生と死
アンセムの頬を冷や汗が伝う。
この期に及んでようやくアンセムは自分が軽率だったことに気づいた。
なぜこの男は死んでもまた姿を見せるのか。
そもそもなぜコロッセオの外に出てきた自分をピンポイントでつけ狙ったのか。
「いい表情じゃないか。その目からは疑問の色が見える。」
男は続ける。
「まず君の白魔導師の姿はカモフラージュのつもりだろう。その2人は装備を見るに、勇者系、戦士系だ。通常であれば白魔導師はこれらの戦闘向きの背後にいるものだ。
だが君は違った。そこがまた君の正体がネクロマンサーだと確信できなかった点でもある。」
男は自論を展開した。
「文献で読んだネクロマンサーの特徴に自分の傷を治すことができなくなる、とあった。であれば、安全策として、必ず周囲にアンデッドやスケルトンを配置する。
君はアンデッドの展開や配置はネクロマンサーの戦い方に則っていたが、お仲間であるそちらの2人は死人であるにも関わらず、なぜか君は2人を守るように戦っていた。」
アンセムはじっとしたまま動かない。
「おかしい話だ。自分は傷を癒すことができない。ならば第一に考えることは防御。
なのに君は死人の兵をあたかも守るかのように振舞った。そうでなくともなぜ白魔導師がパーティの前衛にいるのか。
矛盾点ばかりで合点がいかなかったが…君と話していてよくわかったよ。」
男はアンセムをじっと見たまま視線を動かさない。
「君は何らかの理由で死んでしまった仲間をネクロマンサーになってこの世に呼び戻したのだ。白魔導師からネクロマンサーにクラスチェンジしてまでな。
そして、生前と同じように戦いたかった。違うかね?」
見破られてしまった。
こうも簡単に、自分の正体や思想を。
だがアンセムはいくつか氷解できない疑問があった。
この男の正体、能力、なぜ生者と死者の
区別がつくのか。
「ああ、大方お前の言う通りだ。
だがこちらも気になることがある。なぜお前は死なない?それに生者と死者の区別がつく?」
アンセムは率直に疑問をぶつけた。
「くくく、なぜ私が自分の素性をべらべらと君に話さなければいかんのだ。
君の素性は君が勝手にさらけ出したようなものだろ。」
男はへらへらと笑いながら言う。
確かにその通りだ。だがどれだけ攻撃しても死なないのは厄介だ。
本体が近くに隠れているのか、物理攻撃が効かないのか。
ならばー
アンセムはスケルトンを3体自分の前方に展開し、男を羽交い締めにして動けなくした。
そして動けなくなった男に接近し、右手を心臓に突き刺した。