正統なる勇者4
そこは酒場だった。
開店するのは夕暮れからのはずだが、この店は夜は酒場で、昼は別の顔をしているという。
「おお、始まっていましたか!
ヨハン殿、あのリングで戦っている闘士が我がパーティの3人目、グリージャでございます」
この酒場、バー•ホプキンスは昼間は血の気の多い格闘家や裏社会の闘士たちが戦い合い、観客はどちらが勝つかを賭けるいわば賭場だった。
店内は薄暗く、また、店にいる客も良識を持ち合わせているような輩は一人たりともいなかった。
観客の応援とも罵倒ともとれる声援の中、安っぽいリングの中で2人の男女が戦っていた。
一人は身長2mを超える大柄な男で、上半身は裸だったが、分厚い筋肉の鎧で覆われた典型的な格闘家だった。
対するのは、やや筋肉質で体格はいいが、到底あの体格の男とは渡り合えそうにはない女だった。齢は10代後半だろうか、若い印象がある。
だが不思議なことにこの戦い、女の方が優勢だったのだ。男は既に体の至る所に怪我を負っており、足どりとおぼつかない。
女は華麗なフットワークで男を翻弄し、ヒットアンドアウェイで着実にダメージを与えていた。
「やられてるじゃないかペンドルトン。あの男はああいう趣味なのか?」
ヨハンがやや不機嫌そうに言う。
「なぜ男の心配などしているのです?」
ペンドルトンは逆にヨハンに尋ねた。
「この戦い、おそらく女が勝つだろう。あの男はダメージを受けすぎている。あの体格で慢心していたのかどうかはわからないが、女に勝てないようでは頼りにならないな。」
「ヨハン殿、グリージャは男ではなく、女の方ですぞ。それに裏社会に3年もいて、グリージャを知らないとは…」
戦いは女が勝った。男は目を開けたまま気絶しリングに倒れこんだ。女は観客に見えるようにガッツポーズをし、自分の勝利をアピールした。
「俺は他のやつらに興味はない。俺が倒すべきあいつさえ覚えていれば関係ない。」
「はあ、そうですか。まあ何はともあれ、彼女の強さをおわかりいただけたでしょう。私もこんな店にくる柄ではないのですが、いささか人材の確保に手間取っておりましてな。」
リングのグリージャがこちらを向いた。
金色の髪に緑色の瞳、健康的で無邪気な笑顔を見せる彼女が到底裏社会で有名なグラップラーだとは、ヨハンには思えなかった。