竜人VSチェスター2
「よっしゃあ‼︎手応えあり‼︎」
崩れる壁を見ながらウルフが得意げに言う。
コロッセオ内は雷雨で少し先も見えないほどだったが、亜人種達にはそんなこと関係なかった。
気配や匂いで相手を感知できるからだ。
「ナイスだウルフ!
認めたくねえが、この雨じゃ俺の炎や飛行は不利だ」
「へっ!だから俺が来てやったんだ!
確かにこの雷雨は厄介だ!これを何とかしないと残りの2人に手出しができねえ。」
「今は目の前のやつに集中しろ!普通の人間なら今ので潰れてるんだが…」
次の瞬間崩れた壁の瓦礫が宙を舞った。
それはまるでポップコーンが弾けるように軽々と。
雷雨で視界があまりよくなかったが、2人はあまりの光景に驚きを隠せずにいた。
崩れた瓦礫からはイングリスが無傷で現れた。ゴキゴキと首を鳴らしながら、まるでダメージを受けていない素振りだ。
「やはり人外との戦いは血湧き肉躍る。これでこそ亜人種よ。
貴様らを捻り潰せば俺の経歴は更に輝く。」
目の前のイングリスは相手からの魔法を反射する赤いバリアを纏っているだけでなく、身体を覆うオーラもあいまって異質な雰囲気を醸し出していた。
「おいおい、あんまり効いてねえじゃん…それにこの雷雨でまともにこっちを感知できるとか…マジかよ…」
ウルフが驚く。ウルフを覆うセミラミスの魔法も徐々にその効き目が薄くなっていく。
「お前ら召喚魔法を知らないのか。
まあそんなことはどうでもいい。もっと派手な技で俺を楽しませろ‼︎」
次の瞬間イングリスはウルフ目掛けて突進してきた。
ウルフは人間と狼のハーフであるワーウルフである。並の攻撃なら容易く見切ることができるし、匂いや気配での感知もお手の物。
だがウルフの身体は攻撃をよけきれず、先程のイングリスと同じように壁に叩きつけられた。
「かっ…」
壁とイングリスの巨体に挟まれ、ウルフの肉体はミシミシと嫌な音を立て始めた。
ウルフは拳で彼の鎧を殴ったがビクともしない。
「貴様本当に亜人種なのか?俺の攻撃を見きれぬとは…
先程の礼だ。貴様の内蔵を全て潰してやる。」
「てっ…てめえ…」
彼の鎧は最強硬度の金属オリハルコン製である。その硬度の前にはさしもの亜人種ですら手が出せない。
「ふははは、愉しい…これが討伐の醍醐味だ…!」
「…⁉︎」
「貴様らのような畜生共を倒す度、俺は己の強さを実感できる。
鬼、魔族、ドラゴン、オーガ…数知れず屠った奴らの死に際の断末魔こそが俺の糧なのだ。」