邂逅
「アイリ、グレン、こっちだ。こっちが安全だ。」
「アンセム待って!グレンがまだ来てないよ!」
「俺はここにいるぞ…アイリ…」
「わあ、びっくりした!いるならいるって言ってよー」
首都フィンガルト、コロッセオでの戦いー
第一試合が始まってまだ20分ほどだろうかー
その試合内容は凄惨極まりないものだった。
あまりの酷い光景に物見遊山で参加していた観客たちは暴徒化し、最早収拾がつかなくなってしまった。
アンセム達も試合を見ていたが、途中でコロッセオを後にした。その少し後でこの暴動が起きたのだった。
「でも早めに会場を出ていてよかったよ。あのままじゃ中は大変なことになってた。」
息を切らしながらアンセムが言う。
「暴動に触発されたものがさらに暴れる…暴動が暴動を呼ぶ…まさしく修羅場…」
グレンは相変わらず物静かだが一切の隙がないように思える。コロッセオから離れる最中にも常に周囲に気を張り巡らせていた。
3人はコロッセオの外、暴動が及ばないところまで退避していた。
「でもよかった!」
不意にアイリが言う。
「また3人で戦える日が来るなんて思わなかったよー!」
「あれから3年も昏睡状態だったとは…不覚…」
「………」
アンセムは何も言えなかった。
「くくく…成功だ!アンセムよ、お前は今から正真正銘ネクロマンサーとなったのだ!」
あの魔術師の工房が思えば全てのはじまりだったのかもしれない。
魔術師によるハーデスの召喚は成功し、アンセムはネクロマンサーとなった。
それだけではなかった。
「アイリ…グレン…まさか…これは現実なのか…?」
アンセムの目からは涙が溢れていた。
魔王討伐の最中に目の前でなくしてしまった大事な仲間が今こうして眼前にいるのだから。
目覚めたアイリとグレンは自分たちが既に死んでいるとは夢にも思っていない。
アンセムは2人に、『魔王討伐での戦闘中に魔物の攻撃を受けて、3年もの間昏睡状態に陥っていた。だが成長した白魔法で2人をようやく救い出すことができた。』という説明をした。
魔術師は横で不気味に笑っていた。
アンセムは変わらぬ2人に会えたことに大いに感動した。2人の目の前でアンセムは半日近く泣き続けた。
「そんな大嘘をよくもつけたものだな。その下らん見栄っ張りには尊敬の念さえ覚える…くくく」
「……2人は何も気づいていない。どのみち俺は普通の人生などもう望めないしな。なら、突き抜けるところまで突き抜けるさ。」
「この2人はハーデスからの贈り物だな。現世で最も理想の人生を送らせ、死後に終わりのない苦痛に貶めるためのな…ぶふふ」
魔術師がアンセムを脅すがアンセムは聞いていない様子だった。
「それよりハーデスの姿が見えないな」