休戦2
「はあ…はあ…なんとか…出し抜いてやりましたぞ…ジークフリート…」
ペンドルトンは気絶したヨハンを抱えながらコロッセオから離れた首都の裏路地にいた。
既に体はボロボロで、これ以上誰かと戦っている余裕はない。今強襲されたならひとたまりもないだろう。
グリージャとも結局合流できないまま今に至るのだ。ヨハンは魔物に意識を乗っとられてから未だに目を覚まさない。
「ペンドルトン殿ー!こちらです!」
裏路地の奥、寂れたレンガ造りの家の窓から男が身を乗り出してペンドルトンに声を掛ける。
やや甲高い声で、頼りなさそうな感じの少し線が細い男だ。
「助かりましたぞハンク殿!」
ハンクと呼ばれる男に礼を言うと、ペンドルトンはそのレンガ造りの家に入っていった。
ドアの造りはガタがきているのか、開閉の際に黒板を爪で引っ掻いたような不快な音を立てた。
内装も外観を裏切らない構造だった。
部屋はあまり綺麗ではなく、むしろ汚ない部類だ。外の光が部屋の中に入り込むが、宙に舞う埃がこれでもかと視界に入る。
もう一つの部屋にヨハンを寝かせ、リビングのソファに腰掛ける。埃が舞い上がる。
ハンクはコーヒーを一杯ペンドルトンに出すと、彼の向かい側に座り、話し始めた。
「だいぶ重症みたいですね。ヨハン殿ともども。」
ハンクは角砂糖をぼとぼとと自分のコーヒーに入れ始めた。
「まさかジークフリートと戦うことになろうとは…」
「まだ相手にはばれてないみたいですよ。」
「そうでしょうな…見破られていたなら私の命はとうになくなっている。」
ペンドルトンはハンクから角砂糖を勧められたが、それを拒み無糖で飲んだ。
「魔剣、あれは危険すぎる。ジークフリートを出し抜く時に置いてきたが、それでもしばらくすればまたヨハン殿の元に舞い戻るでしょう。」
「アイザックからの報告だと、魔剣はもう現場にはなかったそうです。」
「何ですと⁉︎」
ペンドルトンが身を乗り出す。
「コロッセオ周辺にはあなた方に買収された他のパーティの人間がウロウロしていました。ですが魔剣については誰もみていないそうです。」
「なんということだ…偽装工作は完璧だったはずなのだが…」
あのジークフリートとの戦いー
ギーゼラに呪いを掛けられ、圧倒的に不利だったペンドルトンだが、彼はお得意の使い魔と幻術でジークフリートたちを出し抜いたのだ。
ヨハンの視界を暗黒にしたあと、閃光で一瞬光がその場を覆ったわずかな時間でペンドルトンは使い魔を2体召喚した。
一体は自分そっくりに変化させ、もう一体はヨハンに変身させた。そして自分とヨハンを近くの森までワープさせ、使い魔2体に死んだふりをさせたのだ。