聖剣の真価2
ウルフは倒れたハンナを見て少しばかり後悔していた。
やりすぎてしまったと思ったからだ。
相手は仮にも魔術師の類。身体能力で言えば天と地の差があるのだ。
「あとはイカれたパラディンと聖騎士か。」
「不意打ちなんて、さすが畜生のやることね。」
ウルフの背中に氷柱が突き刺さる。
痛みで一瞬身体がよろめいた隙をつき、待機していたイングリスが強烈な正拳突きを叩き込む。
幸いにもセミラミスの魔法で身体能力が向上していたので、致命傷にはならなかったがウルフは勢いよく吹き飛んだ。
「がっ…くそ、セミラミスの魔法がなきゃ、内臓が破裂してたな…」
ハンナは呪文を唱えると隠れていたセミラミスを見つけ出し、彼女に氷柱で攻撃した。
「イングリス、私が隠れている奴を担当するから、あの狼お願いね。」
氷柱は何度も何度もセミラミスのいるだろう場所に打ち込まれ続けた。
「セミラミス‼︎」
「狼男、貴様の相手は俺だ。」
トライデントによってウルフは右足を貫かれた。
「があああああああ」
ウルフが苦悶の声を上げる。
「本当はこのまま拷問をしたいところだが、今当主の命に背いたら俺の命がない。
残念だが貴様とはここでお別れだ。」
イングリスは突き刺した槍を抜くと、その槍を今度はウルフの心臓めがけて突き刺そうとした。
ウルフは身体を捻って心臓への攻撃を回避したが、槍は彼の左腕に突き刺さった。
「ぐあああああああああ」
「往生際の悪いやつだ。この俺が一撃で殺してやると言っているのだ、大人しく死ね。」
ウルフはちらりとハンナの方を見る。
ハンナの魔法攻撃、氷柱によってコロッセオの壁にはびっしりと氷柱が打ち込まれていた。
セミラミスは無事なのだろうか。
だが今の自分にはそんなこと考えている余裕はない。
左腕と右足に怪我を負いうまく動くことができない。
セミラミスの魔法による支援も望みは薄い。
竜人もあの聖騎士との戦いで他を支援する余裕はないだろう。
ウルフは鋭い目つきでイングリスを睨みつけた。
「おいおいそんな目で見るなよ。拷問したくなるじゃあないか。
しかしこれで終いだ、今度こそ息の根を止めてやる。」
槍の一撃がウルフの心臓めがけて襲い来る。
ウルフは決死の覚悟で左腕を捨てることにした。既に怪我をしている左腕を前方に出し、再び槍の攻撃を受けた。
既に怪我をしている部位への更なる痛みは想像を絶するものだ。
ウルフは飛びそうになる意識を気力で持たせ、イングリスの首に噛み付き、そのまま喉を食いちぎった。