生と死4
「そうだお前らそれでいい。そもそも同族で争うのは不毛じゃないのか?」
竜人が周囲に問いかける。
「初めにこうなる原因を作ったのは目の前のパラディンじゃないのか⁉︎」
竜人の問いかけに暴徒達は答えることはなかったが、彼らの態度で、過ちを認めていることはわかった。
コロッセオはそれまでと比べてかなり静かになった。
すると群衆の中の1人が大声で言う。
「悪かった!あんな酷い光景我慢できなくてつい…」
「俺もだ!」「私も!」
次々と群衆が非を認め謝りはじめた。
それは今までの暴動からは考えられない光景だ。
それからコロッセオ全体が秩序を取り戻すまでそれほど長い時間はかからなかった。
「やったなセミラミス!」
ウルフがセミラミスにウインクしながら言う。
「ウインクきもいし、みんなをまとめたの竜人だし。」
「ええ…そんなマジなトーンで言わなくても…」
「おいパラディン。お前そこの剣士に随分酷いことしたみたいじゃねえか。」
竜人が今度はイングリスに問いかける。
イングリスはまだジェームズを痛めつけたかったのか彼を捕らえていた。
イングリスは不愉快そうに、秩序を取り戻した群衆や竜人たちを見やった。
「つまらんなあ、実につまらん。」
イングリスは槍を手にしながら呟く。
「これは戦争だぞ、覚えているか貴様ら⁉︎生死の問わぬ戦い。そこに情け容赦など元より不要なのだ!
そのルールにのっとり、こいつは今の有り様になっているだけだ。」
ジェームズの意識はすでにない。
生きているかどうかもわからない。
竜の血で再生できる時間にも制限がある。できるだけ早く助けなければならない。
「じゃあお前も情け容赦なくぶちのめされても文句は言えないよな⁉︎」
竜人が戦闘態勢に入る。
ウルフ、セミラミスも竜人にならい構える。
「ここから離れてくれ‼︎巻き込むことになる‼︎」
竜人が群衆に呼びかける。呼びかけに応じて群衆はコロッセオから引いて行った。
「亜人種共か…くくく、相手にとって不足なし。むしろ血が騒ぐ。」
イングリスが不気味な笑いを浮かべる。
ハンナも再び構える。
「主にもこの戦い、是非参加していただきたい。なにぶん我々だけでは荷が重い。」
イングリスがそれまでとは打って変わって低姿勢な態度に出たため竜人たちはその主の方を向く。
今まで傍観を決め込んでいた教会の聖騎士ゴドフロア10世が遂にその重い腰を上げた。