生と死2
「何だ…これは…」
吐血しながら男が言う。
だが次の瞬間、男は苦痛の叫びを上げ始めた。
アンセムは突き刺した右手をゆっくり抜き始めた。
だが突き刺した部分から出てきたのは心臓ではなく、光る物体だった。
「これがなんだかわかるか?」
アンセムが男に問いかける。
しかし男は答えている余裕などない。
「お前の魂だ。
ああそうさ、俺はネクロマンサーだよ。それも正反対の白魔導師からクラスチェンジした。
正体を知られた以上、お前はただでは帰せない。
魂を抜かれるのは激痛だろ?これもネクロマンサーならではの技だ。」
ゆっくりと、だが確実に男は心臓部から魂を抜かれていた。スケルトンに羽交い締めにされて身動きすらできない。
白目を剥き、苦悶の声をあげる。
「お前は死なないようだ。このまま魂を完全に抜かず、この状態を維持してやる!
楽になりたいなら俺の質問に答えろ!いいな?」
アンセムは強気の口調で言い放つが、その実魂を抜く手は震えていた。
恐怖からだ。
彼はネクロマンサーとして非情な人物になりきろうとしていたが、そうしようとすればするほど、白魔導師として他の人間を助けていた時のことを思い出してしまう。
ーいいかアンセム。お前の手は苦しんでいる人を助けるためにあるんだー
不意に過去がフラッシュバックする。
幼い頃父に言われた一言だ。
ーあんたのおかげで楽になったよ。何て言うか魔法のおかげだけじゃなくて、あんた自身にも何か人を癒す力があると思うよー
怪我人を介抱したときに言われたことだ。なんで今頃になって思い出してしまうんだ。
「早く答えろ!」
アンセムは恐怖と動揺で今にも泣き出しそうになっていた。
ついこの前まではこの右手は人を助けるために使っていたのに。
今では死者を冒涜し、あげく人を殺めるまでに落ちぶれてしまった。
不意にアンセムは魂を完全に抜いてしまった。加減に失敗したのだ。
勢い余って後方に倒れる。
男はがくんと力なくうなだれた。
スケルトンは主の命令を忠実に遂行したままだ、つまり男が死んでいるにも関わらずまだ羽交い締めにしていた。
「はあ…はあ…う、うう…うおええええ‼︎」
自分のした行動となりたかった自分とのあまりの差に耐えきれず、彼は嘔吐した。
胃がねじ切れそうだ。苦しい。右手は血にまみれていた。ぬめぬめと温かい感触。生命の証。
耐えきれず彼はさらに嘔吐した。
だがそんな彼を、あの男は見下ろしていた。
「そんなに苦しまなくてもいい。そうさ、君は頑張ったのだろう?」
男は優しくアンセムの背中をさする。
「私は別に君に敵意があるわけじゃない。言っただろう?君のことを知りたいと。」
アンセムはげほげほと咳き込みながら男を見上げる。その表情は恐怖か、驚愕か、あるいは両方か。
「私と手を組まないか?改めて名乗らせてもらおう。
私は錬金術師、ハルトマンだ。」