休戦5
恐らくハンクはヨハンによって消されてしまったのだ。正確には彼の持つ魔剣ダーインスレイブによって。
魔導書についてはハンクが盗もうとしたか、あるいはヨハンに対抗しようと慌てて持ち出した可能性もあるが、恐らくは前者だろう。
今となってはいなくなっているので事態の全貌はわからないがー。
ただもしハンクが自分から魔導書を盗もうとしていたのなら、買収した輩は所詮その程度の忠誠心しか持ち合わせていないことになる。
ハンクが消えたことで先ほどまで危険な状態だったヨハンが回復しているのは不幸中の幸いと言えるだろう。
ペンドルトンは魔導書を拾い上げ本に着いた汚れを払った。
「ヨハン殿、今は体調は万全なのですな?」
「ああ、随分と楽になった。」
「それはいつごろからですかな?」
「……すまない、よく覚えていない。気がついたら体調が回復していてな。」
「左様でございますか。」
部屋の中に沈黙が張り詰める。
と、その時突然地面が揺れ始めた。
それは地震のようだったが、揺れは徐々に大きくなり始め、立っているのも難しいほどになった。
「何事だ⁉︎」
「わかりません‼︎だがこの地震は敵の攻撃ではないはず…」
状況が掴めぬまま、やり過ごそうとしていると隠れ家の外から強烈な閃光が発せられた。
眩しくて目が開けられない。ヨハンは光に悶えている。
ペンドルトンは目をわずかに開け、何が起きたかを確認する。
隠れ家の窓が破られ、そこから現れたのは身体全体が光に包まれたゴーレムだった。
ゴーレム、土から生み出された動く人形。
身体は角ばっており2mほどの身長を持つ。
土でできてはいるが、岩のような硬さを持っており、物理攻撃はあまり通らない。
術者の意思や吹き込まれた魔法の影響を強く受けるため、どのようなゴーレムになるかは術者次第となる。このゴーレムも例外ではない。
ゴーレムは機械的な動きで部屋の中を見回すと2人を感知した。
何か発見したら行動を取るようにプログラムされているのだろう、それまでの探索するような動きから一変し、機敏な動きでゴーレムは2人を閉じ込める結界のようなものを張った。
「⁉︎何なのだこれは?何が起こっている?」
「ヨハン殿、落ち着いてくだされ‼︎ひとまず様子を見てみないことには、対処ができませぬ‼︎」
その時2人の頭にテレパシーが届いた。
それは開会式で聞いた勇者機関の神官の声だった。
ーコロッセオでの暴動に乗じて暴れている輩がいるようだ。勇者と言えど今回の事態は見過ごせぬ。少々手荒だが強硬手段を取らせてもらおう。ー
「これは…勇者機関のゴーレムなのですか…」
ーそれからもう一つ、今回の騒動の発端となった教会の戦士たちにはペナルティを課させていただく。
これから7日間、急遽戦いを中断し教会の戦士討伐の任務を諸君に課す。
教会に対抗することを目の前のゴーレムに証明したまえ。
無論、勝てないとわかっているのであれば参加しないでもよろしい。ただし教会に与するようであれば一切容赦はしない。次の戦いについては追って伝えるとする、以上。ー