休戦4
自分の命が終わる、ということがこんなに呆気ないなんて誰が考えるだろうか。
その時が来て、初めて終わりを実感する。
否応なしに。突然に。
ハンクが部屋に入った瞬間目の前にヨハンが立っていた。ハンクはヨハンが魔剣を持っていたことにも驚いたが、それよりもヨハンの雰囲気に圧倒され固まってしまった。
それからは一瞬だった。
魔剣がハンクを貫き、ハンクは絶命した。
しかし、この感じは何なのだ?形容し難い感覚だが決して心地よいものではない。
死んだことはこれが初めてなのでわからないが、普通に死ぬ時にはこんな感覚にならないことだけはわかる。
なんだこの感覚はー
例えようがない、自分よりも強い絶対的なものによって自分そのものを奪われていくー
そうだ、これはー
ソノ命、喰ラッテヤルー
喰われる感覚だー
「ペンドルトン起きろ。」
誰かが呼ぶ声がする。ずっと待ちわびていた人のようだ。
「ペンドルトン」
そうだ、この声はー
ペンドルトンは眉間に皺を寄せ、寝返りをうつと少しした後飛び起きた。
「ヨ、ヨハン殿…お目覚めになられたのですか?」
ペンドルトンはヨハンが意識を取り戻したことに驚いていた。あの暴走の後にこれだけ早く意識を取り戻したのは何故なのか。
ペンドルトンは幾らか拭いきれない疑問を抱いたが、ヨハンが回復しただろうことを見て取ることができたので、嬉しさで目が輝いていた。
「ああ、だがコロッセオから抜け出した後のことはよく覚えていないんだ。」
ペンドルトンの脳裏にあの暴走したヨハンがよぎる。
「あのあとヨハン殿は突然倒れたのです。やはり体調があまりよろしくなかったようなので、こちらの隠れ家に匿わせていただきました。」
「そうか…またお前には迷惑をかけてしまったようだな。」
ヨハンは頭を抱えて少しうなだれた。
ペンドルトンはテーブルに魔導書がないこと、そしてハンクがいないことに気づいた。
ペンドルトンはあまり考えたくなかった事態を頭の片隅に置きながらヨハンの部屋に入った。
「……まさか、こんなに早いとは…」
ヨハンの部屋にはペンドルトンの魔導書が落ちていた。まるでだれかが盗み出そうとしたかのように。
さらに彼は目を疑う光景を目にした。
あの魔剣が、ジークフリートとの戦いで相手を出し抜くために、コロッセオの外に置いて来たはずの魔剣が戻ってきていたのだ。
消えたハンク、落ちていた魔導書、戻ってきた魔剣、回復したヨハンー
ペンドルトンは断片的な状況を整理しつつ何が起こったか大まかに理解した。