邂逅3
「ぐっ……がああ…」
頭の中の怨嗟の声が止まらない。失いそうな正気を持ち前の精神力で押さえ込んでいるがもう限界である。
飢えも最高潮まで達し、このままでは自我を失い闇に呑まれてしまう。
コロッセオでの戦いで教会のパラディンの行動がヨハンの中の魔物を刺激してしまったのだ。
あの戦いを、そして暴動を見続けたら自分の中の魔物が、抑えようのない意思の濁流が彼を飲み込んでいた。
ヨハンは自我を保つために暴動をかいくぐり会場の外へと出たがそんなことは無意味だった。
ー何ヲ躊躇ッテイルノダー
「やめ…ろ…ぐっ…」
ー命ヲ、命ヲ喰ラウノダー
ヨハンは無意識のうちに背中に掲げたダーインスレイブに手を伸ばした。
グリージャに用意させた代替の剣は彼には合わなかった。
いや、今のヨハンはダーインスレイブに魅入られていのだ。
ーソウダ、貴様ノ周リニイルノハ全テ贄。
喰ワレルタメダケニイルニスギンー
「待てえええええええい‼︎」
その時頭の中の怨嗟の声を振り払うかのような大声が彼の耳に響いた。
頭上から突然現れ、彼の目の前に着地したのはー
「貴様偉く様変わりしたな!
だがしかし‼︎この我輩の目をごまかすことはできんぞ、アーサー17世‼︎」
筋骨隆々の肉体、2mは超えるであろう体躯、その体躯に勝るとも劣らない存在感を放つ大剣、そうジークフリート14世アドルフだ。
「ぐっ…ジークフリートか…」
「いかに姿が変わろうと、貴様のオーラはそう簡単に消すことはできん!
かつて魔王討伐で我輩を出し抜き、魔王を倒した貴様とは、いずれ決着をつけようと思っていたのだ‼︎
ガハハハハハハ‼︎」
アドルフの声は魔物の声さえ振り払い、ヨハンの耳に届いた。だが既に自我を失いかけたヨハンには、彼の声さえ徐々に聞こえなくなりつつあった。
ー丁度イイ…目ノ前ニ極上ノ供物ガイル…
ソノ剣ヲ使エ…ソウスレバコノ苦シミカラ解放シテヤルー
「む⁉︎
アーサーよ聞いているのか⁉︎我輩と決着を着けるのが嫌だとでものたまうか‼︎
それよりも趣味の悪い剣だ!エクスカリバーはどうした⁉︎」
ヨハンの様子などおかまいなしにアドルフは続ける。
だが目の前のヨハンはゆっくりと顔を上げた。
「お望ミ通り…決着ヲつけてやろうじゃァないカ…お前ハ俺の供物だかラな」
その風貌は勇者のそれでは到底なかった。血のように鮮やかな真紅の左目、纏っているのは闇のオーラ、右手に持つは漆黒の魔剣。
「アドルフ…お前ノ命…喰らい尽くシてやル」