聖騎士の矜恃4
「9世はあなたに相当期待しておられる。そのために私たちを呼んだのだ。
なので我々も最善を尽くすが、君にも最善を尽くしてもらうぞ、わかったな?」
トレミアの聖堂の地下にある訓練所。
イングリスはチェスターを睨みつける。
ハンナは眼鏡の位置を直しイングリスに話しかける。
「まだ17歳でしょう?
多少の無茶なら大丈夫よイングリス。魔王討伐に参加してたくらいなんだから。」
こいつらとは馴染めそうにない。
それになんでこんなに敵意で満ちているんだ?
チェスターを鍛えるという名目で地下の訓練所にやってきた3人だが先ほどとは2人の態度が一変した。
イングリスは威圧的な態度で、ハンナはその態度に戸惑うチェスターに冷たい視線を浴びせている。
「魔王討伐に参加したくらいで自信を持ったみたいだが…自惚れるなよ小僧。
俺はオーガやドラゴン、ギガンテスを数え切れないほど殺している。今のお前なら数秒で殺せる力があるんだよ。」
イングリスは裏拳で訓練所の壁を叩いた。
裏拳が叩き込まれた壁は彼の手を中心として大きくひび割れた。
「今ので15%ほどしか力を出していない。来たる2年後の戦いに備えて、当主殿にはこれから地獄を見てもらおう。
なあに、心配しなくてもいい。9世から既にお前を監禁して無理矢理にでも強くしろと命令が出ている。」
9世から頼まれたと言っているがイングリスの表情は悦びを隠し切れず震えている。
「チェスターくん安心してね、どれだけ瀕死になろうが私があんたを回復してあげるから。
それから逃げようとしても無駄よ、地上からこの訓練所までの通路は私の魔法で改造して逃げられないようにしてあるの、素敵でしょ?」
ハンナもまた悦びの表情を浮かべる。目がぎらぎらと光っている。
この時になってチェスターは気づいた。自分は当主として期待されていたのではないと。
自分は親であるゴドフロア9世が果たせなかった勇者機関への復讐のために利用されているのだと。
だがこの期に及んではもう手遅れだったのだ。
「まずは基本的な戦闘技術の上昇、それから耐性を上げるための訓練からだ。」
イングリスが歯を剥き出しにして笑う。
こんなに歪んだ笑顔は初めて見る。
横を見るとハンナもニヤニヤと笑っている。口角があがり不気味な顔つきになっていた。
「さあ‼︎構えろ小僧!」
地獄が始まった。