開戦5
「俺はただ素早い剣技を得意としているわけではない。お前にかかっているのは重力を操作する魔法だ。指を動かすのにすら苦労するだろう?
相手の動きを遅くし、さらに高速の動きで反撃を許すことなく畳み掛ける!
それが『高速の剣技』たる所以だ‼︎」
さらにジェームズの攻撃が激しくなる。
イングリスは無抵抗のまま攻撃を受け続けていたが表情が歪な笑顔に変わった。
「くくく…お前ごときに俺の能力の一部を見せるのは癪だが…致し方あるまい。」
次の瞬間ジェームズの攻撃の手が止んだ。
高速で動いていたジェームズはイングリスの魔力が爆発的に増加したのを感知し警戒している。
「何だこの魔力は…」
ジェームズは目の前の男が放つ圧倒的な魔力を前に完全に立ちすくんでいた。
いやこれは魔力なのだろうか。
魔力とも違うような絶対的な力。
はっきりと感じ取ることができるのはイングリスと自分には決して埋めることのできない差があるということだけだった。
「⁉︎」
ジェームズが目の当たりにしたのは重力魔法で動くことすらままならないはずだったイングリスが立ち上がっている様子だった。
おまけに自分が与えたはずのダメージも回復している。
何より彼を覆う光のオーラがその強さを物語っていた。
この時ジェームズはイングリスが放っているものが魔力などではなく、神の加護の力、つまり聖なる力だと悟った。
「砂利の分際で俺に勝てるとでも思ったのか?
自分の剣技が中途半端だから魔法に頼っていたんだろうが、魔法剣士ごときが勇者を名乗るな。」
怒りを露わにしたイングリスが明確な殺意をもってジェームズに対峙した。
ジェームズは先ほどと同じように魔法をイングリスに使用した。
「低俗な魔法だな、返すぞ。」
次の瞬間ジェームズは地面にひれ伏していた。
魔法を反射されたのだ。
相手にかけたはずの重力魔法が自分自身に跳ね返ってきたことでジェームズは動くことができなくなった。
「ぐ…くそ、話が違う…‼︎」
イングリスが自分を見下ろしているのがわかる。そのオーラの前にいかに自分が小さな存在か痛感させられる。
ジェームズは死期を悟った。
自分の命はここで終わるのだ。強者を前に弱者が淘汰されるのは世の常。
その自然の摂理が自分の前に立ちはだかる。
「お前の雇い主は誰だ?」
イングリスが冷たく言い放つ。