悪魔との攻防2
「アドルフ様!」
物陰から飛び出して来たのはギーゼラだった。
ギーゼラはアドルフに抱きついた。
彼女がどれほどアドルフを心配していたか、それは彼自身が彼女から伝わる震えで痛いほどわかった。
「すまなかったなギーゼラよ。だがこの勇敢な魔術師に助けられた。」
アドルフはちらっとペンドルトンを見る。
バルムンクによって体が真っ二つにされたペンドルトン。
そしてその先にはアーサー17世ヨハンが到底勇者とは思えない姿で倒れていた。
その傍らにはあの禍々しい魔剣も。
「………この男は、アーサー17世の仲間でしたわ。」
「やはりそういうことだったか。突然現れ、脈絡もなく我輩を助けるなど…
都合が良すぎるとは思っていたがな。
しかし味方同士で戦うとは…しかもなぜアーサーはあんなことに…不可解なことがありすぎる!」
アドルフは先ほどの魔術師とのやり取りを思い出した。
ーいいですか、アドルフ殿。私が合図をしたらその大剣で私ごとあの敵を薙ぎ払って下され。今私たちはあの敵、私、そしてアドルフ殿の順に一直線上に位置しております。
私があの敵の正面に位置している関係上、攻撃を感知しにくい。闇に呑まれ見境がなくなっている今が好機なのです!ー
「アーサーがあのような姿になったのはこの3年の間にそれほど大きなことがあったのでしょう…それにしても勇者とは思えない風貌ですこと。」
苦悶の表情で地面に伏すかつての勇者を見ながらアドルフは複雑な感情を抱いていた。
「しかしこの男、物陰からアドルフ様を狙っていたようですので、私が心臓に呪いをかけて手懐けたのですわ。
第一、アドルフ様が勝手にコロッセオを抜け出してアーサーを追わなければこのような危機に陥ることなどなかったでしょうに。」
ギーゼラがやや呆れ気味に言う。
アドルフは悪びれる様子を少し見せながら苦笑いした。
「何⁉︎そうであったのか!
しかし悪かったなあ、強者を見ると血が騒いでしまうのだ。こればかりはどうしようもないものよ。
それにしても恐ろしい。」
アドルフがアーサーの亡骸を一瞥する。
「このような姿になりながらも、確かにオーラはアーサーのものだった。
だが闇のオーラを纏ってから…まるで全く別の何かに変貌したようになってな。」
アドルフ達がいたコロッセオ外部はヨハンとの戦いによってまるで災害でも起きたかのような有様になっていた。
それが先の戦いの激しさを物語っている。
「まあ何にしても、後味の悪い終わり方ではあったが…これでアーサーのパーティは早々に退場か。」
「パーティは残り1人残っていますが…2人退場した時点でほぼ終わりですわね。」
2人はアーサーの変貌ぶりにいくらかの疑問を残したままその場を後にした。
だが2人は想像していなかった。
この戦いが終わってなどいないことに。