竜人VSチェスター5
「おい竜人、雷雲が消えたぞ!」
コロッセオに陽の光が戻り、辺りは明るくなった。
それは召喚獣が消えたことを意味していた。
先程セミラミスから聞いた召喚獣の正体ー
あの落雷自体がケツアコアトルという情報を聞いたばかりのことで、2人は対策を考えていたところだった。
だが召喚獣は消えた。よく見るとカーバンクルのバリアも消えていた。
「どういうことだ?」
竜人は不思議だった。
今の戦いが続いていれば明らかにこちらは消耗して不利だった。
魔法も炎も使えず、落雷の脅威に怯えながら肉弾戦を強いられる。
さらには防壁を張り、パーティ2人は万全の状態を維持する。
なぜこの有利な状況を自ら解除するのか。
それが不思議でならなかったのだ。
「今のまま戦いが続いていれば有利なのはわかりきってたはずだ‼︎
なぜ召喚獣を戻した?」
「維持の魔力が切れたんじゃないのか?」
ウルフが竜人に話しかける。
「わからねえ、ただ向こうはいよいよ大将のお出ましみたいだな。」
竜人たちの目の前にはチェスターとハンナがいた。傍らにはイングリスが彼らしくない萎縮した面持ちで佇んでいた。
「なぜ今の状況を解除したか…気になっているようだな。亜人種共よ。」
チェスターがゆっくりと竜人たちに歩み寄る。ただ一歩ずつ前へ、決してとどまることなく、確実に。
「やっぱりあいつ、ただものじゃねえ…‼︎あのオーラおかしいぞ‼︎」
ウルフが身構える。
「仕方あるまい教えてやろう。
一つ、あの戦い方では時間がかかりすぎた。
二つ、召喚獣如き戻してもこちらの有利はゆるぎないからだ。
三つ、この聖剣クラウ•ソラスが俺に言っているのだ、貴様らを倒せとな。」
チェスターは目の前で鞘から剣を引き抜いた。輝く刀身、剣に刻み込まれた呪文、そして剣自体が放つ神々しいオーラ。
それらがチェスターの纏うオーラとあいまって凄まじいものとなっていた。
「一匹まだ隠れているようだがそんなことは問題ではない。まず貴様らからだ。」
ー2人とも聞いて!ー
再びセミラミスからテレパシーが届く。
だが今回のテレパシーは先程とは比べものにならないほど動揺が声色から感じ取れた。
ーあの男と戦っては駄目‼︎こんなこと言いたくないけど、今戦っても…勝てないわ…ー
「おいウルフ、うちの姫がこんなに動揺してるの初めてじゃねえか?」
「やっぱりあいつはやばいんだな…くそっ、まだ戦いは始まったばかりなのによ…」
「へっ、いいじゃねえか。
あいつを今ここで倒せばこれから先俺らに叶う奴はほとんどいなくなるってことだろ⁉︎」
竜人は戦闘体勢に入った。
「おい竜人…」
「やれるとこまでやってみようぜ、駄目なら撤退か、できなきゃここで終わりだ。」
「マジかよ…」
「忘れたのか、俺たちは自由を手に入れるんだろ?何があっても。」
ウルフが一瞬固まる。
だがその直後、彼も戦闘体勢入った。
「そうだったな。ここで尻尾巻いて逃げてちゃ、今までと一緒だ。」
「忘れたとは言わせないからな!
さあ、派手に暴れようぜ‼︎」