聖騎士の矜恃5
チェスターは何度もイングリスに打ちのめされた。気を失ってもハンナに回復され無理矢理起こされた。
耐性を上げるため毒や痺れを引き起こす虫を毎日食べさせられ、ハンナの魔法を何時間も食らい、ある時は大火傷を負い、ある時は凍傷になり、またある時は電撃で1日100回以上失神した。
どれだけボロボロになろうとも決して死ぬことはなかった。
死ぬ寸前で必ず全回復され、また打ちのめされた。
死んだ方が楽だった。
勇者機関は忌むべき敵だと毎日刷り込まれ、彼の肉体的、精神的苦痛を勇者機関への憎しみとしてシフトさせていった。
朦朧とした意識の中で聖騎士としての誇りと勇者機関への憎しみだけがチェスターの中で増大していった。
そして2年後ー
「おやおや随分とたくましくなったな当主殿。お前はもう立派な聖騎士だ。」
「見違えたじゃないチェスター、見直したわ。」
2人から賞賛の言葉をもらったがチェスターはもはや何も感じていなかった。
「9世から頼まれた最後の仕事だ。君にこれを授けよう。」
イングリスが持って来たのは鞘に収められた剣だった。
だがそれがただの剣でないのは明らかだった。
「ゴドフロアに代々伝わる聖剣、不敗の剣クラウ•ソラスだ。」
チェスターはクラウ•ソラスから発せられる気配に気圧されることなく、剣を掴み鞘から引き抜いた。
その剣は刀身に呪文が施され、眩しいほどの輝きを放っているまさしく聖剣と呼ぶにふさわしい代物だった。
剣を引き抜くと、イングリスとハンナはチェスターに跪いた。
「ゴドフロア10世よ、今までのご無礼お許し下さい。クラウ•ソラスを手にした時よりあなたは我々の真の主となったのです。」
「チェスターの教育は終わったようだな。奴にはこれから当主らしい振る舞いをしてもらわねばならん。
魔王討伐の時に貸しを作っておいたおかげで教会側も戦いに参加できるのだ、この機会を逃すわけにはいかん。
そして此度の勇者同士の戦い、必ず生き延びてもらうぞ。」
ゴドフロア9世が一人ほくそ笑む。その先に見据えるのはチェスターの勝利か、はたまた教会の勝利か、それはまだ誰にもわからない。