正統なる勇者
魔物の断末魔が暗闇の中に響く。
黒い剣で体を真っ二つにされ、瞬く間に魔物は肉塊へと姿を変えた。
暗闇の中で男はひたすらに魔物を切り続けている。
背後からもう一匹の魔物が襲いかかってこようとしたが、男はすぐさま振り向き、持っていた剣で魔物の首をはねた。
すでにこの部屋の中は魔物の死体で溢れかえり、血の海になっていた。
部屋の中の魔物を全て切り伏せると、男は剣にこびりついた魔物の血と肉片を振り払い、周囲を見渡し大声で言った。
「こんなもので俺を殺せると思ったか!」
暗闇の中に男の声が反響する。さらに男は続ける。
「俺から全てを奪ったお前を殺すまで俺は死ねない!」
その時、暗闇の中から一人の男が姿を現した。男は小柄で黒いローブと、黄金の装飾が施された本を持っており、一目で魔術師とわかる風貌だった。
髪はややボサボサで、口元には髭をたくわえている。
「私の放った魔物たちをいとも簡単に切り伏せるとは!さすがは高名な勇者殿!」
男は大げさに身振り手振りをして話した。
それはまるで舞台に立つ演者のようだった。
「いや、元勇者殿、でしたかな」
魔術師がそう言うと、男の顔色が変わる。
「あなたはかつて勇者を体現したようなお方だった!だがあのようなことがあったのち、あなたは表社会から姿を消した」
「よせ、それ以上言うな。それにお前があいつの手のものでないならこれ以上構っている暇はない。」
男の髪は白く、目は左目が暗闇でも光る鮮やかな赤色をしており、右目は茶色だった。
刀身に禍々しい装飾が施された黒い剣を持っており、異様な雰囲気を漂わせていた。
これがかつての勇者だというのか。
「そうですか、残念ですなあ。それに私が誰であるかも興味をお持ちでないとは。」
男は髭を触りながら少し含みを持たせて言った。
「では、元勇者殿。あなたがお探しの方に会えるかもしれない…これで少しはご興味をもたれますかな」
「なんだと…」
元勇者が食いついた。魔術師は得意げに続ける。
「あなたが姿を消してから3年、世界は平和などとは程遠いところにある。それはあなたもおわかりでしょう。魔王や魔物を倒したところで、現状はあまり変わらないのです。」
元勇者は黙って聞いていた。元勇者の方をちらっと見て、魔術師はさらに続けた。
「今勇者機関は世界を真の平和へ導くため、ある計画を進行させています。あなたが魔王を倒した時のような、あの希望に満ちた世界を実現するためでございます。」
「どうするつもりなんだ」