前哨戦
「失礼致します、首都からただいま連絡が入りました。」
その時作戦会議室に兵士が入室した。
会議室の雰囲気を察すると兵はやや強張ったのか、声が若干上ずったようになった。
「首都から?」
「はっ!現在南から亜人種の奴隷が援軍として派遣されている模様!あと3時間ほどでログレスに到着するとのことです‼︎」
兵はその旨を告げ、資料を残すと退室した。王と将軍のいる部屋に、一兵卒が好んで残る訳がない。2人は気づかぬうちに圧を発していたのかもしれない。
「南の奴隷国家から亜人種達を買ったようだな。ログレスには100名ほど派遣されるそうだ。」
アーサーが資料に目を通す。その眼光は今までになく鋭いものだった。記載されている情報をもとに彼の頭の中では作戦が描かれているのだろう。
「今回亜人種達には魔物の能力を判別するために前線で戦ってもらう。」
ヨハンは派遣される亜人種たちのステータスに目を通す。
「亜人種は我々よりも身体能力が高い。が、奴隷で無理矢理派遣されるとなると士気も高くはない。中には人間に敵意むき出しで協力しないどころか魔物に寝返る輩もいるだろう。そこで、」
ヨハンはダンテに視線を向ける。その目はダンテに対する厚い信頼が込められているように思えた。
「ダンテ、お前が亜人種とログレスの軍団をまとめ上げるんだ。」
「私が…ですか?」
大将軍という地位で騎士大隊を率いたこともある。魔物の討伐のために連合軍として3カ国の大兵団を率いたこともある。
だが今回は訳が違う。
亜人種、それも奴隷として派遣された明らかに士気の低い連中と、騎士団の連合をまとめ上げる役目だ。
ダンテにプレッシャーがのしかかる。
「もちろん、お前はその勇名を世界に轟かせる大将軍だ。お前の名を聞いただけで撤退する兵もいるほどにな。
この兵力数なら私がいなくても心配はないだろう。それに、」
ヨハンは一瞬言葉に詰まった。だがまたすぐに続けた。
「お前は兵から信頼されている。その厳格さ、堂々とした立ち居振る舞い、気品は武人の鑑と言ってもいい。
先ほどここに残ると言っただろう?あれは兵を守るため、明らかに不利な戦いを強いたくなかったゆえだ。」
ダンテは黙ってヨハンの言うことを聞いていた。
「今の兵力なら互角の戦いができる。そしてダンテ、お前がこの戦いの主導権を握るのだ。この戦いでは士気も、種族も違う者たちを率いて絶対に勝たなくてはいけない。それを可能にする実力はお前にしかない。」
アーサー王直々の大抜擢。大将軍になってもなお、戦場での必勝法を探す毎日である。それほど戦は何が起こるかわからない。
だが自分は選ばれたのだ。戦場での勝利を、世界の命運を託されたのだ。
ダンテは大将軍として、アーサー王随一の配下としてその命に答えねばならなかった。
彼の出した答えはもちろん、
「御意。このダンテ、アーサー王の命に輝かしい勝利をもって応えましょうぞ!」