悪魔との攻防4
「じろじろと見やがって、気味の悪い奴だ。何であれお前は戦闘能力は高くないようだな。
だからこそ、俺のような白魔導師を狙ったのだろう?」
アンセムは地面に引きずりこまれていく男を見ながら言う。
『アンセムよ、手の内を見せすぎだ。それ以上やつに構うな。思う壺だぞ。』
やや呆れ気味に魔術師が言う。未だアイリとグレンは魔術師の人形だ。
だがアンセムがあまりに浅慮なので魔術師は2人を使って戦いに参加しようとしていた。
「その2人を使うなと言っただろう‼︎
あんな奴は俺1人で十分だ!」
アンセムが激昂する。
男は完全に地面に引きずりこまれ、姿が見えなくなった。
お前は必要ないんだよ、とでも言いたげな視線をアンセムは魔術師に向けた。
『ふん、好きにしろ。人の忠告をことごとく無視しおって…
もうやめだ。せいぜいこの2人との馴れ合いを楽しむがよい…
そんな余裕があればの話だがな。』
そう言うとアイリとグレンは糸が切れたようにドサリと地面に倒れた。
魔術師から解放されたのだろう。
「2人とも!」
アンセムは急いで2人を近くの木陰まで運び、楽な姿勢にした。
コロッセオの方は相変わらず騒がしいようだが、ここは穏やかなままだった。
不意に風が吹き、木々を揺らす。
木々のざわめきと風の匂いがアンセムを包む。
静かで、落ち着いていて、暖かい空間。
2人の意識が戻っていて、一緒にいれたならどれだけ安心できる場所なのだろう。
未だ意識が戻らない2人を見ながら考える。
ーこいつらはまがい物だー
あの魔術師の言葉が頭の中で何度も繰り返される。
いや、違う。この2人はまがい物などでは決してない。間違いなくアイリとグレン、その人なのだから。
それに自分はもう引き返せない。
世界の覇権を手にし、そしてー
そこまで考えてアンセムの思考は一瞬止まった。
頭をくしゃくしゃと掻きながら細かいことを考えるのはやめようと思った。
今はこの2人と過ごせる時間を大切にしよう。
「2度もひどいじゃないか。」
驚いて声のした方を向く。
そこには確かに先程地面に引きずりこまれて消えたあの男が立っていた。
「お前はしつこいやつだ。そうまでして何で俺に構うんだ?」
アンセムは臨戦態勢に入る。意識のない2人をかばうように立ち、周囲に再びスケルトンを展開した。
「くくく、君のことが知りたいのだよアンセム君。」
男がメガネの位置を直す。
「なぜ君は白魔導師の格好をしているのに、アンデッドを召喚できるのか。
なぜ君の仲間は先程から操られたかのような動きしかしていないのか。
なぜ君からは精霊の気配を感知できないのかー
なぜ、なぜ、なぜ…私の好奇心と探究心を君が刺激したのだよ。」