトが人間に食ってかかった。
「獣臭えなお前!話しかけるんじゃねえ‼︎」
「ああ⁉︎てめえら調子に乗るなよ⁉︎」
「やっぱりこいつら畜生どもだな、何匹か殺しても構わないだろ。」
「おいおい、そんなこと言ってるとてめえらバラしてやるからな。」
「そんなこと言ってるから奴隷なんだよ、クズ」
「てめえぶっ殺してやる‼︎」
戦線はログレス兵と亜人種が今にも争いを起こそうとしていた。だがそんな様子を見兼ねてダンテ将軍が、戦線を見下ろせる位置の城壁から威圧するオーラを発した。
そのあまりのオーラに兵士も亜人種も一瞬にして静まり返った。
「不毛、この一言にすぎる状況です。」
ダンテは身体から空気が震えるような凄まじいオーラを発し続けている。目に見えるほどの絶対的な覇気。怜悧で、圧倒的な、裁きを下す神の如き絶対的な存在感のオーラを。
「この惨状を目にしたらアーサー王は間違いなく嘆かれるでしょう。誇り高きログレスの精兵達が、これから共闘するもの達へのあまりに不遜な態度…許されるものではありません。」
ダンテは亜人種達を挑発した兵に剣先を向けた。それははたから見れば遠くからただ兵士に剣を向けているだけだったが、兵士からすればその剣先は今にも自分の首を撥ねてしまうであろう殺気を帯びていた。
「お前のような兵は今すぐ処断してやりたいが、今は非常事態です。その畜生にも劣る命であってもこの戦場では尊い。」
ダンテはちらりと亜人種に視線を向ける。
「亜人種諸君、此度の配下の非礼な振る舞い、どうかお許しください。」
ダンテは深々と礼をした。
「今ここにいるのは、魔王を討伐するという崇高な使命のために命を賭す強者のみ‼︎そこに種族、価値観など微塵も関係がない‼︎
そのような些事にこだわるものはこれより先私が許さぬ‼︎」